元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな小説の書き出しは「社会的波及効果の高い査察部の案件が6階から落ちてきた。」です。

我々芸人は個人事業者です。給与ではなく、報酬をもらっています。個人事業者なので、特定の会社の社則に縛られるようなことはありません。副業も禁止されていない。だから、複数の会社と取引するのが一般的です。

しかし、タレントという仕事をする以上、主要な取引先である所属事務所からの制限を受けるのは当然です。例えば、以前は所属事務所を通さない直接の取引は、慣習として禁止されていました。

芸人たちが好き勝手に取引をするようになれば、秩序は乱れるし、トラブルの原因となります。様々な会社と取引をしているとわかりますが、会社員でも変な人はたくさんいます。

後から値切る人や社会通念上相当でない金額を提示する人、予定されていない注文を付ける人、業務は完了したのに支払いをしない人、ただ単に失礼な人。そんな人間から守ってくれる所属事務所は、とても大切な存在です。価格の交渉も、我々より上手に行ってくれます。

ただ、取引先をひとつに絞ると、収入面ではおぼつかない。

ぼくの例でいえば、今年、所属事務所からの報酬が10万円を超えたことはありませんでした。もちろん、それだけでは生活はできません。

そんな芸人は大勢いて、みんなアルバイトをしています。

ぼくは、貧しい生活が耐えられないので、以前から他社と取引をしていました。仕事を安定してくれるわけでもない会社としか取引しないなんて、間違っています。制限を受けることを認めつつ、生活のために行動しています。そもそも、仕事はもらうのではなく、自分で得るもの、あるいは、作るものです。

取引先を1社に絞るリスク

1社であっても、会社にはさまざまな社員さんがいます。ぼくの所属事務所には、売れていない芸人に対して敬意を払ってくれない20代の女性社員さんが大勢います。挨拶も返してくれません。寧ろ、ぼくより年上の出世したおじさん社員の方が、丁寧に扱ってくれます。

ぼくとしては、自分より頑張っていない小娘に挨拶を無視されたりぞんざいな扱いを受けたりすることは、不条理だと思います。

でも、それを指摘すると「面倒な人」だと思われて、仕事をもらえなくなってしまいます。ミスがあっても指摘できません。芸人なんてたくさんいますから、ぼくのような特技推しの芸人でも、代替物が簡単に用意できるのです。

芸人の立場はとても弱い。

指名の仕事だけでは家賃も払えなので、芸人なら誰でもできる仕事を回してもらう必要がありますが、そのためにはそんな小娘にも媚びへつらわなくてはいけません。

ぼくは、そんなことはしたくない。そうすると、生活がままならない。

そういうリスクは避けなければなりません。毎月の生活に必要な所得を得られるだけの最低限の仕事を与えないならば、他社との取引を禁止するべきではないと思います。その点、ぼくの所属する事務所は寛大です。いつも感謝しています。

正社員が副業OKの時代に、個人事業者の芸人が副業を禁止されるなんて、ありえない。そういう実情を踏まえて、芸能事務所全体が良い方向に変わってきたんだと思います。

事務所からの独立の増加

今年は、所属事務所から独立したタレントの方が、大勢いました。事務所側も、はっきりと「移籍後の業務を妨害しない」と言ってくれています。

タレントの働き方も変わってきています。ぼくの所属事務所も、芸人の不満を聞き取って、環境改善に努めてくれています。これからもどんどん変わっていくかもしれません。反社チェックさえするのなら、個人的な取引も推奨されるかもしれない。

ぼくが他社との取引をするようになった頃、売れていない先輩たちは「直(接の取引)なんてやっていいの? 」とよく言っていました。

そういう先輩が、収入を大きく増やすことはないと思います。元に、今でも時給1,500円くらいでアルバイトをしています。芸人も、自分で収入を増やす努力をしなければいけません。所属事務所は、みんなのお母さんではない。

そういう人に限って、所属事務所の悪口ばかり言います。たくさんの会社と取引をして、如何に素晴らしい会社であるか、早く気づいてほしい。その感謝の気持が、次の仕事を得ることに繋がるし、収入を増やす上で必要なことだと強く思います。

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