こんにちは、リカレント教育コンサルタントの津田です。

今年もあと1カ月ほどで終わりですが、どんな1年でしたでしょうか。こちらの記事を読んで下さっている方は、自己研鑽や学びに興味、関心の高い方だと思います。目標とした学習について達成できそうでしょうか。

シリーズでお届けしてきたこちらの記事も、今回が最終回です。リスキリング実践者の声として、オイシックス・ラ・大地の事例をご紹介します。これからリスキリングを始めようとしている方、リスキリングがどのように仕事に活きるのか知りたいという方たちに、ぜひ読んでいただきたいと思います。

■学びを通して社員の新しい挑戦を応援。人事自らも学ぶ。

  • オイシックス・ラ・大地 HR本部 キャリア支援室 室長 石井一也さん

オイシックス・ラ・大地では、2022年の4月から人事部門(HR本部)の中にキャリアを支援する部署を設置し、社員が自らのキャリアに自律的に向き合うための支援が行える体制を整えています。例えば、セルフキャリアドッグ※1の導入や、人事メンバーがキャリアコンサルタント資格を有するなど、社員一人ひとりに寄り添った施策を実施しており、人的資本経営というキーワードが登場する前から、人を大切にした経営をしています。2022年には、50代社員を対象にキャリアセミナーやキャリア面談を行いました。出席された社員からは大変好評で、研修をきっかけに新たな学びや挑戦を始める社員も増えてきました。

実は、私自身もリスキリングをして今に至ります。元々は、大地を守る会(のちにオイシックス・ラ・大地へ統合)の広報として仕事をしており、その後、企業統合があり、キャリアチェンジをしたいと考えました。対人支援のスキルを身につけたいと思い、産業カウンセラーとキャリアコンサルタント、コーチングの資格を取得しました。その結果、現在、人事領域で社員のキャリア支援という自分のやりたい仕事ができています。キャリア面談については、有資格者が、5名体制で実施しています。キャリアカウンセリングは面談の質を担保するという理由から、スーパービジョン※2を受けることが推奨されているのですが、これを将来的に内製化すべく、私自身も学校に通い学んでいるところです。

■システム部署からロジカルシンキング研修の社内講師に。人の成長を支援。

  • オイシックス・ラ・大地 HR本部 成長推進室 佐々木秀和さん

私自身は、元々web関連の仕事をしており、ECサイト構築などの業務を担当していました。その後、システム部署へ異動し、マネージャーの役割も担うことになります。部内会議のやり方を見直すワークショップを行った時、メンバーが活き活きと働いていくことに、嬉しさを感じ、自分は人の支援をするようなことが好きだと気づきました。システムの技術に関しては、他にも長けている人がいる中、自分はどのような価値を提供できるだろうか、と考えていたところだったので、大きな発見でした。そして、ちょうどその時、人事から、トレーナー募集の案内があり、迷わず手を挙げました。

当社ではロジカルシンキングをビジネスの基礎力として大事にしており、研修を実施しています。当社は、食の課題をビジネスの手法で解決することを企業理念に持っており、様々な課題の解決に取り組んでいます。新しいビジネスモデルやサービスの展開など、そのベースにあるのがロジカルシンキングだと考えています。現在は、このロジカルシンキング研修の社内講師として登壇をしています。この会社で働くことで、社会課題を解決する、その一員になれていると感じますし、今はこうして社員を支えることが社会課題の解決に繋がると思い、とてもやりがいを感じます。

リスキリングに関しては、コーチングのスクールに通って、コーチの資格を取得。ここでは、学ぶことの楽しさを体感しました。そして、今では1on1の効果的な方法など、マネージャーに必要なスキルとして、自らが学んだコーチングについて教えることができるようになりました。興味があるものに関する学習は続いていきます。これからリスキリングを始める方もまず、自身の関心を大切にしていただくと良いのではと思います。

  • 現在はロジカルシンキング研修の講師として登壇。自社で内製化したロジカルシンキング研修のテキストは、ゼロから作り社員に展開している

■仕事と勉強と介護の両立、上司や家族の協力を得てキャリアコンサルタントに。

  • オイシックス・ラ・大地 ロジスティクス本部 配送部 兼 HR本部 キャリア支援室 盛定 桂子さん

新卒でらでぃっしゅぼーやに入社し、現在は、配送部の仕事をしており、ドライバーさんの管理、委託先管理、配送中に起きた問題解決などの業務をしています。50歳になった時、定年まであと10年かと思い、このまま同じ部署で終わるのは寂しい、何とか新しい道を切り拓いてみたいと考えていました。そんな時、人事が主催する50代の社員向けセミナーを受講し、「そうだ、今、やらなくては」と決意。「50歳、女性、資格」と検索してキャリアコンサルタントという国家資格があることを知り、挑戦することにしました。

まず、はじめに上司に話をしました。また、人事の方や同じく社内でのキャリアコンサルタントを目指している人にも共感してもらえたことが大きかったと思います。ミドルシニア層は親の介護問題がある方も多いと思いますが、私もまさにそうでした。母親が認知症になり、早退、休まなければいけない状況もありましたが、上司に嫌な顔をされたことは一度もありません。私が仕事と勉強と介護を両立する環境を認めてもらっていたと思います。

両立は本当に大変でした。認知症の母は、不安から私に電話を1日何十本もかけてくることもあり精神的に辛く感じてしまうこともありました。同居している姉が一緒に面倒を見てくれたということもあり、ここで中断してしまったら、応援してくれている上司や家族に申し訳ない、あの頃のモヤモヤした気持ちには戻りたくない、と思い最後までやり抜くことができたと思います。そして、キャリアコンサルタントの資格を取得し、現在は、配送部とキャリア支援室の仕事を兼務しています。

今では、キャリアコンサルタントとして社員と話すことができるようになりました。リスキリングを始めようかどうか迷っている方には、興味があることは、まず資料請求をして行動を起こした方がいいとアドバイスしています。物事を始めるのに遅すぎることはありません。若い方も中堅の方も、世代に関係なく、今やってみることが大切だと思います。

  • 上司や家族の支えがあり、今がある。人材育成への投資をしっかりしてくれる会社に感謝している。


インタビュー所感

一人ひとりの社員の成長や、キャリア自律を大切にしている取り組みがよく分かり、人事と社員が一体となっている様子が伝わってきました。会社を取り巻くビジネスの環境変化にしっかりと対応し、人事の施策についてもスピーディに対応されていると感じます。社員の学びの場が自発的にできていることや新しいことにチャレンジできる環境は、リスキリングの効果でもあり、これからますます新しい事業への挑戦などが進んでいくのではないかと思いました。

※1 セルフキャリアドッグ 企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」のこと

※2 スーパービジョン 指導する者・新たな視座を提供する者(スーパーバイザー)と、指導を受ける者・新たな視座を受けとる者(スーパーバイジー)との間における対人援助法のこと。心理臨床家等の専門家が資質の向上を目指すための訓練方法で、心理面での支援を実践している専門家には必須だと言われている