北海道大学(北大)は、300℃でも燃えない高い熱耐久性と80%以上の発光効率、無機蛍光体よりも100倍以上の発光強度と、発光スペクトルのピークの半値幅が狭く、美しい発光色(ピュアレッド)を示す新型有機発光体の開発に成功したことを発表した。これにより従来は不可能だった、高演色性の低消費電力照明が可能となり、家庭用照明だけでなく、アーティスティックなイルミネーションへの応用も期待できるようになるという。同成果は長谷川靖哉 教授(北海道大学大学院工学研究院)、宮田康平氏(北海道大学大学院工学研究院)、加藤昌子氏(北海道大学大学院理学研究院)らの研究グループによるもので、欧州学術誌「ChemPlusChem」に2月14日(独時間)に掲載された。

白色LEDを用いた照明器具が、本格的な普及段階に入りつつある。しかし、現在主流の白色LED素子は、青色のLEDチップと黄色蛍光体の組み合わせでできているため、モノ本来の色を再現することが困難である。この色の再現性は平均演色評価数(Ra)という数値で評価され、住宅用照明ではRa>80が求められているが、現行の白色LED素子ではRaは70程度であり、この目標を達成できていなかった。

一方、青色のLEDチップと赤緑色蛍光体を組み合わせると、Ra>80を達成した白色LED素子を作ることも可能だが、この素子では住宅用照明に求められている明るさ(光度(cd)・光束(lm)とも)を実現できていなかった。その理由としては、無機の赤色蛍光体を使おうとする場合、その微粒子をLEDの樹脂中に分散させることになり、そうなると、その微粒子自体が光の移動を遮ることとなり、結果的にLED素子の外に出る光を弱めてしまっていた。これを避けるためには、樹脂に溶解するような有機物質の蛍光体を使うと良いことはわかっていたが、これまで得られた有機赤色蛍光体は、熱分解温度が200℃と低いため、汎用的なプラスチック素材や製造工程を用いると、途中で分解されてしまう欠点があり、実用化の妨げになっていた。

今回の研究では、615nm近傍の赤色領域(カラー画像を提供するRGBのRed)にシャープな蛍光スペクトルを有する、銀白色の金属であるユーロピウムを有機分子で取り囲み、熱耐久性とするために、化学作用によって分子間を接着することで得られたユーロピウム有機発光体を3次元的に固定化した。

今回開発された技術の概要イメージ

この結果、ユーロピウムと有機分子を3次元ネットワーク構造にすることで、300℃でも燃えない新型有機発光体が完成した。

今回開発された技術と従来技術の比較

なお研究グループによると、今回の原理を用いることで、ピュアグリーン発光を示す緑色蛍光体を作ることもできるとのことで、この新型有機発光体を応用することで、住宅用照明に必要なRa、光度(cd)・光束(lm)を備えた白色LED照明だけでなく、様々なパステルカラー発光を示すアート&デザインや、イルミネーション、ディスプレイ、照明、および新型セキュリティ顔料への展開が期待できるという。