上司が苦手? 転職したい? 空気を読んで疲れる? ―それ、全部「三国志」です。ブレーンは疲れ、筋を通せば孤立し、情で動けば浮く。約1,800年前の英雄たちの物語は、驚くほど現代の職場そのもの。歴史をヒントに、仕事と人生を読み解く連載「世の中、だいたい三国志。」

第2回のテーマは「キャリアがジグザグな劉備の逆転人生」。


履歴書を出すのが怖い。「転職、多いですね」「一貫性がないように見えます」と思われるんじゃないか。……と、不安で仕方がない人もいるだろう。

今回の主人公は劉備玄徳。三国志の実質的な主人公でありながら、そのキャリアを冷静に眺めると、まあ落ち着きがない。今の基準で見たら、書類選考はかなり不利だろう。しかし劉備は、そんなウィークポイントを補って余りあるだけの魅力を備えていた。

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劉備(りゅうび)って?
三国志に登場する「蜀(しょく)」陣営のリーダー。転職・転居を繰り返す流浪キャリアながら、どこへ行っても人に慕われ、仲間を増やしていった共感型リーダー。三顧の礼で諸葛亮を迎え入れ、天下三分の計を実現。ジグザグな道のりを経て頂点に立った“大器晩成タイプ”です。


履歴書は真っ黒、将来設計は真っ白!

劉備のキャリアのスタートは驚くほど地味だ。父を早くに亡くし、母と二人、わらじを編んで生計を立てる日々。漢の皇帝の末裔だという体(てい)で育てられたようだが、実家が太いタイプではまったくない。

若い頃に学問は修めたものの、いきなり出世できるほど世の中は甘くない。黄巾の乱が起きると義勇軍を結成し、関羽、張飛という最強クラスの仲間を得るが、戦っては負け、拠点を得ては失っていく。

その歩みは波乱の連続で、まず公孫瓚のもとへ行き、陶謙に拾われ、徐州を治めるようになるも呂布にブン取られ、曹操の庇護を受け、袁紹を頼り、劉表のもとに身を寄せる……といった転職の連続である。

合計何社で働いたのかわからないが、会社都合退職ならまだしも、時勢を読んで自主的に去るケースも多く、確実に履歴書は真っ黒。安定とは程遠く、将来設計は真っ白。結果的に偉人になれたからいいものの、改めて考えてみれば本当に綱渡りの人生である。

転職多めで評価されにくいが、なぜか人がついてくる!

ここで不思議なのは、劉備はどこに行っても人に嫌われないという点だ。むしろ愛されたと言ってもいいだろう。

八方美人で不信感を抱かれるかと思いきや、「前線を任せてみよう」「兵を預けてみよう」といった具合に、どこでも即戦力として扱われる。あの曹操に至っては、「天下の英雄は、君と私だけだ」とまで言っている。これは数字や肩書きだけでは測れない評価だろう。

  • イラスト:井内愛

    イラスト:井内愛

劉備は口達者でも、カリスマ的な演説をするわけでもなかったように思う。ただ、人前に立つと「この人についていってもいいかもしれない」と思わせる何かを持っていたに違いない。異動が多く、部署を転々とし、プロジェクト単位で動いているのに、なぜか常に声がかかり続けるタイプである。

ただし、本人はずっと不安を抱えていたようだ。

劉表のもとで穏やかに暮らしていた頃、劉備は宴席で、「最近、馬にも乗らず、太ももに肉がついてしまった。何の功績も上げられないまま老いていくのが怖い」と涙していた。有名な「髀肉之嘆」である。典型的な大器晩成タイプなのでひたすら踏ん張るしかないのだが、当の本人は先のことなどつゆ知らず、「俺はこのままでいいのか」とずっと悩み続けていたのである。

我々現代人にも刺さる話だろう。転職を重ねてきた人ほど、ふと立ち止まったときに不安になる。「結局、私は何者なんだろう」「キャリアに一本筋が通ってない気がする」。劉備も、まさにその真っただ中にいたというわけだ。

いよいよ大仕事!「天下三分の計」が成立

転機は荊州時代。負け続きの人生に嫌気がさして、水鏡先生こと司馬徽に相談した劉備はこう言われる。

「あんたにはブレーンがいないんだよ」

そうして巡り合ったのが、諸葛亮孔明だ。三顧の礼で孔明を得た劉備は、そこから一気に駆け上がる。赤壁を経て、荊州を得て、蜀を取り、ついには皇帝に即位。曹操、孫権、そして劉備の三勢力で天下を統一する「天下三分の計」を成立させたのだ。わらじ売りから皇帝へ。まさに世界史に残る立身出世物語である。

もちろん、晩年は失敗もする。関羽を失い、感情に任せて呉に攻め込み、夷陵で大敗する。それでも、劉備の人生を失敗だと言う人は少ないだろう。

劉備の生涯を見て思うのは、「キャリアの綺麗さ=武器」ではないということだ。無論、キャリアは汚いほうがいいと言いたいわけでは全然ないが、少なくとも「転職が多い=意志が弱い」ではない。劉備は、その時々で生き残る選択をしてきただけだし、結果として人脈と経験が積み重なり、最後には大きな器として花が開いた。

世の中、だいたい三国志。一直線に進む英雄もいれば、回り道を繰り返して天下を取る人もいる。履歴書がジグザグでもいい。その線が、あとから意味を持つこともある。紆余曲折を経た劉備の足取りは、「ジグザグは武器になりうる」ということを、全力で証明している。

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