注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、フジテレビ系バラエティ番組『アウト×デラックス』(毎週木曜23:00~)演出の鈴木善貴氏だ。

レギュラー化して8年になり、後発の類似番組も出てくるなど、“アウトな人”のリサーチのハードルが上がっているというが、スタッフのスキル向上に加え、コロナ禍という逆境から新たな発想を生み出し、テレビにとどまらない展開も構想するなど、攻め続ける姿勢を見せている――。


■ネット配信隆盛下でのテレビ編集「難しい」

『アウト×デラックス』演出のフジテレビ鈴木善貴氏

鈴木善貴
1980年生まれ、岐阜県出身。同志社大学卒業後、03年にフジテレビジョン入社。『トリビアの泉』『笑う犬の太陽』『アイドリング!!!』『笑っていいとも!」など経て、現在は『アウト×デラックス』のほか、『ホンマでっか!?TV』『さんまのお笑い向上委員会』を担当する。

――当連載に前回登場した放送作家の石原健次さんが、鈴木さんについて「いい意味でテレビマンらしくない“素人”な感じが出て、それがうまく演出に出ているような気がするんです。あと彼には、毎回『アウトな人がいない』って悩んでいるのに、なんで編集でバツバツ切るんだって聞いてください」とおっしゃっていました。

なるほど、「尺稼がなきゃいけないのに、何切っとんねん」ということですね。でも、飯でも何でもそうですけど、「もっと食べたいな」「もっと見たいな」となって終わるのが、一番成功例かなと思うんです。各ディレクターが編集した映像はそれぞれ思い入れがあるので、OAが5分になったものが、最初は20分のときもあります。

ただ、今の人ってスマホ文化ですからとにかく何でも早いんですよ。みんな待てなくなって脳も変わってきていると思います。そうなると、やっぱり“たるい”映像はキツいんじゃないかなと。あとは、アウト過ぎて放送できないからバツバツ切ってるというところもあるかもしれないです(笑)

それに、普通にベストだと思ってああなっているんですけど、僕、テレビって分からないなあと思っていて。

――と、言いますと?

ネット配信って映像をあまり編集せずにそのまま流すじゃないですか。テレビで今までやってきた経験からすると、「ここ残すとたるいなあ」って一見違和感を覚えると思うんですけれど、逆にその「たるいなあ」が新鮮で“心地良い違和感”になったら、つい見ちゃう気がするんです。そこの線引きが難しい。

YouTubeとかTikTokとかいろいろ出てきて、編集のテンポはテレビとは全く違うものですが、それと同じことをテレビがしたら絶対面白くなくなるし…。だから、今までの価値観をアップデートしなきゃいけないのかなと思っていますね。

■今までなら見過ごしていたかもしれない人が…

――『アウト×デラックス』はレギュラー化してまもなく8年になりますが、“アウトな人”を探し続けるのは、大変なのではないでしょうか?

そうなんですよ(笑)。特番で一発当たったら目立ちますけれど、レギュラーを何十年続けている番組が実は一番すごいと思いますよ! 『アウト』は人が企画になっているので、それに当てはまる人を探せばいいんですけれど、“アウト”のハードルがどんどん上がってきています。

でも、目線の付け方1つで、「これはアウトにならないかも…」って思った人が、「こう切り取ったらアウトなんじゃないか」ってなることがあるんです。会議で揉むとき、石原さんはその目線付けが一番うまいなと思いますね。

あと僕も含め、ディレクターがどんどん慣れてきて、アウトな部分を引き出す質問の仕方がうまくなってきているというのもあると思います。この間、『バチェロレッテ』の福田萌子さんに出ていただいたんですが、「どんな人も恋愛対象」だと言うので、「ゴキブリ食べる人も好きですか?」って突拍子もないことを聞いたら、その場で「無理無理無理~~!!!」って飛び上がっていいリアクションをしてくれて(笑)。そこから「ゴキブリが通った道は二度と通らない」「夜ゴキブリが出て朝まで車の中で過ごした」とか、飾らない素が見えて。そういった皆の質問力が上がることによって、今まで見過ごしていたかもしれない人が放送に登場しているのもあると思います。

――人の探し方は変わっていないのですか?

変わってはいないですね。収録3日前でも決まらないときは、100件くらいメール乱れ打ちしたら10人くらい候補が集まったこともありました(笑)。でも、今はオンラインで地方の人とも会えるので、候補の人とお会いできる機会が増えて、分母がそのぶん広がっているんです。

――コロナが、まさに「災い転じて」になっているんですね。

アウトな人を探すときは絶対会わなきゃダメなんですよ。一挙手一投足を見て、「これはアリだ!」という人がいますからね。

「災い転じて」で言うと、コロナになって収録を再開した頃はゲストも呼べなかったので、パネルで紹介するというのを始めたんですよ。これは良かったですね。今までだったら、「現象はアウトなんだけれど話したら意外と面白くない」とか、「映像見たら一発で分かっちゃう」とかいう人たちは、スタジオショーの番組だったので取り上げることができなかったんですけれど、パネルで紹介するというやり方によって、結構パイが増えたのがうれしいですね。それで面白かったらオンラインでつないでトークするというのもできますし。

――パネルの写真のインパクトだけで笑えて、スタジオのトークが盛り上がることもありますよね。

「コロナは一過性じゃなくて続いていくんだから、コロナが終わってもできるようなことを考えたらどうか?」というところで考えついたんですよ。要は、コロナ禍だけを見ていたら、毎回毎回そのときできるやり方を考えないといけないから、ずっとできる企画にしていかないとダメだろうって。結果、そうなって今もやっていますからね。