本連載の第100回では「そもそも定時で帰らなくてもよいのではないか」と題し、本連載のテーマに敢えて疑問をぶつけ、その主張を検証してみました。今回は仕事をする際のマインドに着目し、費やした努力を忘れることが成長に繋がるという話をします。

「これまでに、どれだけ時間と手間をかけて作ったと思ってるんですか、せっかくここまでやってきたのを無駄にしたくありません」

手間暇かけて作った報告資料や時間をかけて行った分析作業など、時間と労力を割いた仕事については、その努力が報われてほしいと思うのは自然なことです。頑張れば頑張った分だけ見返りがあって然るべきという気持ちは分かりますし、そうでなければやっていられないというのも真っ当な意見です。

しかし、より高い成果を出す上ではこうした気持ちが時として邪魔になってしまうことがあります。それは努力の方向が間違っていたとき、もっと良い方法が見つかったとき、前提条件が変わったとき、などに起こります。

1. 努力の方向が間違っていたとき

これまでやってきた努力が、実は目的の達成に役立たないことが判明したときは愕然とするかもしれません。しかし、自分がやってきた努力に固執していても目的を達成することはできないので潔く忘れてすぐに軌道修正することが求められます。

例えば営業であれば、見込み顧客だと思って一生懸命にアプローチしてきた相手が実は決裁権限を持っておらず、決裁者へのパイプや影響力もないことが分かった場合などに当てはまるでしょう。そのまま同じ相手にアプローチし続けても受注に至ることは考えにくいので早急に修正する必要があります。

上司から依頼されているプレゼン資料作成であれば、いつも良かれと思って本編の内容を補足する資料を大量に作成していたものの、実はこれまで一度も使われたことがなかったと判明した場合などが該当します。しかしそれが分かったからといって「これまで何のために捕捉資料の作成に尽力してきたのか」と嘆いている場合ではありません。「不要な資料を作る手間が減って楽になった」と気持ちを切り替えて対応しましょう。

2. もっと良い方法が見つかったとき

現在進行形の作業について同僚と話していたら、同僚が一言「それをやりたいなら、こうしたらもっと早く楽にできるのでは?」と指摘をしてきて、しかもそれが的を射ていた場合には「もっと早く言ってよ」と思うでしょう。

しかし「今この仕事のやり方を変えたらこれまでの努力が無駄になってしまう」という理由でアドバイスを無視してしまってはいけません。アドバイスを採用するかどうかは「期限までの残り時間を考慮して、今の作業をそのまま継続する方がよいか、それとも中断して新しいやり方に変えた方がよいか」ということに焦点を当てて考えるべきです。

例えばエクセルを用いた分析作業において、複雑な関数を大量に駆使して手間暇かけて膨大な資料を用意していたとします。しかし同僚から「その資料、ピボットテーブルを使った方が簡単だし、他の観点からの分析も瞬時にできるからそちらの方がよいのでは」と言われたらどうでしょう。「確かにその方が作業効率は上がるし分析の観点も容易に増やせるな」と思ったのであれば「せっかくここまで関数で頑張って作ったのに」と躊躇している場合ではありません。即切り替えてピボットテーブルで作成し直しましょう。

3. 前提条件が変わったとき

その仕事を始めた時点では努力の方向性は間違っていなかったのに、仕事の前提が急に変わってしまい修正を余儀なくされるということがあります。そんなときに「ここまで頑張ってやってきたのに」と落ち込んでしまう方がいますが、めげている場合ではありません。前提が変わった以上は気持ちを切り替えて早急に軌道修正しましょう。

例えば取引先の社長や役員といった重鎮の方々との会議を行うことが数か月前から決まっていて、そのための準備を着々と進めていたとします。しかし緊急事態宣言の発出を受けて「急遽オンライン会議に変更して急ピッチで準備するように」と指示をされてしまったらどうでしょう。会場の手配や感染症対策など、これまでの手間が水泡に帰すことは確実です。しかし「最初からオンラインを前提にすべきだったのでは」と嘆いても仕方ありません。

社会や自社を取り巻く環境は刻一刻と変化しており、数か月、場合によっては数日前にベストな判断だと思われたことが前提条件の変化で悪手になってしまうことはやむを得ません。そんなときはそれまでの努力をきっぱり忘れて素早く方向転換するのが最善の行動です。

自分の費やした努力が無駄になってしまうのはとても残念ですが、落ち込んでいる暇はありません。過去ではなく未来に目を向けて「現時点でベストな判断は何か」を問い続けることと、それに応じて臨機応変な対応をするのが今の時代で成果を上げ続けるために必要だと心得ましょう。