東京都心では一般的な「銀色の車体に白い顔」の電車。その代表格といえる車両が211系。東海道線や宇都宮線(東北本線)、高崎線に大量投入され、近郊形電車の主力だった。国鉄時代末期から製造され、JR東日本やJR東海などで製造が継続された経歴を持つ。

211系。車体前面にはFRPが使用されている

しかしその後、新型車両などによる置換えが進み、現在はJR東日本管内の東海道線から引退。今年3月16日のダイヤ改正で房総方面などからも撤退し、残る活躍の場は高崎線の4往復と、新たな任地となる長野方面となる。

211系が銀色の車体なのはステンレスを採用したためだ。ステンレスは鉄にクロムやニッケルを混ぜた合金で、クロム成分は空気中の酸素に触れると化学反応で皮膜を作る。だから酸化しにくい。「ステン」(さび)が「レス」(少ない)というわけだ。鋼鉄の車体だと、外気に触れて酸化した部分がさびになるため、塗装が必要になる。ステンレスはさびにくいから塗装しなくても大丈夫。これで塗装に関するメンテナンス費用を削減できる。

ただし、211系の前面はFRP(繊維強化プラスチック)を採用しており、白色になっている。白い顔に窓回りが暗いことから、同時期に製造された105系などと同様、「パンダ顔」と呼ばれることもある。

なぜ211系は運転台付近もステンレスにしなかったのだろうか? ステンレスは鋼鉄より製造コストが高いが、腐食しにくく剛性が高いため、鋼鉄よりも部材を細く、薄くできるというメリットもある。東急電鉄の車両のようにすべてステンレスにすれば、頑丈でさびにくく、塗装の手間も不要ではないか?

それでも211系が運転台回りをFRPにした理由は、ステンレスのメリットが、電車の「顔」にとって都合が悪いと判断されたからだろう。

ステンレスは頑丈ゆえに細かな加工に向かないから、小さな穴を開けたり折り曲げたり、という複雑なデザインを再現しにくいし、破損した場合の修理も難しい。列車の前面といえば、鳥か小石が当たるなどの理由で凹みができやすい。頻度が少ないとはいえ、踏切事故やホームでの接触事故もある。前面までステンレスにすると、事故などで修理が必要になったときに時間がかかり、コストもかかってしまう。

デザインを作り込み、細かな補修を行う必要がある前面部分は、ステンレスにはあまり向かないといえるかもしれない。そこで211系では、前面にFRPを使用したというわけだ。ステンレス車両で前面だけFRPというスタイルは、211系以降、209系やE231系の一部車両をはじめ、JR東日本のステンレス車両にも継承されている。京王電鉄9000系のように、前面にFRPではなく鋼鉄を採用した電車もある。

211系の「パンダ顔」はデザインだけではなく、実利的な意味もあったようだ。