米韓首脳共同声明に3回登場した「半導体」の文字

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、韓国の半導体企業、ハイテク企業、自動車企業などのトップを多数引き連れて訪米し、5月21日(米国時間)に米国のジョー・バイデン大統領と首脳会談を行った。

米ホワイトハウスから発表された米韓両大統領の共同声明には、「Semiconductor(半導体)」という文言が3回、また「Chip(チップ)」という文言が1回記されている。先だって行われた日米共同声明では、「半導体」という文言は「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」という文脈の中で1回のみ登場しているだけで、それと比べると米国政府が、すでにSamsung Electronicsに米国に最先端半導体工場を建てるように要請していることもあり、米国側から韓国側に半導体に関して、相応に突っ込んだ話がなされたものと思われる。

米国側が発表した英文の共同声明から、半導体がらみの1つ目の部分を抜き出してみると、

  • We commit to forging new ties on climate, global health, emerging technologies, including 5G and 6G technology and semiconductors,

と、日米共同声明で、両国が協力する4分野として挙げられた中になかった半導体の文字が入っている。また、5G/6Gに関しても、日米共同声明では、「5G及び次世代移動体通信網(6G又は Beyond 5G)を含む安全なネットワーク及び先端的なICTの研究、開発、実証、普及に投資することによって、デジタル分野における競争力を強化する」と具体的に記載されてはいたものの、半導体に関する言及はなかった。

また、2つ目の部分は、

  • we agree to cooperate to increase resiliency in our supply chains, including in priority sectors such as semiconductors, eco-friendly EV batteries, strategic and critical materials, and pharmaceuticals.

と記載されており、日米共同声明では「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と半導体だけが例示されていたのに対して、具体的な例示項目が増えていることがうかがえる。これは、韓国の複数の企業がEV向けバッテリーについて米国で投資を行っていること、ならびにDuPontが韓国に半導体材料のR&D施設と量産工場の建設を進めていること、さらにはSamsungグループの製薬企業であるSamsung BioLogicsが米Modernaの新型コロナウィルス向けワクチンの委託生産を行う契約を締結したことなどを反映しているものとみられる。

そして3つ目の部分は、

  • We also agree to work together to increase the global supply of legacy chips for automobiles, and to support leading-edge semiconductor manufacturing in both countries through the promotion of increased mutual investments as well as research and development cooperation.

と、レガシープロセスを中心とした車載半導体の供給拡大を両国が協力して進めていくこと、ならびに相互投資の促進と研究開発協力を通じて両国の最先端半導体製造を支援するために協力することに同意するとしている。こうした半導体産業に関する表現は日米共同声明にはまったく含まれていなかったことから、米国政府による半導体製造に関する韓国の半導体業界に対する期待が大きいことが感じられるものとなっている。

韓国企業が商務省との会合で米国に4兆円超の投資を表明

5月21日に開かれた米韓首脳会談の前段として、同日午前に米商務省で米韓ビジネスラウンドテーブルが開催され、文大統領に同行したSamsung、Hyundai、SK、LGといった経営トップ陣が、合計で4兆円を超える投資を米国に対し行う計画があることを明らかにしたと多くの海外メディアが伝えている。

具体的には、Samsung Electronicsは、すでに報じられている通り、最先端半導体ファウンドリ工場建設のために米国に170億ドル(1兆9000億円弱)を投資するというもの。ただし、今回も建設地については明らかにしなかった模様で、すでに半導体工場が設置されているテキサス州オースティンのほか、ニューヨーク州やアリゾナ州とも交渉しているようで、投資に対する補助金や税制優遇などインセンティブ交渉が各州および市当局と終わっていないこと、ならびに米国政府が進める米国半導体強化法案も連邦議会で審議中であり、助成金も未決定のため、建設地を含む詳細な投資内容を明らかにしなかったようである。

Samsungのメモリ分野でのライバルであるSK Hynixは、、シリコンバレーに人工知能(AI)、NANDアプリケーションなど、新成長分野の革新的研究に向けた大規模なR&Dセンターを10億ドル(約1100億円)で建設する計画を明らかにしたという。すでにSamsungはシリコンバレーのサンノゼ市に巨大なR&Dセンターを運営しており、それに続いた格好となる。また、同じSKグループのSK Innovationは、大手自動車メーカーFord Motorと提携し、EV用バッテリ製造に2025年まで53億ドル(約5800億円)投資することも表明したという。

また、LGグループのLG Energy Solutionは、大手自動車メーカーGeneral Motors(GM)との合弁法人に約2兆7000億ウォン(約2600億円)を投資し、新工場を建設するほか、5兆ウォン(約4800億円)以上を投じて独自の生産工場も建設することを明らかにしたという。

さらにHyundai Motor Groupは2021年から2025年までの5年間、米国での新たなEV組み立て工場の建設に向け74億ドル(約8000億円)規模の投資をする計画を明らかにしたという。

なお、文大統領は訪米に際し、韓国財閥系企業の米国投資情報をかき集めて4兆円越えの手土産を持って外交を行ったことになるが、これらはいずれも民間企業による独自の投資活動であり、韓国政府による投資ではない点に注意が必要である。