──長年勤められた会社、それも、いわゆる"給与のいい一流出版社"を離れられたわけですが、改めて考えてみて、退職の判断は正しかったと思いますか

はい。早期退職で辞める……つまりは会社からのリストラ勧告を受け入れる、という判断を下したことに、後悔はないです。葛藤がなかったわけではありませんが、自分で決断したことですから納得はしているつもりです。

入社以来、編集で13年、宣伝で5年、営業で2年という歩みだったのですが、いま振り返ってみてつくづく思うのは、いい会社だったな、ということ。もちろん待遇のこともありますけど、社風も家族的で温かく、働く環境としては素晴らしい会社だったなと。

それから、少し脱線しますが、つい最近引っ越しをしたんです。これまでは部屋が広くなる引っ越ししかしたことがなくて、ダウンサイジングが必要な引っ越しは初めての経験でした。そこで仕方なく蔵書を大量に処分したんですけど、これまたありがちな展開で「おっ、この本は!」なんて、発掘しては読みふけってしまって。そして改めて痛感したのは、やっぱり本って最高に面白いな、ということなんです。

だから、辞めた会社のことはいまでも心から応援しているし、出版業界にもっと元気になってほしいと本気で願っています。

──では、やはり今後も出版には何かしらの形で携わっていく、と

わかりません。いまはまったくの白紙です。なんと理由付けをしようと、自分のブログのために各方面をお騒がせしたのは事実。結局のところ、お世話になった会社に対して、後足で砂をかけるようにして辞めていったわけですからね。

それに、出版業界全体がシュリンクしている現状において、どんなに実力のある人でも生き残りづらい環境になっています。そんな中で、私ごときがぬけぬけと出版に携わってしまっていいのか、という思いが少なからずあるんです。出版に限らず、やってみたいことはいろいろありますし、考えていることもありますが、まだ「コレ!」とは決めかねているところです。

ただ、たしかなのは、自分のリストラ体験は一区切り付いてしまったし、ブログで発信できることはひとまずすべて発信した、ということ。「リストラなう」というブログは今後も掲載を続けるつもりです。また、別のブログで身辺雑記は綴っていきます。でも、自分の中で何かが「終わった」という感覚が、いまは強いです。

──もし、目の前に「リストラの渦中にある自分もブログを書いてみたい」「ブログで発信したいことがあるんだけど、批判が怖い」などと考えている人がいたら、どういうアドバイスをしますか

「まずは書いてみたら」と言うでしょう。そうしないと、何も始まりませんから。そして、めげそうになっているなら「とにかく頑張れ」と。「いろいろ言われたりするかもしれないけど、続けてみようよ」と伝えるかな。たとえばリストラの当事者としてリアルタイムでブログを書くような人が、私のほかにも出てきてくれれば嬉しいんですけどね。いずれにせよ、何かを発信しなければ絶対に得られなかったような、人と人とのつながりみたいなものを感じることができるはず。貴重な経験ができると思います。

私にしても、なんだかんだとありながら、どうにか走り通して、こうして本という形でブログがひとつの結実を見せました。でも、ブログを更新している最中は、たとえば「これを本にしよう」などと考えていたわけでもなく、ネタに窮したりしながら更新していたのが実情なんです。ただ、それでも反応してくれる読者の方々がいたから、最後まで更新を続けることができた。その結果として書籍化という展開へとつながりましたけど、それはそれ。浮かれている場合でも、立場でもない。私自身はまた何かしらの仕事に就いて、これまで同じように働いていくだけです。

──会社を離れて、いまは求職中の身分。実際の生活はいかがですか

退職して自由に使える時間ができてみると、毎日仕事があるのはとても幸せなことなんだな、と改めて感じたりしています。あとは規則正しい、健康的な生活って大事だな、とか。早起きって重要、とかね。なんか、いたって当たり前の感想しか出てこなくて申し訳ないです。我ながらつまらないヤツですね(苦笑)。でも、実感してます、ホントに。

「これからは夢の印税生活だな」とか「退職金で悠々自適だろう」などと揶揄する人も中にはいらっしゃいますが、いまの私にとっては印税よりも定期的に決まった額を淡々といただける失業手当のほうが重要ですし、分不相応な大金に手を付けてもろくな結果になりませんから……。だいたい、印税だけで夢のような生活が継続できるケースなんて、作家でもほんの一握りなんですから。私も仕事、見つけないと。

でも一方で、「高校野球、その気になれば全試合見られるじゃん」みたいな、いまだからこそできることを見つけるのも、なかなか楽しいものです。これまでできなかったことを始めてみたい、という気持ちも強い。勢いあまって(プログラム言語の)Perlの解説書とか読んじゃったりして。「難しいな~。ワケわからないな~」って、すぐ眠くなったりしながらね。まあ、これまでブログのマークアップランゲージをちょっと書くだけでもヒーヒー言っていたんだから、当然なんですけど。


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