テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第156回は、16日に放送された山口放送制作・日本テレビ系バラエティ特番『追跡!長州ツイートトラベル』。

「長州力に山口県を自由気ままに旅してもらい、そのツイートを頼りに追跡する」という斬新な特番。長州と言えばその名前通り、山口県が生んだ稀代の名レスラーであり、さらに謎のツイートで爆笑を集める旬の人物だが、自らが軸となる番組は少ない。ナレーションを「長州力に最も詳しい芸人」の長州小力が務めることも含めて、放送前からいい感じの脱力感がただよっていた。

ローカル局が制作してキー局をネットする「上りネット」の番組であり、休日の昼前後に放送されることが多いが、その現状や可能性にも言及していきたい。

■第一声は「こんにちは。長州小力です」

長州力

まず山口宇部空港の前に、コカドケンタロウが1人で登場。画面右上には「AM9:50」と表示されているが、実際の放送時刻は「AM10:31」であり、これはロケの撮影時刻だった。

コカドに呼ばれて現れた長州力は、「どうもこんにちは。長州小力です」と小ボケをかましてさっそく脱力モード。さらにコカドから「山口県の思い出はありますね?」と聞かれると「いや、ほとんどないですね」と即答。「故郷だから」「地元局の制作だから」とリップサービスしないのがこの人らしく、だからこんな企画が考えられたのだろう。

番組のルールは、「長州は自由に旅をして思うままにツイートするだけ」「ツイートを頼りに長州力を追跡」と単純明快。しかし、長州は「周りのアレ(情報)を(ツイートで)教えなきゃいけないんでしょ?」と尋ね、コカドを「教えるとか(しなくて)いいです。何もわかってなかったんですね……」とあきれさせた。

ここで画面が切り替わって1時間半後の「AM11:20」になり、本編へ突入。長州を追跡する「山口にゆかりのない」カミナリと、「高1まで山口にいた」日向坂46の河田陽菜が登場した。

旅をはじめた最初のツイートは、「まさに歴史! 行きますか~!」で秋吉台に到着。その広さは長州いわく「(東京ドーム)10個分くらい」とのことだが、実際は2,000個分であり、こんなズレも異色の旅番組と言えるだろう。

2つ目のツイート「これこそ!自然の力!大地の音が聞こえるかー!」をヒントに追跡の3人が訪れたのは、日本三名塔の1つに数えられる国宝・瑠璃光寺五重塔。さらに、3つ目のツイート「ちょっと船酔いしそうになりますね! 船舶免許が必要だぞ!」をヒントに海方面へ向かうが、長州はまだ秋吉台にいてセグウェイに乗っていた。

ここで制作サイドはすかさず、昨年5月にスタートした「セグウェイツアーin秋吉台」の情報を表示。観光収入を増やし、地元経済に還元することはローカル局の使命だが、ちょっとあからさま過ぎる流れしれない。

4つ目のツイート「楽しい!私はまっすぐな風!」を見た追跡の3人が懸命に推理する中、長州はランチタイムに突入。ここでも慣れ親しんだ地元の名物料理ではなく、「肉うどん&しそわかめおにぎり1000円」をオーダーし、「ちょっとしゃべりは止めよう。(どうせ)使わないから」と話すマイペースぶりで笑わせた。

■1日目、長州は1か所のみの旅で終了

ランチに絡めた5つ目のツイートは、「食ってみな翔ぶぞ!マジで美味かったな!おかわりは?ないのか~い!」だったが、当然ながら何のことなのかわかるはずがない。そのころ追跡の3人は、本州と角島をつなぐ絶景の角島大橋に移動して、現地で聞き込みをしていた。

長州は秋吉台の目玉スポット・秋芳洞へ向かい、6つ目のツイート「トンネルが長いな、、、こいつらいったいどこまで続くんだ!」をし、水面が映された写真を添付。追跡の3人がこれを見せて地元人に聞き込みをすると、「元乃隅神社」「別府弁天池」の名前が挙がり、ここでも地元名所の観光案内が流された。

ところが追跡の3人が元乃隅神社に着いたとき、時刻表示は「PM6:20」になり、すでに周囲は真っ暗。3人は長州とコカドから電話で「疲れたからタイムアップ」と告げられ、「長州力が疲れたり飽きたらタイムアップ」という追加ルールが表示された。けっきょく長州は1日、秋吉台から動いていなかった……というトホホな展開で「1回戦 追跡失敗」。翌日の2回戦は少し範囲をせばめて下関市内のみで行うという。

「追跡の難易度が高すぎたから調整した」というより、「下関市内を観光地としてしっかり紹介したい」というムードが漂っていた。

2日目最初のツイート「これは美味しい!力が湧いてきた!やる気が出ますね」を見た河田が「下関と言えばここ!」と自信満々で選んだのは唐戸市場。混雑のためカミナリ・竹内まなぶ1人が変装して見に行くが見つからず、「寿司を食べて帰ってきた」というオチのみを放送したが、この番組で人気の唐戸市場を扱わないわけにはいかず、こういう微妙な構成になったのではないか。

