当連載でレストアのベースとなった「ジェンマ」のシートは、奇跡的といえるほどに良い状態を保っている。しかし、やはり破れがあるようで、黒いガムテープが貼ってある。シートは針の穴ほどでも穴が空くと雨水が侵入するので、張替えが必須だ。

レストアのベースになるバイクのシートは、ほぼ間違いなく破れている

表皮さえあれば、張替え自体は難しくない

バイクのシートは傷みやすいパーツで、やわらかい表皮は経年劣化で硬化し、やがてひび割れる。目に見えないほど小さなひび割れや穴でも、ひとたび発生すればそこから内部のウレタンに雨水が侵入。その状態でシートに座ると、今度は圧力で雨水がにじみ出てくる。そして、バイクに乗っていたらいつの間にかお尻が濡れていたという情けない思いをすることになる。

したがって、シートは少しでも穴が開いていたら表皮を張り替えないといけない。いかにも職人技が必要なように思えるが、じつはシートの張り替えはそれほど難しくない。ただし、張替え用の表皮があればの話。シート表皮はメーカーの純正パーツとしては設定されていないが、おもな車種に関しては社外品が販売されている。これさえあれば、張替えは可能ということだ。

では、社外品の表皮がない場合はどうするか? 程度の良い中古のシートが見つかればいいが、かなり難しい。あとは、シートの張替え業者に出して張り替えてもらうしかない。この場合はびっくりするほどきれいに仕上がる代わりに、2万円前後(シートの形状などにより大幅に変わる)もかかる。今回のように少ない予算でレストアをする場合には強烈すぎる金額だ。

シートを裏返してステープラーの針を抜く。このシートはすでに張り替えられたことがあるのか、針が曲がっている

バイクのシートには珍しくモールが付いているので外す。壊れやすいかと思ったら、分厚いステンレス板でできており、非常に頑丈だった

実をいうと、この「ジェンマ」を購入するとき、シート表皮が販売されているかどうか、ネットで調べてから購入した。シート表皮が手に入いるかどうかは、エンジンがかかるかどうかといったことよりはるかにレストアの可能性を大きく左右するのだ。

「ジェンマ」はシートのつくりも最上級

作業はまず、古いシート表皮を剥がすところから始める。これは簡単だが、ここで表皮を固定しているステープラーの針がほとんどすべて曲がっていることに気づいた。明らかに製造時のものではない。誰かが過去に張替えを行っているようだ。

表皮を剥がしてみると、裏にビニールシートが貼り付けてあった。どうやら表皮を新品に代えたのではなく、裏当てで破れを補修したようだ。その表皮だが、表面に四角いパターンがあり、裏にはやわらかいスポンジが貼り付けられている。新車のときには四角い部分が盛り上がった形状で、高級感があったはずだ。また、サイドのモールもステンレス板を曲げて作ってあるものだった。原付スクーターのシートとは思えないほどコストがかかっている。

シート表皮が剥がれた。裏にビニールが貼り付けられている。純正の表皮を一度剥がして修理したようだ

ウレタンフォームはまだまだ使える状態だった

購入した新しい表皮をかぶせる。ここからは少し緊張する作業だ

使用するのはこのような大型のステープラー(タッカーともいう)。ホームセンターで1,000円くらいで購入できる

表皮を剥がしたら、ウレタンフォームの状態をチェックする。弾力を失ってボソボソになっている場合があるのだ。もしそうなっていれば、ボソボソ部分を削り落として新しいウレタンを重ねるといった作業が必要になる。これはかなり面倒で難しい作業なのだが、このシートのウレタンはいい状態を保っていて、ラッキーだった。

しわとたるみをなくしながらステープラーで固定

新しい表皮は、注文して2週間ほどで届いた。もしかしたら注文生産なのかもしれない。いずれにしても、この「ジェンマ」用のシート表皮がネット通販で簡単に買えるというのはすごいことだ。

表皮の張り方について、誰かに教えてもらったことがないので完全に自己流だが、筆者はまず前後を固定し、しわやたるみにならないように引っ張りながら、両サイドを固定していった。少し緊張する作業だが、慌てずゆっくりやればそれほど難しくはない。ただ、このシートは樹脂製のベースが非常に硬く、ステープラーの針が通らないので作業が難航した。ヒートガンでベースを温めたり、途中までしか刺さっていない針をハンマーで叩いたりして、なんとか作業できたが、かなり時間がかかってしまった。

古いバイクではシートのベースがスチールでできている場合が多く、その場合はシート外周部に通された針金と、ベースから突き出たツメで固定する。ちなみに、「ジェンマ」の前期モデルはスチールのベースで、後期モデルから樹脂に変わったようだ。

まず前と後ろを固定する。最初の針からもうこんなに曲がってしまった

前後を固定したら両サイドを固定していく。つねに表皮を引っ張り、しわとたるみを作らないようにする

ヒートガンでベースを温めながら、なんとかステープラーの針を打ち込んでいった

モールは3カ所で固定されているだけなので、シートとの間に隙間ができやすい

モールの曲がりを調整し、できるだけ隙間ができないようにした

完成。折りたたまれた跡が完全に消えず、わずかにしわになっているが、満足できる仕上がりだ

新しい表皮はあまり高級感のある素材ではなく、折りたたまれた状態で届くため、折り跡もあり、少し安っぽい。しかし十分に納得できる仕上がりで完成させられた。これでボディ以外のパーツはほとんど終わりだ。次回からいよいよボディを直していく。

レストア必須アイテムを紹介!

今回はヒートガンという工具でシートベースを温めながら作業した。ヒートガンというのは、要するにヘアドライヤーのようなものと考えれば良い。

今回の作業で使用したヒートガン

バイクのレストアでは意外なほど出番の多い必須工具で、樹脂やゴムが硬化してしまい、外したいのに外れない、はめたいのにはまらないという場合など、ヒートガンで温めると柔軟性を取り戻すことができる。購入しても高いものではないが、ヘアドライヤーで代用することも可能だ。

ここまでのレストアに費やした費用

品名 金額
車両購入(スズキ「ジェンマ50」) 1万100円
中古マフラー 91円
メインスタンド 34円
中古マフラー、メインスタンドの送料 1,404円
パーツリスト(送料210円込) 1,216円
ミッションカバーガスケット 1,512円
キックレバーシール 140円
マフラーガスケット 378円
ミッションカバーガスケット、キックレバーシール、マフラーガスケットの送料 1,150円
タイヤ(2本) 3,332円
タイヤバルブ(2本) 494円
シート表皮 3,456円
合計 2万3,307円