愛知医科大学の小西裕之准教授を中心とする研究グループは、遺伝性乳がんの責任遺伝子であるBRCA1がん抑制遺伝子の異常により乳がんが発生するメカニズムの一端を解明した。これにより、将来的に遺伝性乳がんの治療法選択の開発などにつながる可能性があるという。同成果は、米科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載された。

ヒトはそれぞれの遺伝子を2本ずつ持っているが、遺伝性乳がんの患者(女性保因者)の約3割は、BRCA1遺伝子の片方が生まれつき変異によって機能を喪失している。しかしもう一方のBRCA1遺伝子が正常なため、女性保因者は健常人と何ら違いなく誕生し成長していく。

女性保因者から乳がんが発生するきっかけは、ある乳腺細胞から正常なBRCA1遺伝子が偶発的に失われ、同遺伝子を完全に喪失する結果、細胞ががん化へ向かうことだと考えられていた。しかし、研究グループがヒト培養細胞の遺伝子を試験管内で改変する「ヒト細胞遺伝子ターゲッティング法」などを用いて解析した結果、女性保因者の乳腺細胞は、BRCA1遺伝子の一方だけに変異がある状態でもがん細胞に似た性質を持つことが明らかとなった。

具体的には、放射線などによる遺伝子障害を修復する能力が低下しており、その結果、放射線への強い感受性やゲノム不安定性を示していることが確認されたという。このことは、女性保因者の乳腺細胞すべてにがんの「きざし」があることを意味しており、今後の遺伝性乳がんの治療法選択に影響を及ぼす可能性があると考えられると研究グループでは説明している。