菅首相は4月16日(米国時間、日本時間17日)、米バイデン大統領とホワイトハウスで首脳会談を行い、その後共同声明が発表された。「半導体」が大きな議論のテーマになるという日米両政府関係者からの事前の予告に反して、長文の共同声明文中に「半導体」という言葉は、「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」と1文が盛り込まれただけであった。

世界的な半導体不足の中、何らかの具体的な取り組みに言及することも期待されたが、サプライチェーンに簡単に言及しただけで、その詳細については打ち出されなかった。なぜだろうか。そこで、外務省が発表した日米共同声明の訳文および2件の付帯文書の訳文を「半導体」の見地から読み解いていってみたい。

今回の共同声明文には、新興技術開発に関する両国の協力に関して以下のような記述がある。

「日米両国は、デジタル経済及び新興技術が社会を変革し、とてつもない経済的機会をもたらす可能性を有していることを認識する。日米両国は、生命科学及びバイオテクノロジー、人工知能(AI)、量子科学、民生宇宙分野の研究及び技術開発における協力を深化することによって、両国が個別に、あるいは共同で競争力を強化するため連携する。菅総理とバイデン大統領は、第5世代無線ネットワーク(5G)の安全性及び開放性へのコミットメントを確認し、信頼に足る事業者に依拠することの重要性につき一致した」

このように、両国が協力を深化させる分野としては、「生命科学およびバイオテクノロジー」、「人工知能(AI)」、「量子科学」、「民生宇宙」の4つが挙げられている。いずれの研究にも半導体技術は不可欠なはずだが、具体的に半導体に踏み込んだ記述は見当たらない。半導体という言葉が出てくるのは、以下の1文である。

「日米両国はまた、両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」

英語の原文では「We will also partner on sensitive supply chains, including on semi-conductors,promoting and protecting the critical technologies that are essential to our security and prosperity」と記載されており、微妙な問題なので取り扱いに慎重を期す必要があるということでこうした表現になったのではないかと思われる。

実は現在の日本の半導体産業は、中国との関係だけではなく、米国との関係も微妙である。例えばMicron TechnologyとWestern Digitalが図ったかのようにまったく同じタイミングで、キオクシアの買収を検討しているという報道が出てきている点がそれを示している。米国務省による米国半導体製造強化の意向を汲んだ動きとみる向きもある。

また、この「日米共同声明」全文のほかに、実は2件の付帯文書が同時に発表されている。いずれも外務省のWebサイトに記載されているが、1つ目の文書が「日米気候パートナーシップ」で、2つ目の文書が「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」とされている。

付帯文書1には半導体に関する事柄は含まれてはいないが、付帯文書2には、半導体に関する事柄がいくつか記述されている。

1つ目は「5G及び次世代移動体通信網(6G又は Beyond 5G)を含む安全なネットワーク及び先端的なICTの研究、開発、実証、普及に投資することによって、デジタル分野における競争力を強化する。この取組に米国は25億ドルを、日本は20億ドルを投ずる」というもの。

5/6Gの研究開発推進に向けた日米の協業分担金が明示されたもので、中国に後れをとっている日米の基地局サプライヤを支援する意図が見えるが、合計5000億円にも満たない資金と人材で、先行する中国勢に追いつき、追い越せるのかは不透明感が残る。

2つ目は「半導体を含む機微なサプライチェーン及び重要技術の育成・保護に関し協力する」というもので、共同声明本文の内容を繰り返しているだけのもの。

この表現は、おそらく日本側の主張で中国を刺激するようなサプライチェーンに関する表現を避けたものとみられるが、米国政府も中国に対抗したくてもそれがなかなかできない国内事情を抱えている妥協の産物と思われる。というのも、米国半導体工業会(SIA)やSEMIをはじめとする多くの米国の業界団体は、米国政府による対中制裁に何度も反対を表明し、書簡を送るなどの動きをしてきた。というのも、先般発表されたSEMIの2020年の半導体製造装置市場の国・地域別売上高を見てもわかる通り、多くの米国企業にとって、中国はもっとも成長著しい魅力的な市場で、この市場を失うことは死活問題といえるためである。半導体製造装置に関して言えば、世界シェアの過半を握る米国半導体製造装置企業が中国勢に売りまくった結果、中国が最大市場になっていると言える。

日本がいまだ強みを発揮している装置・素材に関しては、「サプライチェーンを連携する」などと改めて述べなくても、十二分の貢献しているのは、先にIntelが発表した2020年度の優秀装置・材料・サービスサプライヤ表彰に多数の日本企業が含まれていたことからも見て取れる。

一部のメディアでは、「(半導体装置・材料の)サプライチェーンの連携に関しては具体的な協力の進め方については今回打ち出されず、今後協議する見通し」としており、それが事実であれば、その動きを待つしかないが、中国勢がその間、待ってくれているとは限らないことを考えれば、悠長なことを言っている余裕はないはずである。