Xilinxは、医療機器向けにSline.aiと共同でAWS上で動作する深層学習モデル、およびこれが動作するリファレンスキットを発表した。これに先立ち、同社の医療機器部門のSubhankar Bhattacharya氏より同社の医療機器向けビジネス全般を含んだ説明が行われたので、この内容をまとめてご紹介したい(Photo01)。
Xilinxはいくつかの分野に深く入り込んでいるが、その1つが医療機器向けである。例えばCT Scanner。CTは、いわば人体を輪切りにする形でX線を当てて撮影を行う技法だが、X線源/X線スキャナそのものは1箇所(スキャナを多数並べたものもあるが、ここでは措いておく)であり、このX線源とスキャナをぐるぐる回して断面撮影を行う事になる。ただ個々の撮影の結果は言わば1次元であって、これを2次元画像にするために再構成(Reconfiguration)という処理が必要である。このReconfiguration、原理は簡単ながら計算量が膨大であり、ここにFPGA(それもVirtexクラスのハイエンド)が長らく利用されてきた。
もちろん、こうした用途向けに現在も広く利用されているが、昨今はAdaptive Computingをもっと積極的に活用する方向に進化しつつあるとする(Photo02)。
そこで最初の話題であるが、XilinxはSpline.AIと共同で、AWS上で稼働するヘルスケアAIを開発したことを発表した。これは胸部X線のデータを利用した診断システムで、医師の迅速な診断の助けとなるものである。AWSということで、Greengrassを利用することで、オンプレミスでも動作するのがポイントとなる(Photo03,04)。
リファレンスデザイン(正式名称は[「Xilinx Zynq Ultrascale+ Healthcare AI Starter Kit」(https://devices.amazonaws.com/detail/a3G0h0000087vZwEAI/Xilinx-Zynq-UltraScale+-Healthcare-AI-Starter-Kit)]は、同社の「Zynq UltraScale+ MPSoC ZCU104 Evaluation Kit」をベースに、今回のヘルスケアAIのソフトウェアスタックを組み合わせたパッケージで、これを利用することで将来の臨床放射線アプリケーションを容易に構築できる、としている。
もちろん、これ以外にも多くの用途でFPGAが採用されている(Photo05)訳だが、Bhattacharya氏によれば2016年以降はSoCとしての採用が急激に増えた結果として、ヘルスケア部門の収益の伸び率が従来の2.5倍になったとしている。
実際ハンドヘルドタイプの超小型超音波診断システムがZynqベースで構築された例もあるそうだ。ただ大きなトレンドとして、これからはデバイスがConnectedになる関係でセキュリティをより重視する必要があるし、AI Inferenceの活用に伴いプライバシーの問題なども出てくる(Photo07)。
特にセキュリティの問題はプライバシーとあわせてかなりクリティカルである。自動車と同じで、例えばハッキングされて悪用されたりすることで、直ちに患者の容態が悪化したり死亡したりするリスクがあるからだ(Photo08)。
こうした要件に対する1つのソリューションが、AvnetのUltra96 v2をベースにしたデモである(Photo09)。
これそのものは心拍数とECG(心電図)を記録する簡単なもので、そこには別に目新しさは無いのだが、特徴はSecure ModeとAir-Gapped Modeを持つ事である。Secure Modeはいわゆるセキュアマイコンそのものの動作であり、すべての動作をセキュアに行う、Connected Deviceそのものである。これに対してAir Gapped Modeは、ネットワークも途絶させ、USBも使えなく、パッチも当てられないという、一昔前のStandalone Deviceとして動作するような形である。必要に応じてこうしたAir Gapped Modeを組み合わせる事で、安全性を確保できるというものだそうだ。
また医療機器向けのAI推論に向けたさまざまなツールやライブラリを同社は提供しているが、特にCOVID-19の流行以降は新しいソリューションのニーズが急激に高まったとしており(Photo10)、こうしたトレンドに向けて同社のソリューションが広く利用されることが増えたという。特にAlveoを利用して、既存のPCベースのシステムをFPGAベースに移行するケースが何例があったそうで、こうしたことを含めて今後も同社は医療/ヘルスケア向けに広範なソリューションを提供してゆく、とした。