“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間。大きな湯船に全身を預け、浮遊感を味わいながらポカポカ温まる安らぎの場、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまで紹介する。日々の疲れは、湯船に置いて帰ろう。
今回は、東京都のJR東中野駅から徒歩圏内(東京メトロ東西線・落合駅周辺も含む)にある、中野区内の銭湯3軒をピックアップ。店舗それぞれの設備情報やおすすめポイント、料金・アクセス・営業時間など基本情報を添えて紹介する。
JR総武線の沿線内でも屈指の韓流タウン・新大久保と、「中野ブロードウェイ」に代表されるサブカル中心地・中野。だがその間に挟まれている東中野は、両隣が観光地化して久しいのを横目に、現在も強めの生活感が漂う街並みだ。駅ビル「アトレ」と西口から近くの「サミット」以外には量販店も少なく、率直に言うと地味な印象ではある。
しかし駅から一度降りてみれば、東中野は多くの優れた飲食店や文化スポットが揃い、飾らないながら独特の個性・魅力に満ちた街でもあるのだ。さらに駅周辺では3軒の銭湯が今なお営業しており(※新宿区内のものも含めると4軒)、そのいずれもが大規模リノベーションや細かい改良によって充実した設備とサービスを提供している。おまけに3軒とも非常に良質なサウナがあるので、東中野はサウナーならばぜひ訪れておきたい穴場スポットだと言える。
露天スペースにプール! 軟水&サウナ&水風呂と設備充実『アクア東中野』
JR東中野駅の改札は山手通りに面したロータリーがある西側、南北に2つの出口がある東側に分かれる。特に東側の方は西側に比べると下町的な色合いが濃く、イタリアンやステーキ、トルコ料理など良質な飲食店も多い。そうした地域の中にあるのが、今回最初に紹介する『アクア東中野』だ。
アクア東中野の歴史は長く、実に100年以上も前に千駄ヶ谷で創業。1956年(昭和31年)に現在地へ移転して屋号を「富士の湯」とし、後の1992年(平成4年)に建物を現在のビル型に建て替え、屋号も現在のものに改めている。周辺界隈でも特に人気が高く、特に休日の夕方には大混雑も珍しくない。
男湯の構成はジェットバス(背中ジェット・脇腹ジェット)と冷水枕付きのリラックスバス(バイブラ付き寝風呂)2種類を備えた大浴槽、炭酸泉、水風呂、サウナ。加えて露天スペースには屋外プールと露天風呂(日替わり薬湯付き)がある。浴室の水はすべて天然地下水の硬度を極限まで下げた高純度軟水となっており、トロトロと柔らかい肌触りが魅力だ。
最大の特徴はやはり露天スペースだろう。屋外プールは全長7mもあり、実際に泳いでもよいほか、水風呂の代わりとして利用する人も多い。露天風呂もぬるすぎず熱すぎずの湯温に保たれており、木酢液やコラーゲンなど薬湯の効果もあいまって冬でもポカポカ。頭上の空を見上げながらじっくり露天風呂で温まるのも心地よいし、露天風呂とプールを交互に入れば露天スペースだけで温冷交代浴もできる。
また、浴室内の大浴槽は湯温が若干高い設定になっており、横の炭酸泉で身体を慣らしてから浸かると、熱が肌をグワッと刺激してくる。ジェットバスなども泡圧は強めで、こちらも熱めの湯と合わさってマッサージ効果が高い。浴槽に面した窓の向こうにはTVモニターもあり、盛況時は多くの人が大浴槽につかりつつTVを眺める風景が定番である。
サウナ設備についてもぬかりはない。室内は14~15人程がゆったり入れる広さになっており、近年の改修で内装も真新しく清潔。温度設定は高いうえに毎時0分・20分・40分の3回オートロウリュで蒸し上げるので、力強い熱波を求めるサウナーも満足させてくれる。反対に水風呂はかなり低めの水温であり、サウナで火照った肌をキリッと急速冷却したい時に嬉しい。以上のように水質・設備数・露天スペース・サウナと水風呂、いずれも隙がないうえに駅近という優良店である。