長州がいたのは、高杉晋作挙兵の地・功山寺。「延命の名水」として知られる水を飲んでツイートしていたのだった。ここでも長州はコカドから「清められている感じありますか?」と聞かれて「それはない」と即答。番組を通して忖度なしのコメントを貫いていたため、おのずと笑いの手数は多くなっていた。

その後、長州は、みもすそ川公園に移動し、下関戦争で使用された長州砲を見て2つ目のツイート「これ使ったら、あっという間に九州だぞ!」。これを見た追跡の3人は関門トンネル人道へ向かってしまうが、幸いにも長州のいる、みもすそ公園の横。またも、まなぶがトンネルを1人で歩いて確認していると、その間に長州はコカドが用意した関門海峡ヘリコプター遊覧飛行へ向かった。これは長州のバズりツイート「翔ぶぞ」に引っかけたネタなのか。

■「上りネット」を意識しすぎる必要なし

ただ、高いところが苦手な長州はヘリコプターに乗らず、けっきょくコカド1人で遊覧飛行へ。その間に投稿した3つ目のツイートは、「マジでっか!、、、無理!高いところは無理!飛ぶぞ~!」だった。

それを見た追跡の3人は「PM0:50」に遊園地・はい!からっと横丁に直行。ここも長州がいるヘリコプター乗り場の横だったが、聞き込みをするも空振りに終わってしまう。さらに「PM1:30」に4つ目のツイート「若者の味が俺には分からん!トッピングだと~!」を見た追跡の3人がタピオカと予想すると、長州は本当にタピオカを飲んでいた。

3人がおしゃれなカフェやスイーツ店があり、若者が集まるカモンワーフへ行くと、すぐに目撃情報を得て、あっさり長州を発見。長州と会話を交わしたカミナリ・たくみが、「ツイートもわけわからねえけど、しゃべってるのも意味わからねえな!」と追跡のオチをつけた。

エンディングは、長州からのごほうびとして、日本で初めてふぐを提供したと言われる名店・春帆楼へ。ふぐ会席8,800円を食べながら、長州による最後のツイート「さぁー 腹一杯食って下さいよ!本場の河豚を!遠慮なく!払いは各自で!お疲れ様でした!」で締めくくった。

全編を通してみると、ローカル局らしい丁寧な作りで安心して見ていられた一方、「地元をPRしなければ」「失敗できない」というプレッシャーからか、意外性に欠け、無難にまとめた印象が残った。長州力という高齢かつコントロールしづらい人材を軸に据えたことで、構成上の起伏を作りづらかったかもしれないが、もっと自由に、時にハチャメチャでもよかったのではないか。

それでもキー局なら制作しないであろう企画であり、番組から漂う牧歌的なムードは、時流に合っている感があった。できれば「上りネットだから」と言って背伸びをせず、むしろより牧歌的で、よりゆるい番組のほうが差別化になり、キー局の番組が合わない人々を引きつけてファンを獲得できるような気もする。さらに言えば、全国区のタレントに頼りすぎず、面白い地元の人々をどんどん登場させたほうが観光客誘致につながりそうだ。

ネットの世界では、事実上「すべてが上りネット」であり、もはやテレビだけ「上りネットだから」と力み過ぎているのはナンセンス。ネット同時配信なども含め、ローカル局はこれまで以上に制作力が経営を左右しそうなだけに、「やっとめぐってきた晴れ舞台」「強烈なプレッシャーにさらされる」などと特別視している場合ではないだろう。

当番組が放送された枠は翌週も長崎国際テレビ制作の『光の先には何がある!? 突撃解明!なんて光だ』(日テレ系)が放送される。「上りネットの番組はグルメと旅ばかり」と揶揄する声を吹き飛ばしそうな企画であり、こちらも注目だ。

■次の“贔屓”は…『火サプ』終了報道で注目度アップ! 『ぴったんこカン・カン』

『ぴったんこカン・カン』安住紳一郎アナ(左)と久本雅美

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、22日に放送されるTBS系バラエティ番組『ぴったんこカン・カンスペシャル』(20:00~22:00)。

2003年スタートの長寿ロケバラエティだが、もう1つの雄である『火曜サプライズ』(日テレ系)の終了が報じられるなど、コロナ禍で不穏なムードも漂っている。「どんな場所を選んでロケをしているのか」「画面を通じて視聴者にもわかる感染対策はどの程度施されているのか」などの気になる点は少なくない。

次回の放送には、同日にスタートするドラマ『俺の家の話』の長瀬智也、桐谷健太、永山絢斗、江口のりこらが出演するという。「番宣番組」とみなされないための構成・演出なども含め、現状をチェックしていきたい。