上司が苦手? 転職したい? 空気を読んで疲れる? ―それ、全部「三国志」です。ブレーンは疲れ、筋を通せば孤立し、情で動けば浮く。2,000年前の英雄たちの物語は、驚くほど現代の職場そのもの。歴史をヒントに、仕事と人生を読み解く連載「世の中、だいたい三国志。」

第4回のテーマは「孫権タイプは“地味に最強”? 」。


合理主義のカリスマ・曹操。人徳溢れる英雄・劉備。そして呉のリーダー・孫権。三国志の主役といえば、やはりこの三人である。……が、正直なところ孫権だけ、やや影が薄い気がしないだろうか。

兄の孫策は若き英雄で、周瑜と固い友情を結び、武勇にも華もある。一方の孫権はというと、「顔は四角く、大きな口」「紫色のひげ」「胴長短足」など、その人物評はなかなか容赦がない。

だが、この人が実は三国で一番長く国を保ったリーダーだったことをご存知だろうか。今回は、そんな「孫権タイプ」のお話。

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孫権(そんけん)って?
三国志に登場する「呉(ご)」陣営のリーダー。19歳で父と兄の跡を継ぎ、若くしてトップに立った二代目タイプ。自ら前に出るのではなく有能な人材に大胆に任せ、組織を長く安定させた。慎重な判断と柔軟な外交で国を守り抜いた“調整型リーダータイプ”です。


戦国時代、19歳で“トップ就任”という重圧

父は名将・孫堅、兄は江東の覇者・孫策。身内に恵まれた孫権だったが、偉大なる兄は20代半ばという若さで急死してしまう。

そのあおりを受け、孫権が江東の支配者としてトップに就任したのは御年19のとき。「急に創業社長の弟が社長に就任することになった」みたいな状況である。

しかも、時は戦国時代。外には曹操、劉備という怪物たちがいる。そのプレッシャーはハンパなものではなかったはずだ。

家臣の多くも「こんな若い主君で大丈夫か?」と不安を感じていただろうし、普通に考えればすでに詰んだ状況だとも言える。冗談抜きで、いつ潰れたっておかしくない。

だが、孫権は普通の武将とは毛並みが違った。兄・孫策も「兵を率いて戦に勝ち、天下を争うのは俺の方が上だ。けど、人を使って江東を守るのはお前の方が向いている」と評していたらしい。

“脳筋”を一流の戦術家に! 人材を活かす力が異常に高い

孫権の最大の強みは、自分が前に出ないことだった。その代わり、人を使うのが上手い。

赤壁の戦いでは、周瑜に全権を任せて魏を完璧に迎撃。外交では魯粛を全面的に信頼し、劉備らとの「孫劉同盟」を結成。強大な魏に正面から対抗した。後には呂蒙、陸遜といった若き将軍を大胆に抜擢し、蜀に決定的な大打撃を与えている。

ここに孫権の面白さがある。普通のトップであれば、当然ながら「自分で判断する」「自分が指示する」となりがちだ。何も悪いことではない。

だが、孫権は違う。適材適所で、大胆に任せる。例えば呂蒙の話が有名だ。呂蒙はもともと貧しい出身で、武には優れていたが、学がほとんどなかった。戦では強いが、まるで教養が足りなかったのだ。

そんな呂蒙に、孫権はアドバイスを送った。「忙しいのは分かる。でも勉強した方がいい。主君の私だって耐えず本を読んでいるんだから」。呂蒙はかなりゴネたようだが、孫権は実体験を交えながら粘り強く説得したようだ。

結果、呂蒙は猛勉強して一流の戦術家に成長。後に蜀の軍神・関羽を討ち取るなど値千金の活躍を見せた。このエピソードからもわかるとおり、孫権は人材を育て、才能を引き出し戦力に変える優秀なリーダーだったのである。

魏にも蜀にも寄らない“バランス外交”と「決断が遅い」という武器

もう一つの特徴は、外交の柔軟さだ。

曹操の大軍が攻めてきたとき、孫権は劉備と同盟を組んで赤壁の戦いに臨んだ。劉備との友好関係を確固たるものにすべく、妹の孫夫人を嫁がせたほどだった。しかし後に荊州をめぐって関羽を討ち、劉備と決裂。魏に接近することになる。が、さらに時代が変わると再び蜀と国交を回復させ、再び魏に対抗するに至る。

このコロコロと変わるスタンスを見て「節操がない」と感じる人もいるだろう。だが見方を変えると、江東や呉を守るために最適な選択をしていることがわかる。正面からぶつかるのではなく、状況に応じて形を変える。結果として呉は、三国の中で最も長く存続する大国となる。

孫権の統治でよく言われるのが、「決断が遅い」という評価だ。だが裏を返せば物事に対して慎重であり、部下たちの意見に丁寧に耳を傾けた結果のことだ。これはリーダーとして、かなり高度な能力でもある。

  • イラスト:井内愛

    イラスト:井内愛

多くのトップは、「決断の速さ=リーダーシップ」だと思っている。だけど、それがすべてではない。情報が揃うまで待つ。複数の意見を聞く。情勢を見極める。この「待つ力」は意外と難しいが、その分、決断が早いリーダーよりも確実で深みのある判断ができるパターンも少なくない。

派手なカリスマはないかもしれない。しかし、熟考を厭わない孫権だからこそ、組織は安定したのだ。

カリスマよりも「持続可能なリーダー」

三国志のリーダーたちを比較してみると、曹操は「スピード」や「合理性」、劉備は「人徳」、そして孫権は「安定」と「調整」に、それぞれ秀でているように思う。そして実は、一番難しいのが孫権型ではないだろうか。

派手な改革をする社長は話題になる。だが、その後を継ぐ二代目は大変だ。組織を壊さず、 人を活かし、長い間これを持続させる。そこにはカリスマとはまったく別の才能が求められるが、孫権はまさにそのタイプだった。

歴史の主役にはなりにくい。でも、だからこそ国は長く続いた。世の中、だいたい三国志。もしあなたの上司が慎重で決断が遅く、人に任せるタイプであれば、それは持続可能な組織づくりに秀でた孫権型リーダーなのかもしれない。「地味なリーダー」「攻めないリーダー」などと見くびらず、改めてその本質を見極めてみよう。

あなたは孫権? 曹操? 孔明?

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