「おっ、このコンセプトカーかっこいいな。……あれ!? コンセプトカーじゃなく市販予定車? 来年発売? ウソだろ!?」、昨年の東京モーターショーでそう思った人も多いであろう、BMWのi8。日本での発売は2014年夏以降とアナウンスされている。これだけフィクショナルに見えるモデルが、今年のうちに日本の公道を走るかもしれないというのは、たしかにひとつの「事件」と言っていいのではないか。
i8に関しては、発売前である現時点で不明な部分も多く、このモデルを語るには十分な情報がそろっていない。そこで、同車が発売される前の予習として、この革新的なモデルのアウトラインや関連する情報をここで整理しておこう。
ハイパフォーマンスカーの中でも「EV寄り」のPHEVだ
まずカテゴライズから。i8はPHEV(プラグインハイブリッド)を採用したスポーツカー、あるいはハイパフォーマンスカーと分類するのが一般的だろう。「ハイパワーな高性能車だがエコ」というわけだが、こうしたコンセプト自体は珍しいものではない。
PHEVのスポーツカーとしては、ポルシェの918スパイダーがあるし、同社からパナメーラのPHEVモデルも発売間近。メルセデス・ベンツもSクラスのPHEVを発表しているし、プラグインでないハイブリッドも範疇に入れれば、ホンダのNSXがある。フェラーリやジャガー、マクラーレンといった超高額なブランドも、このジャンルに参入している。
つまり、スポーツカーやハイパフォーマンスカーが電気モーターを搭載するのはもはや珍しいものではなく、むしろ主流になりそうな勢いなのだ。しかし、i8はこれらのモデルとは一線を画す。PHEVだからと同じカテゴリーに入れてはいけないだろう。
なぜか? 前述したi8以外のモデルは、そのほとんどが従来のエンジンカーに電気モーターを追加したモデルだ。918スパイダーは4.6リットルのV8エンジンを、パナメーラとS500のPHEVはともに3.0リットルのV6エンジンを搭載している。ハイパフォーマンスカーの世界では、依然としてガソリンエンジンが主役であり、補助する立場の電気モーターはこれらのモデルの弱点である燃費を改善するのが大きな役割なのだ。
一方、i8が搭載するエンジンは1.5リットルの3気筒。パワーは231PSで電気モーターの131PSより大きいが、このハイパワーは中低速を電気モーターに任せる前提があってこそだろう。つまり、電気モーターあってのi8であり、前述のモデルたちよりはるかに「EV寄り」のPHEVなのだ。自動車においては、「排気量が大きいほど、シリンダー数が多いほど格上」というヒエラルキーがいまだに存在しているが、i8は2,000万円近い高額車でありながら、こうした古い考えに完全に決別し、新しい価値観を創出しようとしている。
CFRP製ボディのi8、製造時も最小限の環境負荷に
次に、i8を形作る技術やバックボーンをおさらいしておきたい。これはi8の最も革新的な部分であり、同時にこのモデルの核心でもある。
i8の技術的なハイライトは、なんといっても量産車で世界初となるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のボディだ。CFRPは1台から数台作るだけなら、むしろ鉄やアルミより低コストだが、量産してもコストが下がりにくい。「軽量」「高強度」「錆びない」など優れた素材だが、コストの1点だけが問題となり、量産車に採用されることはなかった。
しかし、燃費性能がなによりも重要視されるようになると、ボディの軽量化が重要課題となり、世界中のメーカー、マテリアル企業が量産技術の開発に着手。燃料電池に並ぶ次世代カーのキーテクノロジーとして開発競争が繰り広げられた。そしてその競争に勝利したのが、i8・i3の発売にこぎつけたBMWというわけだ。
もうひとつ、i8の技術で重要なのがその生産工程の凄さだ。CFRPのボディを製造する工場や最終組立を行う工場は水力発電や風力発電を利用し、CO2をほとんど排出しないという。製造廃棄物などのリサイクル技術も確立されており、i8は運用時だけでなく、製造時も最小限の環境負荷となっている。
このi8と、同時に発表されたi3が、自動車の歴史に名を残すモデルとなることは間違いない。i8が発売されれば、市場に与えるインパクトも大きいだろう。