上司が苦手? 転職したい? 空気を読んで疲れる? ―それ、全部「三国志」です。ブレーンは疲れ、筋を通せば孤立し、情で動けば浮く。2,000年前の英雄たちの物語は、驚くほど現代の職場そのもの。歴史をヒントに、仕事と人生を読み解く連載「世の中、だいたい三国志。」

第1回のテーマは「孔明タイプが実は一番しんどい説」。


大体どの職場にも一人はいる、「この人に聞けばだいたい分かる」「最終的に何とかしてくれる」的な存在。全体も見えている。トラブル対応も完璧。なのに、評価面談では「縁の下の力持ち」「安定感があるね」で終わってしまう。

もし心当たりがあるなら、あなたは孔明タイプかもしれない。今回フォーカスする諸葛亮孔明(しょかつりょう・こうめい)は、三国志きっての知将であり、同時に優秀すぎて一番疲れた人でもあったのだ。

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諸葛亮孔明って?
三国志に登場する「蜀(しょく)」陣営の軍師。先を読み、準備を重ね、全体を整えるのが得意な頭脳派。蜀のリーダー・劉備に三度も口説かれて仕えることになったのが、かの有名な「三顧の礼」。超優秀すぎて、放っておいても人と仕事が集まってしまうタイプです。


優秀なのに、なぜか一番しんどいというジレンマ

孔明のすごさは、「部分」ではなく「全体」が見えていたことだ。

劉備が三顧の礼で彼を訪ねたとき、孔明はまだ何も持っていない流浪の主君に対し、天下の情勢を冷静に分析し、荊州・益州を押さえ、孫権と同盟を結ぶという長期戦略を語った。言ってみれば、創業前の会社に対し、完璧な中期経営計画を出してくれたのだ。

劉備、関羽、張飛の三人組は確かに英雄だが、こういう国家的戦略性には疎かったはずなので、ぶったまげたことだろう。ようやく出会えたブレーンである。しかも、とびきり優秀な。こういう人は、当然頼られる。頼られすぎる。そう、問題はここにある。

「分かっている人」がいると、周囲は考えなくなる。「この人が見てくれているから大丈夫」と、判断や責任が集まってくる。結果、孔明だけがずっとフル稼働になってしまうのだ。

孔明は軍師でありながら、政治も内政も人事も担った。南方では未開部族に対し、武力ではなく紙芝居のような絵図を使って統治の仕組みを説明したという逸話もある。相手の理解レベルに合わせ、手法を変える柔軟さまで持っていたのである。

現代の職場で言えば、上司にはロジカルに説明し、現場には噛み砕いて伝え、外部には空気を読んで調整するという、完璧にスタンスを使い分けられる器用人でもあったのだ。

だからこそ、とにかく全部を自分でやる。だからこそ、上手く任せられない。結果、余計に仕事が集まってしまう。要するに、孔明タイプは能力が高いがゆえに、自分で自分を忙しくしてしまうループにハマりがち。これはまさに構造的、宿命的なウィークポイントといってもいいだろう。

  • イラスト:井内愛

    イラスト:井内愛

評価されにくいのは「成果」が見えにくいから

劉備は孔明を深く信頼し、「魚にとっての水」とまで言った。だが、関羽や張飛は面白くなかった。というか、めっちゃ嫉妬したらしい。前線で戦っている自分たちより、後ろにいる参謀が重用されているように見えたからだ。

これも現代あるあるだろう。売上を立てた人、前に出た人は分かりやすい。一方、調整役や参謀は「何をしたか」が見えにくい。現場でトラブルが起きなかったのは誰かがその種を事前に潰していたからだし、現場で混乱しなかったのは誰かが裏で整えていたからである。

けど、「起きなかった成果」は評価されにくい。正当に評価され、そのぶん手当も弾んでもらえるならまだいいが、なかなかそう上手くはいかないのが勤め人の現実である。

孔明が最も有名な決断を下したのが、「泣いて馬謖を斬る」だ。信頼していた弟子の失敗を、情を捨てて処断する。

悲しいことに、孔明タイプはここでも矢面に立つ。チームのために嫌われ役を引き受けるし、ルールを守るために空気を壊すこともある。

だが、そのストレスは外から見えにくい。圧倒的不利な状況だからこそ城門を開け放ち、まるで罠を用意しているかのように見せた「空城の計」のように、孔明は常に冷静だった。追い詰められても動じない。慌てない。理で動く。だがそれは、「常に緊張状態にある」ということでもある。

実際、孔明は54歳で亡くなっている。死後ですら司馬懿を警戒させるほどの影響力を持っていたが、本人は生きている間、休むことがほとんどなかった。優秀な人ほど、倒れるまで周囲が気づかない。これは古今東西、そして未来永劫つきまとう“あるある”なのかもしれない。

孔明タイプは、組織にとって宝だ。だが本人にとっては、個人戦の消耗戦になりやすい。全部見えてしまう。全部任されてしまう。全部自分で抱えてしまう。この三点セットが揃ったら、バーンアウトは時間の問題だ。

もし今、「自分が止まると回らない」と感じているなら、それはもちろん誇っていいことではある。が、一度手を緩めるべきサインでもある。世の中、だいたい三国志。一番評価されにくい場所で戦っている人ほど、いちばんケアが必要なのだ。

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