日本原子力研究開発機構(JAEA)は5月21日、高速回転運動する物体中の原子核スピン情報を測定する手法を開発したと発表した。

詳細は、応用物理学会誌「Applied Physics Express」のオンライン版に掲載された。

約100年前、アインシュタインは鉄の棒に帯びさせた磁気の量を変化させることで回転運動が誘起される現象を発見した。これは、物質の持つ磁気的性質と回転運動の間に密接な関係があることを示唆しており、その後の量子力学の発展によって、素粒子のスピンと呼ばれる性質を通じて、磁性と回転運動とが結び付くことが分かった。

ミクロの世界を精密に記述するための基礎理論である量子力学を基盤として、機械工学をナノ領域に発展させたナノメカニクスの世界では、現在、個々の素粒子のスピンを制御することによって物体を回転させるといった、既存のモータとは全く異なる原理で作動するナノサイズのモータの実現が期待されている。また一方では、磁場中に置かれた原子核スピンの様子から、原子の化学結合状態を分析する手法として核磁気共鳴法が確立され、これを応用した核磁気共鳴画像法(MRI)が現在、医療分野で広く利用されている。

今回、研究グループは、測定用の電気回路を組み込んだ装置を開発するなど、核磁気共鳴法を独自に発展させ、1秒間に1万回転する物質中の原子核スピンを分析する手法を開発した。これにより、高速回転運動が素粒子のスピンへ与える効果を直接測定することに成功した。

この成果によって、かつてアインシュタインらが見出した磁性と回転運動の関係を、量子力学的な観点から様々な種類の原子核の回転運動に対する応答を本格的に分析することが可能となり、今後、物体の回転運動を用いてスピンを制御するナノメカニクス研究の加速が期待されるとコメントしている。

(左)高速回転電気回路の概略図。高速回転するカプセルの中にコンデンサと内側誘導コイル、測定コイルから構成される電気回路を挿入する。外側誘導コイルと内側誘導コイルは機械的に切り離されている一方で、電気的には結合しているため、高速回転を実現しつつ、試料に電磁波を誘導できる。エアタービンに圧縮空気を吹き付けることで高速回転を行う。(右)測定に使用した高速回転電気回路と回転カプセル