いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、新宿の牛どん店「たつ屋 新宿店」です。

  • 51年も続く非チェーン"牛どん"店「たつ屋 新宿店」(新宿)


50年以上続く老舗"牛どん"店へ

新宿駅の東南口を出て、以前ご紹介したことのある定食屋「長野屋」を通り過ぎ、甲州街道沿いに数分。ほどなく左側に、「たつ屋」という看板が見えてきます。

立ち並ぶ雑居ビルの一角で、しかもお店の入口は奥まっているので、ちょっと見つけにくいかもしれません。ともかく、それが今回ご紹介する「たつ屋 新宿店」。

  • 入り口は、ちょっとわかりにくいかも

看板に「since 1969」と書かれていることからわかるとおり、51年もの歴史を持つ老舗の牛どん店です(お店の表記が「牛丼」ではなく「牛どん」なので、以下はそちらで統一)。

ちなみに「新宿店」となっているのは、かつて神田や銀座などにもお店があったからなのですが、現在はこのお店だけ。つまり「新宿店」という表記は、過去の名残りということになります。

飲食ビジネスの厳しさを感じずにはいられませんが、とはいうもののこのお店、なかなかクオリティが高いのです。もちろん規模は大手チェーン店に及ばないかもしれませんが、手づくり感のある、昔ながらの"正しい牛どん"が食べられるんですよね。

などと書いてはいるものの、お邪魔するのは十数年ぶりかもしれません。でも結果からいえば牛どんの味はまったく変わらず、懐かしさとともに大きな満足感を得ることができたのでした。

変わらない味がそこに

間口の狭い入口を入ると、客席はV字型になったカウンターのみ。左側奥が厨房になっていて、とてもコンパクトな……というより、狭いお店です。でもお店の人の調理の様子が見えるので、なんとなく安心感があります。

  • 厨房が見えるので安心

券売機はなく、注文は店員さんに口頭で伝えるシステム。ベーシックな「牛どん」は360円なので、価格的には高くもなく、安くもなくといった感じでしょうか?

ただし100円足すと、みそ汁とお新香がついた「定食」になるので、当然ながらそっちを選び、玉子も追加することに。

頼んだあとで気づいたのですが、メニューの端っこに

お勧めは、牛どん+納豆+玉子「納豆牛どん」 490
鳥どん+タルタル「タルタルとりどん」 460
です。
是非一度ご賞味下さい。

とありますね。なるほど、そういう頼み方もあったのか。これは、いつか試す価値があるかも。

  • この階段を上へ

さて、ほどなくみそ汁とお新香、そして生卵が運ばれてきます。味噌汁の具はワカメと油揚げ、ねぎ。お新香は白菜とベーシック。とっても"普通"でよいですね。

  • 牛どんの味を引き立てる脇役

次いで登場した牛どんは、期待どおりの、きわめて牛どんらしいルックス。見ているだけで食欲をそそられます。そうそう、これですよ。

  • 見た目にも正統派な牛どん

まずはそのまま食べてみたら、やっぱり昔と同じ味。じっくり煮込まれて味の染み込んだバラ肉も、しっかり煮込まれた玉ねぎと焼き豆腐も、なんだかホッとします。

  • 玉ねぎも焼き豆腐もじっくり煮込まれている

数十年のブランクが、途端に縮まったような感じ。20代のころにガシガシとかき込んで食べた記憶が、一気によみがえってきます。

そして途中で、紅生姜をイン(実は牛どんの懐かしさに魅了されるあまり、すっかり忘れていた)。さらに玉子をといてかけ、ジャンクな味を楽しむことにしましょう。

  • 紅生姜と玉子を加える

紅生姜の、人工着色料たっぷりな赤さもいいですね。見た目にも食べ方にも上品さとは無縁ですが、牛どんは、やっぱり豪快に食べたいものです。

なお時刻は午前11時半を少し過ぎたあたりだったため、店内にはまだお客さんは数人だけ。ということで店員さんも手が空いていたようで、話す声が聞こえてきます。

なんでも、以前は多かった外国人のお客さんの数が、新型コロナの流行以降、ぐっと減ってしまったのだとか。仕方がないことではありますけれど、ちょっと複雑な気分ではありました。

ただし見る限り対策は万全なので、安心して利用してほしいところ。ダイエットを意識するあまり牛どんは(好きなくせに)食べないようにしていたのだけれど、僕も今後、たまにはまた立ち寄ることにしよう。


●たつ屋 新宿店
住所:東京都新宿区新宿3-35-2
営業時間:[月~金]10:00~22:00、[土日]7:30~21:00、[祝日]10:30~21:00
定休日:無休