九州大学(九大)と東京農工大学(農工大)は5月31日、分子デザインの観点から、巨大な表面電位(GSP)の大きさに加え、その極性も任意に制御した有機自発配向分極薄膜の作製に成功したことを発表した。

同成果は、九大 最先端有機光エレクトロニクス研究センターの田中正樹博士(現・農工大大学院 工学研究院 生命機能科学部門 助教)、同・Morgan Auffray博士(研究当時)、同・中野谷 一准教授、同・安達千波矢主幹教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学および材料工学全般を扱う学術誌「Nature Materials」に掲載された。

GSPを示す有機半導体薄膜は、有機半導体デバイスの特性に大きく影響するだけでなく、環境発電技術の一種である振動発電デバイス用のエレクトレットとしても利用できると報告されている。有機アモルファス薄膜における分子の永久双極子モーメント(PDM)が、膜厚方向に対して自発的に配向する「自発配向分極」のメカニズムを理解するとともに、GSPの大きさと極性を自在に制御することは、将来の脱炭素社会の実現に向けても重要な課題だという。

有機アモルファス薄膜においてGSPを発生させるためには、成膜過程で分子のPDMを同一方向に配向させることが必要とされているが、一般的には分子間の双極子-双極子相互作用により、隣接分子とは反平行のPDM配向がエネルギー的に安定であり、全体的な分極は打ち消されてしまう。そのため、意図的に分子を同一方向に配向させる分子設計・手法が必要とされていた。

そこで研究チームは今回、分子デザインの観点から、(1)分子内PDMの配向、(2)薄膜表面における分子の運動エネルギー、(3)分子の表面自由エネルギーを制御することを試みることにしたという。その結果、GSPの大きさだけでなく、その極性をも任意に制御した有機自発配向分極薄膜の作製に成功したとする。

  • 今回の研究で開発されたGSP材料

    今回の研究で開発されたGSP材料と、既知材料のGSPスロープの比較。今回設計された化合物は、3デバイ程度のPDMを有しているが、その大きさと極性を分子デザインにより制御することが可能 (出所:九大プレスリリースPDF)