テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「CFO」に求められる役割や具体的な業務について語ります。

  • 中小ベンチャーCFOの業務の全体像【後編】


数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

前回のCFOの8つの業務、(1)~(4)に続き、中小ベンチャーCFO(社内、社外を問わず)業務の全体像について考えていきたいと思います。

  • CFOの8つの業務

CFOの8つの業務、(5)~(8)

(5)採用
採用は、中小ベンチャーにおいては非常に重要な課題です。売り手市場が継続中の現在、新卒でも中途でも良い人材にめぐりあうのはなかなか難しい状況が続いています。経営人材に限らず、現場のアルバイトなども含めて、人手不足は深刻です。

中小ベンチャーは大企業のように企業名で人を募集できるわけではありませんから、企業や事業の魅力、今後の展望などを含めて経営陣が総出で、全力でアピールして人を採りにいくようなイメージです。

「経営陣が総出で」と書きましたが、人材は、まずは会社やCEOその人の魅力に向かって集まってきます。CEOは前面に立って夢を語り、情熱で人を魅了するでしょう。反面、CEOが会社や事業への思い込みが強すぎて圧を感じさせることも時にあります。

そんな時はCFOが"太陽"に対する"月"の役割でバランスよくフォローするのがよいでしょう。それ以外にもCFOは、採用プロセス全体の管理・フォローも率先して行っていくとよいかと思います。

(6)新規事業
新規事業は、事業を「回す」のではなく、新しい事業を「創る」、そして事業で「作る」「売る」仕事になりますから、担うのは基本的にはCEOです。COOや一般スタッフが既存事業を推進する役割に対し、ネタ探しも含めて新規事業機会を開拓していくのはCEOの役割と言えます。

しかし稀にCEOにあれもこれもとやりたいことが多すぎるような場合、緊急避難的にCFOがそのうちの幾つかを担当することが考えられます(現に筆者もそうでした)。新規事業のフレーム作りのような業務もできるに越したことはありません。

(7)Exit
Exitとは、ベンチャー企業や企業再生において創業者や投資家が株式売却により利益を得、投資資金を回収することを意味します。主なExitの方法に、IPO(新規上場)やM&Aによる第三者への売却(バイアウト)などがあります。

起業家なら誰しも、一度はIPOを考えたことがあるはずです。キャピタルゲインが得られそうだし、自分の会社を社会に還元していく意義のようなものを感じられそう……。しかし現実的にはIPOはきわめて狭き門です。

日本国内の新規上場企業数は、年間100社もありません。Exitではもっと現実的に、M&Aで会社を売却したり、大企業の傘下に入って事業を伸ばしたりしていく企業が多いです。無理にExitせず、中小のままキラリと光る存在(優良中堅)でい続ける方向を選択する企業もあります。

ExitはCFOが担当しうる業務のなかでも特に醍醐味と面白みのある業務ではないでしょうか。会社全般の経営のみならず、株主など会社を取り巻くステークホルダーとも相互に大きく影響する出来事であり、かつ、ファイナンスや法律に関する非常に専門性の高いスキルが必要とされるので、CFOが担当するのが一般的です。

ただしその手を超えて高度な知識が求められることも多いので、IPO請負を生業としているような外部の専門家とタッグを組み、彼らと会社の間でコーディネーター的に動いていくようなケースも考えられるでしょう。

(8)事業再生・承継
事業再生・承継、特に再生は、企業経営における究極的な局面です。事業再生・承継は日常的に発生する案件ではありませんが、担当企業がそういう状況になる、あるいはその事態に陥った企業から急な依頼があるといった場合に備えてひと通りの知識を持ち、心構えはしておくべきです。

なぜなら、本来的に中小ベンチャーは危ない橋も渡りながら多少の背伸びをしつつ成長していく事業形態で、思わぬところで落とし穴に落ちる可能性を常に秘めているからです。成長と再生は常に表裏一体です。

事業再生・承継は、Exitと同様、会社全般の経営及び株主など外部ステークホルダーに関わる事象であり、ファイナンスや法律に関する専門性の高いスキルが必要とされる業務です。かつ、非常にセンシティブな局面であることから、強いスキル・マインドを併せ持つプロフェッショナルCFOが求められる分野です。

中小ベンチャーのCFOとして

社内にCFOとして常駐している場合も、社外にプロCFOとして非常駐でいる場合も、より多くの業務について正確な知識を持ち、自分なりの推進や解決のノウハウを持つことが、皆さんのビジネスチャンスを広げる武器となるはずです。

そして依頼された業務以外でも、改善や新規検討の余地があると思う分野があれば積極的に進言していくことが、CFOとしての皆さんのスキルを上げ、引いては担当企業の成長につながっていくことと思います。

初回から今回までで、テーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」における、中小ベンチャーの経営とCFOについて、あらましを語ってきました。次回以降は、具体的にCFOが会社の成長マネジメントをするにあたり、経営者とどう議論していけばいいのか、「中小ベンチャー経営者とのディスカッションスキル」について考えていきます。


【お知らせ】「中小ベンチャーの成長マネジメント」の書籍化決定

  • 『中小・ベンチャー企業CFOの教科書』(高森厚太郎 著、中央経済社刊 税別2,480円)

本連載の著者高森氏が、『中小・ベンチャー企業CFOの教科書』(高森厚太郎/著 中央経済社刊 税別2,480円)を出版しました。

<高森厚太郎氏からのコメント>
著者自身のベンチャー経営者としての経験とビジネススクールで教える経営の専門家としての知識を凝縮して、中小・ベンチャー経営管理の実務を体系化した一作です。また、社外プロCFOとして培った経営者とのミーティングの進め方(コンサルティング、コーチング、ファシリテーション)も、コラム形式で紹介しました。

CFOが担うべき「経営参謀』の全体像、ガイドラインを本書は示しています。経営者をサポートする士業・コンサルタントはもちろん、経営とはどのようなことなのかピンとこないというベンチャー起業家やその希望者にもお勧めの1冊です。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするプレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。