米国商務省は8月17日(米国時間)、新たに38のHuawei子会社が含んだエンティティリスト(輸出禁止企業一覧)の最新改訂版を発表した。また世界中のサプライヤが、米国のソフトウェアや製造装置を用いて設計・製造された半導体製品およびコンポーネント(従来から制限されていた特注品に加えて汎用標準品を含む)をHuaweiおよびその子会社に提供することも禁止した。この動きを受けて、市場調査会社であるTrendForceは、こうした制裁措置が半導体全般、半導体メモリ、スマートフォン(スマホ)、ディスプレイパネル、5G通信の5つの産業分野に与える影響について分析を行った結果を公開した。

Huawei以外の中国顧客への売り込みが続く半導体

MediaTekは今回のHuaweiへの追加制裁が発表された後、Huaweiにスマホ向けアプリケーションプロセッサ(AP) SoCの出荷ができなくなったが、同社はその後、2021年のターゲット市場としてHuawei以外の中国ハイエンドスマホを検討しており、5G APにおける市場シェアを高める可能性があるという。また、清華紫光集団傘下のファブレスUnisocのAPも中国スマホブランドのエントリーモデルに多数採用される可能性があるという。

また、RF ICメーカーの台Richwaveと中国を拠点とする指紋センサメーカーのGoodixならびにSileadはHuaweiへの納入比率が比較的高い。これら3社のうち、Richwaveは、米国のテクノロジーを含まない新しいWi-Fi 6製品の出荷を継続する可能性があるという。一方、Goodixは、製品ポートフォリオの一部である光学FoD(フィンガープリントオンディスプレイ)チップをほとんど8インチのファウンドリにアウトソーシングしており、米国のテクノロジーを排除することの難しさが指摘されており、大きな影響を受ける可能性があるという。

台Novatekと中FocalTechは、HuaweiのTDDIの主要サプライヤである。Novatekは多様な顧客と製品ポートフォリオのおかげで、米国の制裁強化の影響は限定的なものになると考えられている。一方のFocalTechは、中国市場に重点を置いているため、短期的にはかなり大きな影響を受けることが予想されているが、他の中国クライアントからの注文を増やすことで、Huaweiによる減少分を埋め合わせることができる可能性がある。

TrendForceでは、2020年のCMOSイメージセンサ市場について、主軸であるスマホならびに自動車市場が低調であることから、売上高を前年比1.3%減とする予測を出していたが、今回の制裁強化を受け、ソニーのカメラモジュールがHuaweiに出荷できなくなったことを加味し、同1.5%減へと下方修正している。

また、ファウンドリに関しては、TSMC、SMIC、そして化合物半導体に特化した台Win SemiがHuaweiからの受託規模上位3社とされているが、TSMCはすでに9月13日までにHuaweiへの出荷を停止することを明らかにしている。一方で、Appleをはじめとするほかのクライアントからの注文が殺到していることもあり、業績は維持できる見込みである。今後はSMIC、Win Semiも今回の措置にしたがってHuaweiへの出荷を停止せざるを得ないこととなる見通しとなっている。

Huawei以外のスマホベンダへの拡販を狙うメモリ

ほとんどのDRAM/NANDは標準製品であり、メモリサプライヤ各社は、Huaweiに振り分ける予定であったこれらの製品をほかのクライアントに振り分けることで対応しようとしている。

また、Huaweiのメモリに対する需要はXiaomi、OPPO、Vivoなどほかの中国メーカーと同程度であり、これらの企業がHuaweiのシェアを引き継ぐことが期待されており、世界的に見れば、メモリに対する需要に大きな変化はない見込みだという。

2021年にHuawei製品が激減する可能性がでてきたスマートフォン

TrendForceは、Huaweiの既存の在庫と9月13日まではHuawei仕様の半導体の供給を引き続き受けられるという想定に基づいて、2020年にHuaweiが生産するスマホを1億9000万台との予測を維持している。

しかし、2021年にHuaweiが生産するスマホの台数は3000~5000万台と見ており、その減少分をXiaomiやOPPO、Vivoなど別の中国メーカーが補うものと予想している。ただし、もし半導体サプライヤが米国商務省からライセンスを取得し、Huaweiへの出荷を再開できれば、2021年におけるHuaweiのスマホ生産台数は1億台を超す可能性もあるともしている。

Huaweiの需要減で有機ELの価格下落の可能性

ディスプレイパネル産業は、Huaweiからのパネル調達が減少することを考えると、残されたスマホメーカーからの受注獲得が激化するため、それに伴い有機ELパネルの価格下落が加速する可能性があるという。

また、HuaweiはAppleに続くスマホ向けLTPS(低温ポリシリコン液晶)パネルユーザーであるため、LTPSパネルサプライヤにも圧力がかかる可能性が高い。ほかの中国スマホメーカーからの引き合いの増加も期待されるものの、各社ともに独自の製品戦略を立てていることもあり、Huaweiへの供給分が減少して生じた需給のギャップを完全に埋めることができない可能性があるという。

在庫の積み増しで5G基地局需要に引き続き対応を図るHuawei

米国は、長期にわたってHuaweiに対する制裁を行ってきたが、実際に禁止される時期は発表から時間が空いていることもあり、Huaweiがサプライヤ各社から必要なコンポーネントを入手できなくなる最悪のシナリオを想定して準備するのに十分な時間を与えてきたといえる。

例えば、Huaweiは長いライフサイクルを持つ製品である基地局向けチップを大量に購入したことが挙げられる。これによりHuaweiの5G基地局用チップの在庫は、2021年まで十分にあると推定されている。

現時点では、Huaweiは自社開発のTiangangチップを、5G基地局AAUおよびBBUのベースバンドチップに使用しているが、これらのチップは、主にTSMCの7nmプロセスを活用して製造されてきた。TSMCが、Huaweiへのこれらのチップの供給を停止した場合、Huaweiの5G基地局の出荷に直接的な影響を及ぼすこととなり、米国政府の狙い通りに中国のモバイルネットワークオペレーターの5Gネットワーク展開に遅延をもたらす可能性もあるが、それはHuaweiがどの程度5G基地局用チップの在庫を積み増したかによるところが大きいといえる。

Huaweiは、2019年に米国政府が米国製品の輸出規制をかけるまで、基地局コンポーネントに関して米国のサプライヤに大きく依存していた。しかし、2019年以降は村田製作所や住友電工からも購入を進めるなど、RFコンポーネントの米国サプライヤへの依存度を下げる取り組みを進めてきている。また、Huaweiの光通信サプライチェーンは、米国のテクノロジーに大きく依存していないことから、米国が進めている制裁措置の影響はそれほど受けない模様だ。