島国で、かつ中央に高い山脈が縦断し、さらにいくつもの大陸プレートが集まる日本列島には、安全と言える土地は多くはありません。少子化が問題視されてはいますが、3,000万人の人口であった江戸時代と比較してその4倍以上の人口を抱える現在は、何らかのリスクがある土地に住まざるを得ません。大切なことは、自分が住んでいる土地、これから住もうとする土地が持つリスク、問題点を正確に把握して、少しでも危険を少なくするために対処することなのです。

  • どの土地に住むにも何らかのリスクがある?

    どの土地に住むにも何らかのリスクがある?

人は台地に住むのが基本

災害回避の点から考えると、小高く平らな台地に堅牢な平屋の家に住むのが最も安全でしょう。しかし島国の日本には現在の人口を支えるだけの台地はありません。山を切り開き、谷や海を埋め立てて人が暮らせるようにせざるを得ません。本来耕作地で人が住むべき場所でない低地の沼地や河川近くも住宅地になっています。

造成地は、たとえ台地でなくても〇〇ヒルズ、〇〇台、〇〇平などの名前が付けられる傾向にありますが、そうしたキャッチに惑わされずに、実態を理解して、住んでいる場所、住む予定の場所のリスクをしっかり把握しましょう。

埋立地の問題

埋立地は谷を埋めたケースと海を埋め立てたケースがあります。緩やかな斜面に盛り土をして平らにした土地もあります。

下図は谷を埋め立てた事例です。某住宅メーカーの分譲地で、住民が築2年で相談に見えました。現地に行ってみると、かなり大きな分譲地ですが、周辺が急に山になっていて、元の土地の形状が図の点線であったことが一目瞭然です。ハッチ部分が埋め立てられています。矢印の谷の底周辺は埋め立て量が多いので、山に近い部分より沈下量が多くなり、造成した直後は平らであった土地も赤線のように沈下していきます。そのために建てられた家は、谷の深い部分に向かって傾いていきました。適切な地盤改良や杭打ちなどの対処を施してなかった結果です。

  • 不自然な造成地の地形

考えなければならないのは、年数がたてば沈下した分、土は幾分固くなりますが、家を支えるに十分な耐力にはほぼ永久にならない点です。ある部分の作物が周辺の作物より円形状に生育が良くなるケースがあるそうですが、昔竪穴住居のあった場所の掘られた部分の土が柔らかいからだと聞いたことがあります。そもそも竪穴式住居が発掘できるのは、その部分の土が周辺と違うからにほかなりません。

海を埋め立てたケースも、やはり土はほぼ永遠に軟弱なままです。そうしたエリアは広い道路が整備され歩道には街路樹が植えられ、ショッピングセンターなども建設され、便利で一見高級住宅地かのような佇まいにも見えます。しかし東日本大震災で、そうした埋立地が液状化し、建物が傾くなどしました。東京湾は古くは埼玉県まで深く入り江が入り込んでいました。自治体が発表している液状化マップを見ても、昔の入り江に沿って埼玉県まで液状化の危険区域が広がっています。埋立地は何らかの対処が必要なのです。

また下図は緩やかな傾斜地を斜面のままの状態で分譲した事例です。(1)の土地の所有者が最初に家を建てました。その次に(2)の土地の所有者が土地を平らにするためと隣地より低くならないために盛り土をしました。次に(3)の土地の所有者が(2)の土地と同じ高さになるように盛り土をしました。数十年経ち、(1)の土地の所有者が家を建て替える際には道路以外の3方の土地は1階がすっぽり埋まる高さになっていました。しかも違法なコンクリートブロック積の土留めになっていて、いつ崩れるかわかりません。危険な土地とみなされ、確認申請の許可が下りず、建替えられません。土は安易に盛ってはいけないのです。違法な土留めは実に多くあるのが現状です。

  • 違法な盛土

ひな壇敷地の問題

ひな壇状の造成地は、日当たりも見晴らしも良く快適なようですが、リスクもあります。赤いラインの元の斜面を一部掘削し、その土を盛土に利用してひな壇状にします。土留めの擁壁はその高さとほぼ同じくらいの底面が必要です。そのために、高さ的には本来掘削する必要のない部分も掘って埋め戻すことになります。つまり軟弱地盤となるので、杭や地盤改良が必要です。また敷地内の水を速やかに排水する仕組みが必要です。しかし実際は、そのための擁壁内部の砂利層や水抜きパイプ、側溝などがないケースが多々見られます。また擁壁内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートが変形しているケースもあります。

大切な基礎部分がしっかりしていなければ建物が丈夫でもまさに砂上の楼閣でしかありません。さらに自分の敷地の擁壁はしっかり管理していても、上段・下段の擁壁が倒壊すれば、自分の敷地も安全とはいいがたくなります。また擁壁は構造物ですので、耐用年数があります。そのたびにかなりの金額を投資しなければなりません。

  • ひな壇状敷地の構造

自然災害の危険のある土地

川の傍、海の近く、斜面、がけ地の上、または下は原則安全ではありません。川の傍は洪水に流されない工夫、海の近くは津波や高潮対策、斜面や崖上下の土地もそれなりの対策は必要です。堤防などの人工物は万全ではないことは過去の災害が証明しています。自分の敷地の弱点を自らカバーする対策をすればその分リスクを低くすることができるのです。


明らかに危険な土地であれば、避けると思いきや、そうでもないのが現実です。1999年横浜市南区で50m以上のほぼ垂直の崖の一部が崩落し、崖下のマンションの裏側3階位まで土砂が埋まりました。8階建てのマンションの高さの倍以上の崖が10m程度の背後に迫っているのです。

幸い死傷者はありませんでしたが、このような危険な土地であったために市は確認申請を認可しませんでした。再三の設計変更の結果、認可されはしましたが、それが被害を少なくしたとも言えます。そのような立地であったために分譲価格はかなりリーズナブルなものになり、若い子育て世代が購入したそうです。なによりも子どもの命を考え、少しでも安全な土地に、しっかり対策を考えて住みたいものだと思います。