東京大学(東大)は4月8日、ランタンとストロンチウムを含むペロブスカイト型鉄酸化物「La1-xSrxFeO3」の薄膜における反強磁性磁気構造の超高速な変化の観測に成功し、0.1ピコ秒ほどの極短時間で、反強磁性秩序が消失するというスピンのダイナミクスを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大 物性研究所(東大物性研)の山本航平大学院生(現・分子科学研究所助教)、同・和達大樹准教授(現・兵庫県立大学教授)、同・松田巌教授、独・ヘルムホルツセンター・ベルリン研究所の研究者らによる国際共同研究チームによるもの。詳細は、英物理学会と独物理学会が共同所有するオープンアクセスジャーナル「New Journal of Physics」に掲載された。
近年、スピントロニクスにおいて、メモリなどへの応用で広く使われている強磁性体に加え、反強磁性体の光誘起ダイナミクスが注目されるようになっている。反強磁性体は、そのマクロな磁化が消失していることにより、より高いエネルギー効率で超高速な光制御が可能であることが期待されているためだという。
そうした中、研究チームは今回、反強磁性を示す鉄ペロブスカイト酸化物薄膜における光誘起磁化ダイナミクスの調査を行うこととし、反強磁性相と同時に、高い価数のFeを持つという特徴を有するLa1/3Sr2/3FeO3薄膜とSrFeO3-δ薄膜を対象として研究を行うこととしたという。
反強磁性体はマクロな磁化が消失しているため、直接的な観測手段が限られていることから、今回の研究では、反強磁性秩序を直接的に観測できる共鳴軟X線散乱を用いた時間分解測定が行われた。
鉄酸化物の薄膜に対して軟X線時間分解測定が行われ、磁化の時間変化の様子が観測されたところ、La1/3Sr2/3FeO3の場合、レーザー照射(0秒)の後、時間分解能である0.13ピコ秒以内で反強磁性秩序が消失していることが確認され、鉄のスピンにおける光励起状態のイメージが得られたという。
また、SrFeO3-δ薄膜と比較して、より低い強度のレーザーで変化が起きていることも判明。鉄酸化物の薄膜において、超高速かつ低いエネルギーでの変化が起きていることが実証されたとする。
なお、研究チームでは今回の成果を踏まえ、今後の光によるスピンの制御やさまざまな物質の研究を通じ、それを応用した反強磁性体を利用した次世代のデバイス開発につながることが期待されるとしている。