さて先週の続き、すっかり友達関係になってしまって、恋愛関係に発展しなさそうな相手を振り向かせるには、どうしたらいいか。この漫画で女のアンブが恋愛モードにスイッチが入ったきっかけは、これだ。
「アレクには、前にきちんと付き合った女がいるんだ」……ドキン。
妙に女の扱いが上手いアレクに対して、アンブはふとそんなことを思いつく。そういえば、インテリアの趣味は、アレクでもなければアレクのお母さんのでもなさそうだ……。そう思うと、突然アレクが男に見えてきた。アンブの恋愛モードのスイッチがにわかにオンに。
好きな女に対して、女の気配を感じさせてヤキモチを焼かせる、というのは、男がよく使いたがる手のひとつではないか。どうしても友達以上にならない女に、「彼女ができた」とか「元カノがさー」とか言ったりしたヤツ、いるんじゃないか?
もちろんこの手は、少女漫画に使われているくらいだから効果的。だけどひとつ、大きなポイントがある。これをすっ飛ばすと、このヤキモチ作戦はまったく効果がないので要注意だ。
それは、「女にしっかりハッキリ好意をアピールしている」こと。アレクは、誕生日、クリスマス、バレンタインと、何年もアンブにプレゼントを贈り、好き好きアピールを続けてきた。これが重要なんである。
「自分のことを好きだ」と公言してきた男が、ほかの女のものになる……。これほど空しいことはない。ある意味、ちょっと舐めてた相手が実はモテモテだったり、価値が上がったりしたら、女は大焦りだ。
だけど、大してアピールをしなかった場合はどうか。ほかの女の匂いをチラつかせれば「この男、女だったら誰でもいいのね」「私のことは本気じゃなかったのね」でおしまいだ。「紛れもなく自分を好きだった相手」にほかの女の影が見えるからこそ、「もう自分は飽きられてしまったのか」と思い、苦しいのだ。
このところを間違っちゃうとアテが大きく外れるので要注意である。つまり、誰か好きな女がいるのなら、リスクを負ってアピールをしなければ、下手な小細工は逆効果ということ。
まあそれと、もうひとつアレクがいい思いをする理由がある。男に大モテのアンブだが、「どいつもこいつも、私自身を見ていない」と言って男を振っている。すぐに「髪は長くしろ」「そんな格好はするな」とアンブ自身を否定する。少しでも自分の理想と違うと、「君は変わった」とか言い出すというのだ。
あー、なんかすっげーよくわかるんだけど。先入観や狭い視野で物事を決めつける人間が、世の中どれほど多いか。「こう思ってるはずだ」「こうじゃなきゃダメだ」と、自分の考えや理想を相手に押しつけて平気な人間が、世の中どれほど多いか。
アレクはもちろん少女漫画の主人公なので、そんなヘマをすることはない。アンブはそのうち、「アレクは私自身を認めてくれている」ということに気づき、アレクを大事だと思うようになるのだ。
逆に言えば、好きな女になかなか振り向いてもらえない場合、「その女を理解していない」もしくは「その女は、自分がその女を理解していないと感じている」という可能性を考えてみよう。自分アピールはひとまず置いておき、相手のことをまっすぐ見てみる必要があるかもな。
<『ALEXANDRITE』編 FIN>