連載コラム『美人すぎる公認会計士がこっそり教える、やわらかマネー知識』では、公認会計士の平林亮子氏が、その豊富な経験を生かした「お金」に関する知識を、分かりやすく説明します。あなたの人生を変えるような、とっておきのマネー知識が得られるかもしれません。
60円、70円、80円で1つずつ順に仕入れ、100円で1つ売ったら"利益"はいくら?
とある企業が、とある商品を、一昨日は60円で1つ、昨日は70円で1つ、今日は80円で1つ仕入れたとします。
この商品を明日、100円で1つ販売したら、利益はいくらだと考えれば良いでしょうか。
60円で仕入れた分を売ったとすれば
100円ー60円=40円
の利益。
70円で仕入れた分を売ったとすれば、同様に計算して30円の利益。
80円で仕入れた分を売ったとすれば、20円の利益。
さらに、3個の商品は平均70円で仕入れていると考えれば、30円の利益。
さて、どれが正しい利益と言えるでしょうか。
結論から言うと、70円で仕入れた分を売ったと考える方法以外は、理論的にあり得る方法です。
仕入れた順に売り上げたと考える方法を「先入先出法(きいれさきだしほう)」といいます。つまり、最初に仕入れた60円の商品から売れたと考える方法です。
逆に、新たに仕入れた商品から売れたと考える方法を「後入先出法(あといれさきだしほう)」といいます。つまり、最後に仕入れた80円の商品から売れたと考える方法です。
また、仕入れの平均額から計算する方法もあります。仕入れるたびに順次、平均額を計算する「移動平均法(どうへいきんほう)」、一定期間の平均額を計算する「総平均法(そうへいきんほう)」があります。
ただし、現在の会計制度上は、後入先出法を採用することは認められていませんので、他の方法で計算することになります。
商社の「売上」はどう計上する?
事実は同じなのに考え方ひとつで利益が異なるということは驚くべきことです。
毎年、企業は
「今年は業績が良かった」
などと決算発表をするわけですが、その基礎となるデータは、上記のようにどのように計算するかで変わってしまう可能性があるのですから。
しかも、この商品を取り扱うとある企業が、いわゆる商社だった場合、「そもそも売上を100円として良いのか?」という議論も出てきます。
商社は、小売店に頼まれて、商品をメーカーから小売店に発送させる、といった取引をすることがあります。メーカーから70円で仕入れて、100円で小売店に販売すれば、商社の利益は30円です。
このとき、
売上を100円とする
のか、
頼まれた商品を手配しただけだから、差額の30円が手数料としての売上だと考え
売上を30円とする
という考え方も出てくるわけです。
具体的には、契約や取引の実態、所有権や商品に対する責任によって判断するのですが、売上とは何か、利益とは何か、を突き詰めて考えようとすると、非常に悩ましい問題なのです。
「利益は意見」と言われることも--商品の値札を見てマネーセンスを磨く
それゆえ、
「利益は意見」
と言われることもあります。
逆に、私たちが企業の数値を見るときも、
「この企業にとって売上とは何か?」
「利益はどうやって計算しているのか?」
という視点を持つことが大切。
さらにはその企業が、社会にどんな価値をもたらしているのか、という視点も持ち合わせたいものです。
また、商品の値札を見た時に、
「どうしてその値段なのか」
「仕入れ価格はいくらなんだろう」
と想像してみると、マネーセンスが磨かれますよ!
執筆者プロフィール : 平林 亮子
公認会計士。「美人すぎる公認会計士」としてTVやラジオ、雑誌など数多くのメディアに出演中。お茶の水女子大学在学中に公認会計士二次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に入所。国内企業の監査に多数携わる。2000年、公認会計士三次試験合格後、独立。企業の経営コンサルタントを行う傍ら、講演やセミナー講師など多方面で活躍。テレビの情報番組のコメンテーターを始め、ラジオ、新聞、雑誌など幅広いメディアに出演している。