理化学研究所(理研)は、高分子材料を構成する基本単位物質(モノマー)であるスチレンとイソプレン、ブタジエンそれぞれに対して、高い選択性を示す2種類の希土類重合触媒とチェーンシャトリング試剤を組み合わせ、すべてのモノマーを高度に立体制御した共重合体の合成に成功したことを発表した。同成果は、理研基幹研究所 侯有機金属化学研究室の侯召民主任研究員、西浦正芳専任研究員、潘莉特別研究員、張坤玉特別研究員らによるもので、ドイツの化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」(オンライン版)に近日掲載される予定。

プラスチックや合成ゴムに代表される高分子(ポリマー)材料は、広く一般で用いられているが、それらの機能は構成単位物資(モノマー)の組成や立体構造に大きく依存している。そのため、新たな機能を有する高分子材料の合成を目指し、モノマーの組成や立体構造を制御できる触媒の研究が各所で進められている。特に、性質の異なる複数のモノマーを多数つなげて高分子材料を合成する(共重合)には、単一のモノマー材料ではなしえない特異な機械物性や物理物性を持たせることが期待されている。しかし、1つの触媒を用いて共重合させる従来の手法では、1つのモノマーの立体的配置を制御することは可能だが、複数のモノマーの立体的配置を同時に制御することは難しかった。

例えば、プラスチックの原材料としてよく利用されるスチレンの単独重合によって得られるポリマーのうち、立体的に制御されたシンジオタクチックポリスチレンは、結晶性が高く耐熱性に優れた硬質なポリマーであり、ゴムやタイヤの原材料として利用されるイソプレンやブタジエンからなるポリマーのうち、二重結合を軸として同じ側に2個の置換基が配列したポリマー(シス-1,4-ポリイソプレン、シス-1,4-ポリブタジエン)は、弾性に富んだ柔軟な高分子材料であるため、これらの性質を兼ね備えた材料は、耐熱性やゴム弾性を有する新たな機能性材料として期待されている。しかし、スチレン、イソプレン、ブタジエンのそれぞれを同時に立体的に制御して共重合させることは難しく、その合成を可能にする触媒の開発が求められていた。

研究グループでは2004年に、スチレン重合に高いシンジオタクチック選択性を示し、シンジオタクチックポリスチレンを合成できる希土類重合触媒(触媒1)を開発したほか、2009年には、より小さな配位子(有機化合物)を有し、イソプレンやブタジエンの重合に高いシス-1,4選択性を示す希土類重合触媒(触媒2)を開発し、イソプレンやブタジエンの1,4-シス選択性重合触媒として機能することを見いだしていた。しかし、これらの触媒単独では、スチレンとイソプレン、ブタジエンの立体構造を制御し共重合させることはできなかったことから、今回、この2つの触媒を組み合わせてそれぞれの長所を生かし、3つのモノマーの立体構造を制御した共重合反応の実現に向けた研究を行った。

図1 高い立体選択性を示す希土類重合触媒
触媒1:スチレン重合に対しては、高い活性と高いシンジオタクチック選択性を示すが、イソプレン重合に対しては活性と選択性は低い
触媒2:イソプレンまたはブタジエン重合に対しては、高い活性と高いシス-1,4選択性を示すが、スチレン重合に対しては活性及び選択性は低い
触媒3:イソプレン重合に対しては、高い活性と高い3,4選択性を示すが、スチレン重合に対しては活性と選択性は低い

具体的には、研究初期では2つの触媒を組み合わせて、スチレンとイソプレンの共重合を検討したが、この組み合わせでは、イソプレンの単独重合体とスチレン-イソプレン共重合体の混合物が得られただけであったという。そこで、2つの触媒間でポリマー成長鎖を自由に行き来させることができるチェーンシャトリング試剤としてトリイソブチルアルミニウムを用いたところ、すべてのモノマーにおいて立体構造を制御しながら共重合反応を進行させ、シンジオタクチックポリスチレンとシス-1,4-ポリイソプレン構造の両方を有する共重合体の合成に成功した。

図2 2つの希土類触媒の組み合わせによるスチレンと共役ジエンとの立体選択的共重合(iBu3Al:トリイソブチルアルミニウム)

また、この触媒系にスチレン、イソプレン、ブタジエンを反応させると、3つのモノマーが高度に立体的に制御された、シンジオタクチックポリスチレン、シス-1,4-ポリイソプレンおよびシス-1,4-ポリブタジエン構造を有する「三元共重合体」の合成に成功したほか、触媒1とイソプレン重合に高い3,4-選択性を示す触媒3を組み合わせて、スチレンとイソプレンを反応させた結果、シンジオタクチックポリスチレンと3,4-ポリイソプレン構造を有する共重合体も得ることに成功したという。

なお、研究グループは今回の成功は、共重合体の立体選択的な合成手法としてさまざまな展開が期待できるとしており、この成果を活用することで、新たな機能を有する高分子材料の開発が促進されるものとの期待を示している。