『アクア東中野』:東京都中野区東中野4-9-22/最寄駅:JR総武線「東中野駅」から徒歩2分/15:00~24:00(月曜休)/料金:入浴550円、サウナ込入浴料1,050円(レンタルバスタオル付)、レンタルタオル50円(フェイスタオル)/駐車場なし
リノベーションで都内屈指の「サウナー御用達」人気店に進化!『松本湯』
アクア東中野の場所から、区検通りに戻って北方向に徒歩7分ほど歩いていくと、早稲田通りと東西線・落合駅の近くにあるのが『松本湯』である。1936年(昭和11年)創業で、1989年(平成元年)に木造からビル型へ建て替え、2021年に再度のリニューアルで現在の形に。昭和・平成・令和と時代ごとに姿を変えている銭湯だ。
現在の松本湯は近隣のみならず、都内でも有数の人気店。TV番組や雑誌などでも、東中野の話題や銭湯の話題にあわせて頻繁に登場する。入口は道路から奥まった場所にあり、神社の鳥居を思わせる木のゲートが連なる先に、ご主人のお母様の筆文字を移した店名看板が暖色に灯っている。
ロビー部分は白く広々とした休憩スペースになっており、入浴後の休憩客や順番待ちの客に向けてテーブル付の座席が幾つか用意されているほか、奥には琉球畳を敷いたお座敷スペースも。この銭湯のマスコットとも言える、スッポンモドキの「かめきち」君が泳ぐ水槽もあって、愛らしさで多くの客を和ませている。
浴室内はリノベ銭湯の最新トレンドでもある、どことなく和の雰囲気も取り入れたシャープなモダンスタイル。リニューアル前は浴室中央の大きな円型浴槽が特徴的で、ルネ・マグリットの絵画を思わせるタイル絵が浴室奥を飾っていたが、そこからのイメチェンぶりが顕著である。現在はタイル絵の代わりに大画面のデジタルサイネージが設置され、自然の風景や銭湯コラボ商品の紹介、入浴時の注意点などを映している。
浴槽設備は非常に強力。ラドン温泉と近い効果を持つ「バドガシュタイン鉱石」と「紀州備長炭」を用いた中温風呂、段差が手前と奥に2箇所ある高温風呂、ジェット付きの寝風呂2席と座風呂2席、強弱2種類の電気風呂、水温16℃と28℃と2種類の水風呂、そしてサウナまで、全てが健康と癒やしに配慮したハイスペックぶりだ。露天スペースはないものの、防水畳と天井からの空調が付いたお座敷タイプのととのいスペースまで設けられている。
とりわけこだわりが光るのが水風呂とサウナ。サウナの利用人数は約20名とかなり広く、薄暗い室内のなかで静かなジャズBGMに耳を傾けていると、じっくりと瞑想じみた発汗体験を楽しめる。また、水風呂2種類のうち低温の方は入口から奥に向けて階段状になっており、男湯の方で一番深い場所はなんと水深150cm(女湯は水深135cm)。水風呂の最深部に立ちながら上下での水圧・水温変化を味わい、適度に冷えた所で畳敷きのスペースでととのい、落ち着いたらまたサウナで瞑想……というルーチンには中毒性すらありそうだ。
これに惹かれて多くのサウナーが詰めかけるため、休日には入場制限がかかり、浴室に入るまで長い順番待ちというケースも珍しくない。幸いなことに、おおよその待ち時間は松本湯のX(旧Twitter)アカウントで随時公開されている。よほど時間が掛かりそうな時は先にロビーで待ち順の番号だけもらっておき、その後は近隣の散歩などで時間調節というのを推奨する。
『松本湯』:東京都中野区東中野5-29-12/最寄駅:東京メトロ東西線「落合駅」から徒歩3分、JR総武線「東中野駅」から徒歩8分/14:00~24:00、日曜日のみ8:00~12:00・15:00~24:00(木曜休)/料金:入浴550円、サウナ込入浴料1,050円、レンタルタオル50円(フェイスタオル)、100円(バスタオル)/駐車場あり(店舗裏、2台)
脱衣所2階に外気浴スペース、2020年改装『健康浴泉』
JR東中野駅の西口ロータリーから山手通りをまたいだ先に『ギンザ通り』という商店街がある。こちらも東口周辺と同様に、居酒屋や町中華など多くの飲食店が連なっている一角だ。その通りを数分進んだ先に、ピンク色の「健康と美肌の湯」という看板の目立つ『健康浴泉』がある。
健康浴泉はコロナ禍さなかの2020年12月にリニューアルし、浴室内はベージュカラーの温かい雰囲気となっている。店舗規模は松本湯やアクア東中野に比べると比較的コンパクトであり、2店よりもゆったりと落ち着いた雰囲気の店舗だ。
構成は高濃度炭酸泉、シルキーバス、ジェットバス、電気風呂、水風呂、サウナ。男湯の炭酸泉は隣に大きな窓があり、ちょっと早く日中に入浴すると炭酸の泡が日光できらめき目にも嬉しい。浴室の水はアクア東中野と同様に軟水を使用しており、その説明看板を浴室内にも設置。軟水パワーとともに肌へやさしいシルキーバス、強めの勢いで身体をほぐすジェットバスなど、店名に違わず健康への思いやりに富んでいる。
サウナは男女で種類が異なり、男湯は高温ドライサウナ、女湯はコンフォートサウナ。室内はレンガを貼ったナチュラルテイストで、照明はかなり明るい。薄暗くシックな間接照明を活かした現在のトレンドとは異なり、昔ながらの王道サウナという趣きがどことなく感じられる。
また、意外な特徴があるのは脱衣所。ここには2階に上る階段があり、その先はととのい椅子や畳敷きのベンチを備えた、ウッドテイストの外気浴スペースとなっている。身体をよく拭いてから浴室を一旦出て、2階の椅子で腰掛けていると開放感抜群。ひと休みしたらまた浴室へ……というルーチンを組むと良いだろう。
『健康浴泉』:東京都中野区東中野3-17-3/最寄駅:JR総武線「東中野駅」から徒歩5分、東京メトロ東西線「落合駅」から徒歩5分/15:00~24:30(水曜休)/料金:入浴550円、サウナ350円(フェイスタオル、バスタオル、サウナマット付)/駐車場なし
東中野は地味ながら独特の魅力ある街
さて、東中野はもちろん銭湯のみを目的に訪れても良いのだが、時間があるのならばその前後に多少の余裕をもって、駅周辺を歩いてみることを推奨する。東中野は都内の他エリアとは少し違った雰囲気や風景を持っている、地味ながら散策に向いた街なのだ。
東中野はJR総武線と都営大江戸線が交わっており、特にJRの駅西口ロータリーは再開発でスッキリした景観だ。ロータリーは南北方向に伸びる山手通りと隣接しており、駅から南北に少し離れた場所には、通りに沿って首都高速道路・中央環状線の山手トンネル路内換気塔が連なっている。この白い塔は2008年にグッドデザイン賞を受賞しており、街路樹で彩られた幅広の通りに、大きな白柱が立ち並んでいるような独特の景観を生んでいる。
東中野は、駅周辺に個人店からチェーンまで、飲食店・居酒屋・カフェが意外に多い。特にJR東中野駅の南北や西側のギンザ通りに沿って飲食店が集中しているので、銭湯とサウナで満足したあとの「サ飯」に好アクセスなのも長所だ。
また、東中野は文化面でも注目点がある。駅の北側には中野区唯一という映画館「ポレポレ東中野」があり、ドキュメンタリーやアート系作品などを中心に公開している。駅の南側にも日本美術やアジア美術を展示するミニ美術館「東京黎明アートルーム」、平安時代後期の1030年(長元3年)に創建された「中野氷川神社」など、文化や歴史にまつわる施設が多いのだ。かつては駅西口に「モナミ」という洋食レストラン兼結婚式場があり、そこを岡本太郎や江戸川乱歩といった多くの文化人が利用していたという。そうした風土は、今でも街に健在なのだろう。
加えて、2025年12月からは中野区が「東中野駅東口周辺のまちづくり基本方針」の取りまとめを開始。将来的には都心部への近さや神田川沿いの水辺環境を活かし、駅東口の回遊性やバリアフリーを強化し、安心・安全かつ賑わいある街作りをめざすのだという。東中野の街がさらに活性化すれば、その街に複数ある銭湯も現在以上に注目されるようになり、ひいては東中野が銭湯文化再興の中心スポットになるかもしれない。













