東北大学は1月29日、「単結晶ドメイン」中にナノサイズのガラス粒子が寄生することで実用レベルに達する高い透明性を有する「ガラスセラミックス(結晶化ガラス)」の作製に成功したと発表した。

成果は、東北大大学院 工学研究科応用物理学専攻の山崎芳樹大学院生(現・産業技術総合研究所研究員)、同・高橋儀宏助教、同・藤原巧教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月28日付けで英国オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

セラミックスは主に酸化物の機能性結晶からなる多結晶体であり、構造材料から光・電子デバイスまで広く利用されている。デバイスの小型化・高性能化に伴い、結晶のナノサイズ化に向けたナノ結晶の形成メカニズムの研究が精力的に行われているところだ。

その中で、酸化物ガラスから熱処理などにより機能性結晶を析出させる「結晶化ガラス法」は析出結晶の種類や結晶サイズの制御が可能なことから、強誘電体や固体電池材料の合成法として注目されている。

通常は、結晶の組成そのものではガラス化することは困難なために、安定なガラスを得るために「網目形成酸化物」を添加する必要がある。この添加成分は機能性結晶にとって異質/過剰であることから、目的結晶以外の結晶(副相)の析出や過剰なガラス成分からなる「海島構造」などの形成が避けられない。

これらは、不均一構造や光散乱による不透明化「失透」など、結晶化ガラスの材料特性を大きく低下させる要因となる。そこで結晶の機能性を十分に発揮するためには、従来とはまったく異なる組織構造を有する結晶化ガラスの創製が必要となるというわけだ。

典型的な網目形成酸化物である「SiO2」から構成されるフレスノイト「Ba2TiSi2O8」結晶は、優れた誘電および光学特性を有することが知られている。今回の研究では、その派生結晶である「Sr2TiSi2O8」に対して、SiO2が過剰となる組成「35SrO-20TiO2-45SiO2」を有する「非化学量論組成ガラス」を前駆体とすることで「完全表面結晶化」ガラスの開発に成功し、その形成メカニズムの解明が行われた。

完全表面結晶化とは、ガラス試料外側の各表面から結晶化が起こり、それらの結晶成長が試料内部で衝突するまで進行することを意味する。結晶化後に残存するガラスによって、表面近傍で結晶成長が停止する通常の表面結晶化に対して、この完全表面結晶化は特異な現象であるといえる。

画像1(左)は、フレスノイト型Sr2TiSi2O8単相からなる完全表面結晶化ガラスおよびその前駆体ガラスの外観。画像2(右)は、完全表面結晶化ガラスの断面の光学顕微鏡写真。柱状ドメインの幅はおよそ10μm

この完全表面結晶化ガラスはフレスノイト型Sr2TiSi2O8のみが結晶化しているが、前述のように前駆体ガラスの組成はSiO2過剰であることから、結晶化後は残存ガラスと析出結晶の界面による光散乱が試料の透明性を低下させると考えられる。

しかし、得られた完全表面結晶化ガラスは1mm厚で99%以上の透過率に相当する高い透明性を有することが実証されており、緻密かつ高度に配向したドメイン構造が実現した。

過剰なSiO2の行方を突き止めるため、完全表面結晶化ガラスの結晶ドメイン領域を透過型電子顕微鏡による精査を実施。その結果、およそ10.20nmの大きさを持つ粒子を単結晶ドメイン中に多数発見し、さらにこれら粒子は電子回折などによりSiO2過剰の非晶質(ガラス)体であることが見出されたのである。

前駆体のガラス形成能向上のために添加されたSiO2はこのように単結晶ドメインに"寄生"することで、過剰なSiO2が試料内部の結晶成長を阻害することなく、たとえ非化学量論組成であっても緻密なドメイン組織が形成可能となることが明らかとなった。

画像3は、透過型電子顕微鏡による結晶ドメイン領域の精査による結果。(a)の遠視野像は、完全表面結晶化ガラスの断面の透過型電子顕微鏡写真。(b)と(c)は、左右の領域(明暗の部分)の電子回折パターン。それぞれの領域が単結晶ドメインであることが判明した(aの写真中の矢印はドメイン境界に相当)。(d)は近視野像の顕微鏡写真。(e)はナノ粒子内部の電子回折パターン。ナノ粒子はガラス特有のブロードかつ不明瞭な回折パターンを示している。

画像3。透過型電子顕微鏡による結晶ドメイン領域の精査による結果

従来の結晶化ガラスによる透明セラミックス作製においては、可視光波長よりも小さいナノサイズの結晶をガラスマトリックス中に析出させる方法が採られていた。

しかし今回の研究の完全表面結晶化ガラスでは、逆に網目形成酸化物であるSiO2をナノガラス粒子化し、かつ結晶の屈折率と整合するように調整することで光散乱が最小化されている。このことから、完全表面結晶化ガラスは「逆結晶化ガラス」とも呼ぶことができるというわけだ。

今回の研究で見出された完全表面結晶化ガラスは「高い光透過性」と「緻密な配向組織」を兼備するセラミックス材料であり、析出結晶であるSr2TiSi2O8は大きな「2次光非線形性」を有する。

このことより「LiNbO3」など一部の光学単結晶でのみでしか具現化されていない「電気光学(EO)効果光スイッチ」への応用も可能であり、実際にこのフレスノイト型完全表面結晶化ガラスを用いたEO効果光スイッチの基本動作も確認済みだという。

ガラスは低コストで量産性に優れ、さらにはファイバー/薄膜など高い形態制御性を有することから、光学単結晶にはない多くの実用上のメリットを持っており、今回新たに開発された完全表面結晶化ガラスは、ガラスの特徴と結晶由来の機能性を同時に併せ持つ革新的な機能材料として、高性能な光・電子制御デバイスの創出に寄与するものと期待されると研究グループではコメントしている。