米国半導体工業会(SIA)は4月5日(米国時間)、米国の重要なサプライチェーンの確保に関するバイデン大統領の大統領令に応える形で米国商務省に51ぺージにわたるコメント(米国政府への要請事項)を提出したことを明らかにした。

SIAでは、半導体産業を維持するためのグローバルな半導体サプライチェーンの重要性を強調し、サプライチェーンのさまざまな脆弱性を特定したうえで、連邦政府に対して国内での半導体生産と半導体研究への投資に対するインセンティブを早急に制定するよう要請したものであると説明している。

SIAは提出書類の中で、世界の半導体サプライチェーンの現状を以下のように分析している。

  • 半導体製造能力の約75%と主要材料の多くのサプライヤは、地震や渇水、電力不足、そして地政学的リスクにさらされている地域である中国と東アジアに集中している。
  • 世界の高度なロジック半導体(10nmプロセス未満)の製造能力は、台湾と韓国のみであるが(台湾92%、韓国8%、それは健全なインセンティブと政府の支援によってなされたものである。
  • 1つの地域で市場シェアの65%以上を占めているような製品などがバリューチェーン中で50か所以上あるが、それらの地域のいくつかは、自然災害やインフラの寸断、または地政学的リスクによる混乱の影響からチップ供給が長期にわたって滞る可能性がある。
  • 地政学的な緊張は、特定の国で重要な技術、独自の原材料、ツール、および製品の重要なプロバイダーへのアクセスを損なう貿易制限をもたらす可能性がある。このような規制は、重要な最終市場へのアクセスを制限する可能性もあり、ビジネスの規模が失われ、高いレベルの研究開発と資本集約度を維持する現在の半導体業界の能力を損なう可能性がある。

筆者注:SIAは米国商務省による対中輸出制限に終始一貫して反対の立場をとってきている

また、サプライチェーンの脆弱性に対処するために、政府に以下のことを要請するとしている。

  • 国内の半導体製造および研究への対象を絞った連邦投資を制定すること。
  • 公平なグローバルな競争の場を保証し、知的財産権の強力な保護を保証すること。
  • 特に同盟国との研究開発、国際協力を促進すること。
  • 科学および工学教育へのさらなる投資、ならびに主要なグローバル半導体クラスターが世界で通用する人材を引き付けることを可能にする移民政策を通じて、人材不足に対処するための取り組みを強化すること。

SIAのプレジデント兼CEOであるJohn Neuffer氏は、「半導体は、米国の経済、安全保障、医療システム、デジタルインフラストラクチャの基盤であり、人工知能、量子コンピューティング、高度なワイヤレス通信など、将来の重要なテクノロジーにおける米国のリーダーシップにとって重要である」と半導体が米国の技術優位性を保つために重要であることを強調したうえで、「SIAは、バイデン大統領が米国の半導体サプライチェーンの強さと回復力を確保することに注力してくれることに感謝する。この取り組みの一環として、バイデン政権と連邦議会と協力して、国内の半導体生産とイノベーションへの連邦投資を制定し、米国が必要とする半導体の多くが米国内で製造されることを願っている」とコメントを発表している。

SEMIがバイデン大統領の半導体への500億ドル投資に謝意

またバイデン大統領は、約2兆ドル(約220兆円)をインフラ整備と雇用のために投資する計画を発表したが、その中で半導体製造に500億ドル、電気自動車に1740億ドル、高速ブロードバンド通信ネットワークに1000億ドルを投資する計画を掲げている。

この発表を受ける形でSEMIが、計画への歓迎の声明を発表。SEMIプレジデント兼CEOのAjit Manocha氏も、「過去20年間で米国の半導体製造能力が50%も減少してしまったが、これを逆転させるには、大胆な行動が必要である。バイデン政権が『米国雇用計画』を制定し、その中で業界を強化するために多額の資金を支援しようとしていることは、重要な前進である。CHIPS For America Act法に資金が提供され、米国の半導体サプライチェーンへの投資をサポートするための税額控除が制定されてはじめて、米国の新しい半導体製造工場が世界で競争できるようになる。優秀な人材獲得競争が成長を促進するので、この計画が労働力の強化に焦点を当てていることは、産業界を勇気づけてくれる」と述べ、米国政府による半導体産業強化に向けた施策に対する歓迎の意を示している。