国内の推定患者数は約10~20万人と言われる「乾癬」。慢性の炎症性の自己免疫性の皮膚疾患であり、頭部や四肢伸側、腰臀部などで見られやすく、20歳代から50歳代に多く、男性は40歳代、女性は10歳代にピークがあるほか、男女比は2:1、症状が悪化すれば爪の変化や関節症状などを伴うこともあるとされる。

乾癬の概要。頭やひじ、臀部、ひざなど圧力がかかりやすいところに出てくるほか、近年、男女で出てくる場所に違いがあることなどもわかってきたという (以降、スライド画像はすべて森田教授のメディアセミナー発表資料より抜粋)

乾癬は、遺伝的素因にストレスなどのさまざまな環境因子が加わることで発症するとされるが、その詳細はまだ解明されていない。治療法としては、従来、ステロイドやビタミンD3などの外用薬を塗布する「外用療法」、紫外線(UV)を照射する「光線療法」、免疫の異常に働きかける薬を服用する「内服療法」が症状の進行状況や患者の体質などを踏まえて用いられてきたが、近年、4つ目の治療法である「生物学的製剤(抗体療法)」の活用に注目が集まりつつある。

名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学 教授で、第30回日本乾癬学会学術大会の会長を務める森田明理氏

2015年9月4日~5日にかけて、愛知県名古屋市にて「第30回日本乾癬学会学術大会」が開催されるが、それに先立って開催されたメディアセミナーにて、第30回日本乾癬学会学術大会の会長を務める名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学の森田明理教授が注目を集めつつあるそうした生物学的製剤を用いた治療の意義などを語った。

生物学的製剤は簡単に言えば、免疫機能などに関与する情報の伝達を行うタンパク質で、免疫異常や炎症などを引き起こす物質なども存在することが知られている「サイトカイン」に対し、その作用を抑制する薬剤を投与することで、症状を抑えることを可能とするもの。

生物学的製剤がターゲットとするのはTNF-αと複数のインターロイキン。これらの産生を抑えることで症状を抑えようというのが生物学的製剤(抗体療法)による治療となる。こうしたサイトカインを標的にした治療方法そのものは、かなり昔から研究が進められてきており、安全性などの知見も積み上げられてきている

日本での乾癬への生物学的製剤の利用が可能となったのは2010年からで、最初に「TNF-α(Tumor necrosis factorα:腫瘍壊死因子)」を標的とした「アダリムマブ」および「インフリキシマブ」が、2011年からインターロイキン-12(IL-12)やインターロイキン-23(IL-23)を標的とした「ウステキヌマブ」が、そして2014年12月にはインターロイキン-17A(IL-17A)を標的とした「セクキヌマブ」がそれぞれ承認されている。

現在、承認されている4種類の生物学的製剤

森田教授は、「乾癬の治療の流れとして、外用、光線、内服、そして生物学的製剤という順番で治療が施されている場合が多いが、乾癬の範囲が広がり広範囲になっていくと、治りにくくなったり、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心血管疾患といったへ依存症の合併の可能性が高くなる」としており、治療の早期開始と治療選択から治療指針を考える必要性を強調する。また、「乾癬は他人に感染しない皮膚病であり、死に至る病などに比べれば重くないという人もいるが、患者のQOL(Quality Of Life:生活の質)は、身体的な要素としては心筋梗塞や2型糖尿病患者と同等の負担がかかっているほか、精神的な要素としても、がんや関節炎と同程度の負担がかかっている」とし、決して気軽に考える病気ではないとした。

乾癬はさまざまな病気を併発するリスクを高めることがわかっている。例えば心筋梗塞の発症リスクは若い人ほど高いことが分かっており、軽症であっても、そうした傾向があることも判明している。こうした併存病の存在や、身体の表面に広がることによってどうしても見た目を気にせざるを得ない、といったこともあり、QOLのスコアは健常者が思う以上にかなり低いものとなっている

現状、生物学的製剤が高い治療効果を発揮していることが確認されており、こうしたQOLの改善につながることから、「より高い治療目標を目指せるようになった。今、目指しているのは、患者が生活する上で、ほとんど気にならなくできるようにすること」(同)とする一方、乾癬患者が併存症を引き起こしやすい点から、医者側としても、血圧を調べるなど、薬剤の投与前の全身検索を実施することを習慣づけることも必要とする。

現在、乾癬診療の際には、基本的な患者情報のみならず、血液検査なども行うことで、併存症の発見などにつなげ、より適切な治療へと結びつける努力がなされている

また、どういった指針で治療を行っていくか、世界各国でガイドラインがもちろん存在するが、生物学的製剤が一般的に利用できるようになってきたことを踏まえ同氏は私案としながらも、「局面型乾癬については、従来療法で効果がないと思われたら、重症であればあるほど早期から、生物学的製剤を利用するといったアプローチをとるのが良いのではないかと思う」とし、患者のニーズや皮疹の量、病態にあわせて判断をしていく必要があるのではないかとした。そうした反面、「生物学的製剤はまだ高いため、どう使ってもらうかが課題」ともしており、積極的に生物学的製剤を採用していく一方で、効果が出てきたら光線や内服、外用によって病態のコントロールなどを行う時代が到来してくれることを願うとコメント。自身も医師として、治療レベルと診療レベルを向上させていくことで、患者の生活を支援していくことを目指すと抱負を述べていた。

森田教授の局面型乾癬に対する治療方針の私案。従来療法を第1選択とするが、効果を早期に見極め、第2選択として生物学的製剤を活用するアプローチとなっている