JR吾妻線といえば、日本一短い鉄道トンネル「樽沢トンネル」でも有名だ。しかし、八ッ場ダム建設にともなうルート変更で、樽沢トンネルを含む区間は2014年9月24日で運行終了となる。日本一短いトンネルを通過したいなら、夏休み中に吾妻線に乗ろう。

「湘南色」の115系(写真はイメージ)

この吾妻線の主力車両はオレンジとグリーンの「湘南色」と呼ばれる塗り分けで、かつて東海道線で活躍していた電車にそっくり。だが東海道線の中古が回ってきたわけではない。高崎付近の上越線や吾妻線などで普通列車に使用される近郊形電車は「115系」である。東海道線で活躍し、千葉県内の路線に転属した近郊形電車は「113系」だ。どちらも国鉄時代に製造された電車で、JR東日本が継承した113系電車は2011年に引退している。

「湘南色」の113系(写真はイメージ)

113系と115系は外観も客室の座席配置も似ているけれど、異なる用途で開発された。113系は平坦な幹線区間用、115系は勾配の多い区間用だ。だから性能面では大きな違いがある。外観の大きな違いは先頭車の色の塗り分けだ。113系は先頭車の緑色の部分が斜め。115系は地面と平行になっている。そのおかげで、遠くからでも113系と115系を簡単に見分けられる。

ただし、この塗り分けの違いは車両形式を識別するためだけではなかった。113系にも115系にも、この塗り分けを採用した理由がある。「湘南色」だけでなく、ブルーとクリームの「スカ色(横須賀色)」も共通のアイデアだった。

113系の塗り分けは、先に登場した111系から継承している。111系が斜めのラインになっていた理由は、流線型の80系電車が採用した「金太郎塗り」のイメージを引き継いだからである。横須賀線用の111系も、70系電車の同じ塗り分けを継承した。斜めのラインは、「伝統の継承」というわけだ。

一方、115系の塗り分けが地面と平行になっている理由は、先頭車を中間に組み込む用途が多かったから。113系は平坦な大都市近郊路線向けで、10両以上の長大編成で使われたのに対し、115系はおもに山岳区間用だった。山岳路線は乗客が少ないから、3両編成や4両編成で運行されることが多かった。そして都市近郊では、短い編成を併結して長い編成としていた。たとえば「3両編成+3両編成+4両編成」で10両というように。

短い編成同士を連結すると、編成の中間で先頭車同士が向かい合わせとなる。このとき、113系のような塗り分けだと、編成全体の中で先頭車同士の連結部分だけ、オレンジの部分が広く見えてしまう。そこで、車体の側面と同じ高さで真横に塗り分けたそうだ。こうすれば、長大編成でもオレンジとグリーンの塗り分けが統一され、一体感がある。

国鉄車両のデザイナーは、列車全体の編成美まで計算して塗り分けを設定していた。これが正面から見ただけでは気づかない「塗り分けの真実」というわけだ。

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