具体的には、高品質な単結晶試料を用意し、「第二高調波発生」(SHG)と発光の応答を計測。その結果、MDABCO-NH4I3が強いSHGおよび寿命の長いオレンジ色の発光を室温で示すことが観測されたとする。

  • 今回の研究の概要図

    今回の研究の概要図。MDABCO-NH4I3において、発光と強誘電性の2つの特性が観測された。さらに、励起光の偏光方向と強誘電分極方向が揃ったときに強い発光が現れることも判明した (出所:京大プレスリリースPDF)

SHGは物質の「空間反転対称性の破れ」に起因しており、発生したSHG光の偏光状態を調べることで、強誘電分極方向に関する情報を得ることができるとされており、実際、強誘電-常誘電相転移温度でSHG信号が消失することが確認されたという。

また、偏光分解SHG測定と偏光分解発光測定を組み合わせることで、強誘電特性と発光特性の関係が調べられたところ、励起光の偏光方向に応じた異方的なSHG信号が観測されたとする。

さらに、SHG測定を行ったのと同じ試料位置において、発光の励起光偏光依存性が測定されたところ、発光強度にも強い異方性が現れることが発見されたとするほか、複数の試料に対する光学測定と解析から、強い発光が現れる方向が強誘電分極方向とほとんど平行であることも判明。これらの結果は、1つの物質中で発光と強誘電性が共存し、それらが互いに相関していることを示しているという。

  • SHG光

    (a)SHG光および(b)発光強度の励起光偏光依存性。(c)左がSHG測定から決定された結晶方位で、右上が測定された単結晶の実空間イメージ。右下の赤色の矢印は結晶軸方向が、オレンジ色の矢印は発光強度の異方性の方向が示されている。強誘電分極はbR+cRと平行な方向を向いている (出所:京大プレスリリースPDF)

強誘電性と発光を単一の相で示す物質は珍しく、中でも異方的な発光特性を示す強誘電体はこれまで知られていなかったという。そのため、研究チームでは、今回の研究結果について、これらのユニークな特性が、有害な元素や希少な金属を用いてないMDABCO-NH4I3で得られたことは特筆すべき成果だとするほか、同物質は100℃以下の低温溶液プロセスで作製できるため、フレキシブルな形状のデバイスなど、さまざまな素子構造での利用が期待されるともしている。

なお、強誘電体では、外部から電場を印加しなくても物質中の電気分極の向きが揃っており、電場印加によってその方向を反転させることが可能であることから、この性質を利用することで、不揮発性メモリを開発することもでき、MDABCO-NH4I3であれば、光によるメモリ情報の非接触な読み出しといった応用ができる可能性も考えられるとしており、光学的特性と電気的特性との両立に基づく、新しいタイプの光電デバイス応用への展開が期待されるとしている。