中国は2005年より現在まで、世界最大のIC消費国であるが、中国国内で製造されているICの生産額は中国のIC市場の1割程度でしかなかった。そこで、世界一の製造大国を目指す中国政府は、「中国製造2025(Made in China 2025)」というものづくりに関する国家方針(ロードマップ)を掲げ、その中で、半導体自給率を2020年までに40%、2025年までに70%に引き上げるという目標を示した。この目標実現のため、巨額の補助金を使って地方政府と一体となって半導体自給自足体制を確立しようとしてきた。

中国の半導体自給自足目標は困難に

IC Insightsはこうした中国での動きについて、「向こう5年間の中国の投資計画の規模が非常に大きいことを考えると、中国はIC輸入への依存度を低くするという戦略はある程度成功するだろう。しかし、中国が外国半導体企業を買収して技術導入を図ろうとしても米国はじめ各国政府が厳しく規制しており、さらには、中国の新興半導体メーカーが将来直面する可能性がある法的な課題(同社は具体的に述べていないが、例えば中国企業が生産する半導体製品への海外先進企業からの特許侵害訴訟など)を考えると、『中国製造2025』の達成レベルは目標値をはるかに下回るだろう」と同社の年次半導体市場動向調査レポート2019年版で述べている。

そんな同社の最新の調査によると、2018年の中国国内におけるIC生産額は238億ドルで、これは同年の中国のIC市場規模(1550億ドル)の15.3%に相当し、5年前の12.6%からは2.7ポイントの増加となっている。

IC Insightsは、中国国内のIC生産額は2023年に向けて年平均成長李15%で増加すると見ており、2023年には、470億ドルに達すると予測している。この間、中国IC市場の規模は年平均成長率8%で拡大し、2023年には2290億ドル規模に達すると予測されているため、2023年時点での自給率は20.5%と計算されるが、中国製造2025の目標には遠く及ばない。「2023年の中国国内のIC生産額は、全世界のIC市場(IC Insightsの予測では5714億ドル)の8.2%に過ぎない。中国半導体メーカーの多くがファウンドリであることを考慮しても10%に過ぎない」とIC Insightsは述べている。

  • 中国半導体市場の規模と国内半導体生産額の推移

    中国半導体市場の規模と国内半導体生産額の推移 (出所:IC Insights)

中国での半導体生産額の過半を占める外資系企業

また、YMTCやCXMTなど中国の地元の新興メモリ企業によって新たなIC生産が始まっても、今後も外資系企業が中国のIC生産拠点の大部分を占めるとIC Insightsはみている。

つまり、2023年の中国におけるIC生産額の少なくとも50%が、SK HynixやSamsung Electronics、Intel、TSMC、UMC、GLOBALFOUNDRIES、および(近い将来に参入するとされている)Foxconnのような中国に半導体製造工場を持つ外国企業によるということである。

例えば、無錫にあるSK Hynixの300mmファブの生産能力は、2018年12月時点で月産20万枚と、同社ファブ中で最大の生産能力を持っている。

また、大連にあるIntelの300mmファブ「Fab 68」は2010年10月下旬からチップセットなどの生産を行ってきたが、2015年第3四半期にいったん閉鎖され、3D NANDフラッシュメモリ製造用に変換するための装置の入れ替え工事が2016年第2四半期後半に完了した。 2018年12月時点のIntelの大連300mmファブの生産能力は、月産7万枚である。

Samsungも中国の西安にNAND製造のための300mmファブ建設を2012年初頭に韓国政府から承認を得て、2014年第2四半期から生産を開始した。同工場への第1段投資は23億ドルであったが、その後も継続して投資が行われ、その総額は70億ドルに達している。このファブは2018年12月時点で、月産10万枚の生産能力を有している。同社は将来、月産20万枚まで生産規模を拡大する予定だという。

今後5年間にわたり、ファウンドリであるSMICやHuahong(華虹)Group、メモリのスタートアップであるYMTCやChangXin Memory Technologies(CXMT)など地元資本の中国メーカーからも自給率向上への寄与が見込まれている。ただし、DRAMスタートアップであるJHICCは、米Micron Technologyの台湾子会社からUMC経由で製造技術を盗んだ容疑でMicronから提訴されており、米国による米国製半導体製造装置輸出禁止措置で、ファブが稼働中止状態にある。Applied Materials/Lam Reserch /KLA Tencorの3社の技術者は措置発令の翌日には引き上げてしまったので、現地中国人の手では装置が立ち上げられないという。

一方、台湾に本拠を置くFoxconn(鴻海)は、中国本土(広東省珠海市)でのIC生産を目指しているとされる。IC Insightsは、先述のレポートの中で「Foxconnが、ファウンドリサービスを提供するとともに、TVチップセットとカメラ用イメージセンサを製造するため1兆円規模のファブ建設を発表した」と述べているが、この情報は日本経済新聞が鴻海からコメントを取れぬまま「最終調整に入った」と伝えただけのことで公式発表ではない。製品項目については、Nikkei Asia Reviewを含む海外メディア(台湾、中国、米国など)が上記の2品目に加えてIoT向けの多彩なセンサを製造すると伝えているが、Foxconnは、本稿執筆時点では、公式に何も発表しておらず、シャープの現在の半導体製品ラインアップからの憶測によるものであろう。