せっかく転職するなら、年収アップを狙いたいと思う人も多いのではないでしょうか。ただ、自分の市場価値を客観的に見極め、適正年収を測るのはなかなか難しいもの。
今回は、グロービス経営大学院 教授の森暁郎氏による、仕事や人生の選択肢を広げる新しいお金の入門書『世の中のことも自分のこともみるみるわかる お金の「選択」』から、「自分の適正年収を測る方法」についてお届けします。
3つのアプローチの考え方
自分の「市場価値」をどう測るかは、転職活動の成否を分ける重要なポイントです。
ここで参考になるのが、ファイナンスの世界における「モノの価値の測り方」です。
モノの価値の測り方には、大きく3つのアプローチがあります。
コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチ。
これらは、企業買収のM&Aから不動産評価まで幅広く使われていますが、実はこの考え方、自分のキャリア価値を考えるときにも応用できるのです。
コストアプローチは、「作るのにこれだけコストがかかったから、この価格である」という考え方です。「土地購入や建設にかかったコストに事業者の利益を加えて販売価格を決める」といった手法です。
わかりやすい反面、市場価格とかけ離れるおそれがあります。
マーケットアプローチは、「似たものが市場でいくらで取引されているか」を基準に価格を決める方法です。「同じ駅から徒歩10分のマンションが〇〇万円で売れているから、自宅も同程度だろう」と見積もる感覚です。
市場の実態を反映できる一方で、比較対象を誤ると正確さを欠くリスクがあります。
インカムアプローチは、「そのモノが将来もたらしてくれる利得の合計を現在価値に直すといくらになるか」という観点で価格を算定する考え方です。「今後〇年間で〇〇万円の賃料収入が得られるから、現在価値は〇〇万円」と見積もるようなものです。
将来を見据えた合理的な方法ですが、評価者の主観の影響を受けやすい点が難点です。
ビジネスでは複数のアプローチを重ね合わせて、最も合理的と思われる解を求めます。
M&Aであれば、次のような方法を組み合わせて「おおよそ妥当な価格」を算出します。
● バランスシートにある純資産の金額を確認する
● 同業他社の株価を参考に倍率を掛けてみる
● 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く
同じように、皆さんの「市場価値」もこの3つのアプローチで考えてみましょう。
転職に置きかえると……
「生活費や教育費、住宅ローンを考えると、これだけの年収が必要」というのがコストアプローチに近い考え方です。
ただし、それはあくまで自分の事情に過ぎず、面接で持ち出しても通用しません。
「それはあなたの都合ですよね」と言われてしまうでしょう。
生活設計として把握しておくのは大切ですが、交渉材料にはならないのです。
次に、「同業で入社10年目の友人が〇〇万円だから、自分も同程度」というのがマーケットアプローチです。
企業の人事側も意識している指標で、転職エージェントに相談したり求人サイトを見たりすれば、すぐに相場を知ることができます。ただし、独自の経歴やスキルを持つ人は比較対象が少なく、過小評価されがちなので注意が必要です。
最後に、「自分が入社したら、どのくらいの利益や変化を生み出せるか」を基準に考えるのがインカムアプローチです。
ほかの2つのアプローチと比べると不確定要素も多く、正確に算出するのは困難ですが、考え方自体はとても大切です。そして、採用担当者に最も響く視点でもあります。
面接で「あなたを採用することで、会社はどんなメリットを得られますか?」と問われたら、それはまさにインカムアプローチの発想です。
企業は、候補者がどれだけ企業価値の向上に貢献できるかを見ています。
3つを重ね合わせて見えてくるもの
転職活動で大切なのは、次の三つを重ねて考えることです。
● コストアプローチで「自分に必要な最低ライン」を知る
● マーケットアプローチで「相場感」をつかむ
● インカムアプローチで「提供できる価値」を明確にする
こうすることで、相手にも自分にも納得感のあるラインが見えてきます。
皆さんも多角的なアプローチで自分の価値を見つめ直し、有効にアピールしていくことで、しなやかに転職市場を勝ち抜いていってください。
※本記事は、書籍の一部を抜粋し、編集のうえ掲載しています。

