悲しすぎる落とし物

私は数年に一度のペースでやらかすことがある。それは"落とし物"だ。学生時代には着けていたはずの時計をなくしたことがあるし、新社会人時代には家の鍵が付いたキーケースを落とし、去年のクリスマスイブにはお気に入りだったカードケースを落とした。いずれも私の手元には帰ってきておらず、カードケースに至っては、私が誰かのサンタになってしまったようだ。

どれも落とした時はしばらくショックで立ち直れなかったが、中でも一番引きずったのが、3年ほど前に落とした柘植(ツゲ)の櫛だった。国産の材料を使ったものだったので当然安くはなく、やっとの思いで買った櫛だったのに、使用期間半年ほどでなくした。

どこで落としたのか皆目見当もつかず、血眼になって探したものの、見つからず。もう一度同じものを買うにはお金も気力もなく「こんなとこにいるはずもないのに……」と某名曲を脳内に流しながらワンモアタイムワンモアチャンスと探し回る日々を送った。

やはりそれでも見つからず、しかし櫛はないと困るので、仕方がないからドラッグストアで適当な櫛を買った。けれども、どう頑張っても使用感は雲泥の差で、あの幻と化してしまった柘植櫛への思いは募る一方だった。

そして再購入へ

結局柘植櫛への思いは断ち切れず、よく行くデパートの物産展に柘植櫛を扱うお店が出店するとの情報を聞きつけ、再度購入に踏み切った。といっても、正直「また買ってもいいのか……」とデパートに着く寸前まで迷っていた。

が、実物を手にし、髪を梳かせてもらうと、そんな迷いは一気に消えてしまった。久しぶりに柘植櫛で梳かした私の髪はとたんにツヤツヤ&サラサラになってしまったからだ。櫛どおりがなめらかで気持ちがいい。その時私の抱っこでぐっすり眠っていた息子の髪も梳かしてあげたら、やはり気持ちよさそうにしていたので、思い切って購入することにした。

やっと買い直せた柘植の櫛

柘植櫛を再度購入して1年が経過したが、やっぱり思い切って買ってよかった。たまのお手入れも楽しくやれるほど気に入っている。しかし気に入っているのは私だけでなく……。まさかの息子もこの櫛がお気に入りらしく、私が櫛を手にしていると、息子も全力で奪い取ってきて自分で髪を梳かしたがるのだ。 それだけならまだよかったのに、先日、息子に櫛を持ったまま手を振り回され壁にぶつかり櫛の歯が一本欠け、本気で泣いた(私が)。それ以来、できるだけ息子から隠れて髪を梳かすようになったのは言うまでもない。

燻されているので最初は燻製の香りがします

著者プロフィール: ゆるりまい

1985年生まれ。仙台市在住。漫画家、イラストレーター。
夫、母、息子の人間4人 +猫4匹ぐらし。
生まれ育った汚家の反動で、現在ものの少ない暮らし街道爆進中。
ものを捨てることが三度の飯より大好きな捨て変態。
そんな日常を描いた『わたしのウチには、なんにもない。』(KADOKAWA)は2016年、夏帆主演で連続ドラマ化された。
現在cakesにて「ゆるりまいにち猫日和」、赤すぐにて「赤すぐみんなの体験記」を連載中。