元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな職業は「保育園の先生」です。

昔、アメリカでこんな出来事があったそうです。

とある保育園がお迎えに遅れる保護者に悩んでいた。

園長「これから、遅刻した親御さんには罰金を払ってもらいます」

親「わかりました」

保護者の遅刻は今までより増えたという。


みなさんは、友達や家族に何かしてほしくないことがあったとき、どのような約束をしますか。大学生の頃、友人がバスケットボール部に所属していたのですが、練習に遅刻すると、罰金500円を科されていました。大学生くらいの所得だと、500円の価値はすこぶる高く、そういった罰則が有効かもしれません(ここでは、罰金の是非は問いません)。

バスケ部の大学生が部活に遅刻する理由は、大概がだらしなさ由来のもので、やむを得ない事情がなく、罰金という具体的な制約によって、ルールを守らせることができます。

しかし、保育園の場合、保護者はだらしがないから遅刻するというのは少ないように思います。ほとんどの親が、早く子供を迎えに行きたいと考えていて、恣意的な行動で遅れるわけではない。それが、遅刻する保護者を増やす結果に繋がりました。

現在の日本の状況で考えると、保育園に子供を預けるのは、親が共働きであるとか、片親で働きに出ている間に預けるとか、そういった状況が想定され、仕事を終えてから迎えにいらします。

残業で、やむを得ず遅刻をすることがあっても、基本的には罪悪感があり(きっと、負い目がない人もいるでしょう)、可能であれば遅れたくない。しかし、保育園が、遅刻した者から罰金を取るという。つまり、お金さえ払えば、延長できるようになったと同義です。自分の時給や仕事を残して帰るさまざまなストレスと罰金を天秤にかけて、左のほうが重ければ、容易に遅刻をするでしょう。保護者は、お金さえ払えば遅刻しても良いという免罪符を得たのでした。

そういう事実と分析を載せるだけでは、読み物として満足度は得られない。「では、どうすれば良かったのか」というところまで考えたいと思います。

保育園に遅刻する保護者は、「保育園だから遅刻した」とも言えます。勤務先に遅刻した場合、遅れた分の給与が減らされてしまいますが、それだけの理由で遅刻しないわけではありません。上司の叱責を受けるとか、ばつ(←場都合)が悪いとか、評価に響くとか様々な要素があって遅刻をしないように行動しています。保育園のお迎えの時間に間に合わないを理由に、仕事を切り上げないのも同様です。

仕事には「遅刻してはいけない」というインセンティブがあるわけです。でも、保育園は、サービスの対価としてお金を払っています。保護者は、多かれ少なかれ“客”という認識を持っていて、遅刻して怒られることもありません。多少のきまずさはあっても、保育園側がコントロールすることは難しい。

学生の場合は、遅刻する理由が保護者のそれより優先度が低く、罰金を支払うくらいなら、遅刻しない努力をしたほうがまし、と簡単に思わせることができます。学生と保護者では所得にも差があるので、保育園の取るべき方法としては、「遅刻をしたくない」と思わせるほど罰金を高くする方法があります。高額な罰金を不快に思っても、保育園を転出入することは容易では無いので、保護者は遅刻をしないか高額な罰金を払うかの2択を迫られます。

あるいは、預かる時間がそもそも短いという可能性もあります。ぼくは保育園の専門家ではないので、レギュレーションはわかりませんが、預かり時間を長くするとか、預かり時間はそのままで開園を遅くするとか、そういったことも検討の余地があります。

ただ、保護者の数だけ都合の良い時間帯や生活リズムがあって、それを時間の変更だけで対応するのは現実的ではなく、保育園の運営のことを考えたら、結局、1時間の遅刻で5000円くらいとって、残業になった保育士さんにすべて還元するのが良いのではないでしょうか。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら