今回は、この連載初の南半球、大自然広がるニュージーランドである。ニュージーランドは、日本と同じぐらいの国土で人口約400万人というから、人口密度は日本の30分の1ということになる。そこに年間約240万人もの観光客が訪れ、観光収入がGDPの10%以上を占めるという観光大国。そのニュージーランド一番の魅力は、もちろん手付かずの自然が残る美しい国土である。

どこまでも大自然が広がるニュージーランド。空気が本当に美味しい

日本からニュージーランドへは、ニュージーランド航空の直行便で11~12時間ほど。世界地図を真っ逆さまに日本から下りていく感じである。ちなみに、ニュージーランド航空は、離着陸時もリクライニング可能なフルフラットのビジネスクラス「ビジネス・プレミア」が人気である。とはいえ、貧乏旅行者の僕は、もちろんエコノミークラス。もっとも、観光客が多い路線だけあって、エコノミークラスのサービスもかなり充実している。日本語でも楽しめるオンデマンドのシートテレビが全席に付いているし、何より美味しいニュージーランドワインが楽しめる。エコノミーであたたかいパンがサーブされるのは、初めての経験でうれしい驚き。おかげで、10時間以上の長距離フライトにも関わらず、あまりストレスを感じることなく、日本からニュージーランドへ到着する。

ニュージーランドは南島と北島の大きな2つの島が国土の中心だ。このうち、日本からの観光客が多いのは、マウントクックやミルフォード・サウンドなど有名な見所が多い南島である。だが、なぜか僕が向かった先は北島の南端にあるニュージーランドの首都・ウェリントンである。

ニュージーランドは、鉄道があまり発達しておらず、移動はもっぱら車か飛行機。ニュージーランド航空は国内線の路線網も発達しているので、非常に便利。バスに乗るような感覚で国内線に乗り継げる

さて、ウェリントンは首都とはいえ、人口30万人ほどというから、日本の地方都市のような雰囲気。ウェリントンは、緯度でいうと日本の東北地方ぐらい(南緯と北緯の違いはあるが)。夏もわりと涼しく、かといって冬は日本の東北地方ほど寒くなく、一年中温暖でさわやかな気候なので、徒歩でぶらぶらと街中を歩き回わるのが楽しい。

ウェリントンのビジネス街。高層ビルはほとんどないので、空が広い。空気も澄んでいて、東京とはまったく雰囲気が異なる。こんな環境なら、僕ももっと良い仕事ができるのに(ホントか?)

ビジネス街を抜けると見えてきたのが国会議事堂。通称、ビーハイブ(蜂の巣)。のどかな雰囲気で、囲いがあるわけでもなく、前庭をぶらぶら散歩できる。ただし、内部は一般公開されていない

(左)ビジネス街の一角、ラムトン・キーからケーブルカーに乗って終着駅まで行けば、ウェリントンを一望できる。日本人の感覚だと、首都とは思えないこじんまりした街が広がる(上)鉄道のウェリントン駅。ここから北島北端にあるニュージーランド最大の都市、オークランドまで鉄道で行くこともできる。もっとも1日1便しかなく12時間ほどかかるので、1時間ちょっとで行けて、便数も多い飛行機が一般的

ニュージーランドは、1800年代、イギリスが入植後に整備された街が多いということもあり、また人口が少ないということもあるのだろう。街全体が非常にきれいで明るい雰囲気だ。郊外も市街地もイギリス文化の影響を強く受けているが、古くて狭くてなんとなく陰気な(笑)イギリスと違って、ニュージーランドの各都市は明るくて解放感に溢れている。そんな気質を反映してか、オリジナルブランドの素敵なお店も多く、日本より物価は安いので買い物も楽しい。

ウェリントン一のショッピング街「キューバストリート」。早足で歩くと10分ほどで通り過ぎてしまうので、のんびりと買い物を楽しもう

ニュージーランドの先住民「マオリ」の伝統工芸を取り入れたデザインの物も多い

そして、実はこの街、映画ファンには必見の街なのである。ピーター・ジャクソン監督『ロード・オブ・ザ・リング』は、ニュージーランド国内のあちこちで撮影されているが、その視覚効果でアカデミー賞を受賞した制作会社、ウェタ・デジタルは、ここウェリントンの会社だ。そのウェタの世界を堪能できる施設「ウェタ・ケーブ」では、限定版のフィギアや関連グッズが販売されている。

ファンなら必見のお宝が並ぶ「ウェタ・ケーブ」。ウェタ・デジタルの制作過程などを20分ほどの映像で見ることもできる

ウェタ・ケーブでウェタの世界を堪能したら、次は『ロード・オブ・ザ・リング』のロケ地の1つ、ビクトリア・マウンテンに上がってみるといいだろう。

ビクトリア・マウンテンの展望台からは、ウェリントンの街を一望できる。ちなみに、ケーブルカーで登ったのは、この写真の街の向こうに見える山

ビクトリア・マウンテンの中腹にあるこの林が、ロード・オブ・ザ・リングのロケに利用されたそうだ。そういわれると、突然、神秘的な森に見えてきた(笑)

ウェタ・ケーブやビクトリア・マウンテンは、ウェリントンの市街地から車で20分ほど。徒歩で行くのはちょっと厳しい。だが、タクシーを頼んでも数千円、また市内からロード・オブ・ザ・リングゆかりの地を巡るツアーなども出ているので、ホテルなどで聞いてみよう。行くのはそんなに難しくない。

ニュージーランドのことを知りたければ、海外沿いにあるテパパ博物館を訪ねてみよう。先住民、マオリの資料などが充実している

ニュージーランドの街の例に漏れず、ウェリントンもアクティビティは充実。シーカヤックを借りて、ウェリントンを海から眺めるのも楽しそう

ウェリントンをヘリコプターに乗って上空から眺めることもできる。ただし、20分で200NZドル(1万2,000円程度)とちょっと高め

天気のいい日のウォーターフロントは、散歩していて本当に気持ちが良い。ただし、ウェリントンはわりと曇っている日が多いらしい

かわいい家が建ち並ぶ、ウェリントンの風景。ニュージーランドは、国全体がオシャレな雰囲気。豊かな自然とのんびりとした生活が、クリエイティブな心を養うのだろうか

街中には、こんなオブジェも。非日常な風景が日常に溶け込んでいるから面白い。でも、このオブジェ、実際に歩くと結構ジャマ(笑)

ところで、なぜ僕がウェリントンを訪れたのか。人口が少なく、工業などで他の国に対抗するのが難しいニュージーランドだが、その分、一人一人の才能を伸ばすのに長けている。特に、豊かな自然とのんびりとした生活、さらにクリエーターを大事にするお国柄もあって、ニュージーランドは世界中にデザイナーなどを輩出している国だ。そんなニュージーランドが発信する新しいアートの形「モンタナ・ワールド・オブ・ウェアラブル・アート(WOW)」を見るのが今回の最大の目的だ。

WOWは、毎年春、9月か10月ぐらい(日本では秋)にウェリントンのウォーターフロントにあるTSBバンク・アリーナで開催されている

開催期間中は、街全体がアートの街になったようなウェリントン。本当にこの街は、小さいながらも絵になる光景がいっぱいで写真好きにはたまらない

一見ファッションショーのように見えるWOW。だが、実際に見てみると、ファッション以外にも、出演者のアクションやそれを引き立てるライティングなど、さまざまな観点から全体を"作品"として仕上げているのがわかる。「壁から絵を取り出し、人間の体を画布として描いた動く芸術の祭典」という主催者の説明、聞いたときはピンと来なかったが、実際に見てみるとなんとなく理解できた(ような、できないような)*画像をクリックすると、拡大画像が見られます

僕は、なんの縁からか、世界的なファッションショーやブロードウェイほかのミュージカルなど、実はこれまでに結構いろんなショーを見ている。それら、すでに高い評価を得ているショーと比べても、このWOW、かなり面白い。ファッションを楽しんだり、出演者のアクションを楽しんだり、コミカルな表情を楽しんだり、2時間ちょっとという長丁場にも関わらず、まったく飽きずに見ていられる。

さて、ここまででもずいぶんと長くなってしまったのだが、次回はこのWOW発祥の地、ネルソンについてお届けしよう。