連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。
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多くの人にとって、マイホームは人生で最大の買い物です。それだけに、「あんな家に住みたい」「こんなマイホームが欲しい」と夢がふくらみがち。でも、夢や希望を優先すると購入費用もどんどんふくらんでしまいます。

マイホームは高い買い物だけに、資金計画が甘いと住宅ローンの負担が家計に重くのしかかり十分な貯蓄ができません。マイホームにお金をかけすぎるのは、老後破産への最短コースなのです。そうならないために一番大切なのは"予算"です。

老後破産しないマイホームの買い方(画像はイメージ)

先に物件を見ると失敗する

マイホームにお金をかけすぎてしまう最大の原因は、先に物件を見てしまうこと。気に入った物件が見つかると、どうしてもそれが欲しくなってしまってお金のことが後回しになってしまいます。そしてそういう場合、大抵は実際に買える価格を上回っていることが多いのです。

それでも「買いたい」という意思を示すと、販売会社は資金計画を作ってくれます。売る方はお客さんを逃したくありませんから、よほどのことがないかぎり、あれこれ数字をいじって"買える"資金計画を出すに決まっています。それを見て安心して買ってしまうと、あとでローンの負担がずっしりとのしかかってくることになります。

買える価格を知ってから買う

服や家電製品などを買うときは、大抵予算を決めてお店に行きますよね。「いいな」と思うものがあっても、予算オーバーだったらあきらめることもあるでしょう。それなのに、マイホームは予算を立てずに買う人が多いのが実情です。一生に一度の買い物なので、自分にとって適正な価格というのがわかりにくいからかもしれません。

でも、"買える"あるいは"買っても大丈夫"な価格がわからずに買うというのがものすごく危険であることは言うまでもありません。では、どうやって"買える"価格をはじき出したらよいのでしょうか。

毎月返済できる額から購入価格を逆算する

マイホームを購入するときは、貯蓄から頭金を払い、残りは住宅ローンを借り入れて毎月返済していくのがふつう。そこでまず、毎月いくら返せるかを計算してみます。

年収に対する住宅ローンの年間返済額の割合を「返済負担率」といいます。これは、手取り年収の25%が上限。できれば20%にしておきたいところです。この数字は、私がファイナンシャルプランナーとしていろいろな人の家計を見てきた経験からくるものです。実際に、25%を超えるとローンの延滞や返済不能になる可能性が2倍になるというデータもあります。

例えば手取り年収が500万円だと、ムリなく返済できる額の上限は年間125万円(500万円×25%)。ボーナス返済なしだと、毎月約10万円という計算になります。

住宅ローンの借り入れ可能額は?

次に、毎月の返済額から住宅ローンの借り入れ可能額を求めます。これはネットのシミュレーションを利用します。例えば住宅保証機構のサイトでは、返済方法、返済期間、当初金利、月額返済額、ボーナス返済額、年収を入力すると借り入れ可能額が計算できます。

返済方法は一般的な「元利均等」、返済期間は60歳になるまでの期間、例えば35歳なら25年間とします。金利はどのタイプの住宅ローンを選ぶかによって変わってきますが、ずっと固定金利を選ぶとして1.8%、毎月返済額を10万円、ボーナス返済なしで計算すると、借り入れ可能額は"2,414万円"、約2,400万円と出てきます。年収500万円の場合の返済負担率は24%です。

購入後に貯蓄が残るようにする

この借り入れ可能額に頭金を足したものが購入可能額となります。注意したいのは、「貯蓄額=頭金」ではないということ。住宅を購入するときは、ローンの事務手数料や登記に関する費用などがかかるし、引っ越し代や家具や家電、カーテンなどを新しく買いそろえるのにもお金が必要です。そうした支出のほかに、急にお金が必要になったときのために手取り月収の3カ月分くらいの貯蓄は残しておかなければなりません。

費用と貯蓄として残す額を300万円とすると、今ある貯蓄から300万円を差し引いたものが頭金として出せる額ということになります。もし今の貯蓄額が500万円だとすると、頭金に回せるのが200万円。それを借り入れ可能額の2,400万円にプラスした2,600万円が予算額となり、今すぐに住宅を購入するのであれば、この金額で買える物件を探します。

もし、この金額では希望に合う住宅が見つからないなら、購入時期を先に延ばして、その間に頭金を貯めます。例えば、予算額を3,000万円に上げて買うのを5年先にすると、頭金としてあと400万円必要なので、年間80万円(400万円÷5年)ずつ貯めていけばよいという計算になります。

住宅は年収の5倍を超える買い物ですから、最低でもこのくらいの計算をして、しっかり予算を決めて買うようにしてください。マイホームは"夢"を買うものではなく、"現実"を買うものなのです。

執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。