フジテレビの看板枠・月9で放送されている森七菜、間宮祥太朗のW主演作『真夏のシンデレラ』(毎週月曜21:00~)は、現在ゴールデン・プライム帯で放送されている夏ドラマで「最も恋愛にフィーチャーした作品」と言っていいだろう。

フジテレビは「月9では16年夏の『好きな人がいること』以来“7年ぶり”の恋愛ドラマ」と謳っているが、正確には「海辺の町が舞台の夏ドラマで」という注釈がつく。しかし、恋愛ドラマに限定しても2018年冬の『海月姫』以来“5年ぶり”と久々であり、それ以降の約5年間は、ほぼ刑事、医療、法律の手堅い3ジャンルに絞って放送されてきた。

ところが、今なお複数のメディアが「月9=恋愛ドラマ」というイメージで記事を書き、人々もそれに「さほど違和感を覚えていない」という事実がある。月9と恋愛ドラマには複雑な背景がある中、今夏の『真夏のシンデレラ』にはどんな意味があるのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 『真夏のシンデレラ』W主演の森七菜(左)と間宮祥太朗

    『真夏のシンデレラ』W主演の森七菜(左)と間宮祥太朗

■輝きが鮮烈だった分、批判の対象に

この十数年、30を超えるウェブメディアとやり取りを重ね、編集部の傾向や意向を見続けてきたが、テレビの分野で最も「ネタにされてきた」のは間違いなくフジの月9だった。

しかもその大半は、「最低視聴率更新」「爆死」「オワコン」などの辛らつな内容。特に2010年代から現在に至るまで、「フジテレビを叩けばPVが獲れる」という声を何人のウェブメディア編集者から聞いたか分からないほど耳にしたし、中でも月9が最大のターゲットにされていた。

これは、「87年のスタートから00年代の序盤にかけて月9が高視聴率を獲り、何度も社会現象を巻き越してきた」という輝かしい歴史があり、それとの落差を叩きやすいことがベースになっている。かつて月9は話題や流行の発信地であり、『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』などのヒット作が生まれた恋愛ドラマはその象徴。だからこそ10年代に入ると過去との比較から失敗や凋落を揶揄(やゆ)するような記事やコメントが飛び交いやすく、現場のスタッフやキャストを悩ませてきた。

かつての輝きが鮮烈だったことに加えて、月9の恋愛ドラマを悩ませていたのは、恋愛にかかわる価値観の変化。女性の社会進出、カルチャーやエンタメの拡張、ネットやツールの普及などによって恋愛のプライオリティが下がった人が増えたほか、嗜好が細分化して誰もが夢見るような恋や結婚の形が薄れ、以前は小学生から高齢者まであらゆる層が見ていた恋愛ドラマのニーズが下がってしまった。

  • 『好きな人がいること』(2016年)

  • 『海月姫』(2018年)

前述したように18年以降、月9が恋愛ドラマから離れていた一方で、それ以降も“ほぼ恋愛ドラマ枠”として勝負していたTBSの火曜ドラマも、昨年あたりから恋だけでなく仕事、家族愛、生き方などの割合を増やした作品が目立っている。昨秋に『silent』(フジ)という突き抜けたヒット作こそあったものの、恋愛ドラマを取り巻く状況の難しさは変わっていないのだろう。