列車の旅は出会い、ふれあいが多い。地元で暮らす人々に親切にしてもらったり、同じ目的で旅する同士で情報を交換したりすることも。ちょっとしたきっかけで会話が弾めば、ひとり旅でも寂しくない。普段知り合えない人と仲良くなると、人生の経験値が貯まるような気がする。一期一会もいいけれど、生涯の友に出会えるかもしれない。

東尋坊から眺めた夕陽。地元の方のご厚意で間に合った

数年前にえちぜん鉄道に乗ったとき、地元の方に親切にしていただいた。終点の三国港駅に着いて、東尋坊行のバスに乗り継ごうと思ったら、次のバスは1時間後。待ってもいいけれど、あと30分で日没だ。東尋坊で夕陽を観たかったけれど、バスでは間に合わない。「よし、歩こう」と声に出して、自分に気合いを入れつつ歩き出した。

そのとき、筆者のそばでクルマが止まり、「送ってあげるよ、乗りなさい」と声をかけていただいた。「早く早く」という声にせかされるように乗り込んだ。

その方は駅に知人を迎えに来たけれど、いまの列車にはいなかったそうだ。筆者の「歩こう」の声を聞いて、次の列車が到着するまでの時間つぶしも兼ねて乗せてくれたのだった。なんともありがたいことだ。なにかお礼を……、と思ったけれど、お金では失礼だし、しわくちゃの袋に入ったお菓子もみっともない。結局、なにもお礼をできないまま、ご厚意に甘えてしまった。

長距離列車は相席の人と親しくなると楽しく過ごせる

高校生の頃、初めて泊まりがけのひとり旅に出た。寝台特急「はやぶさ」のB寝台。その向かいの寝台にいたお兄さんに親切にしてもらった。「帰省する」と言っていた気がする。駅弁やお菓子を分けてもらって、夜遅くまで話し相手になってくださった。日程を話したら、2日後に人吉駅で待っていてくれて、地元の漬け物をお土産にいただいた。住所をうかがい、後日、お礼の手紙を送ったら、それから現在まで、30年以上も年賀状の交換が続いている。

きっかけはキャンディ

少年時代のひとり旅は、そんな風に地元の人々や列車に乗り合わせた人々と知り合うのが楽しかった。会話のきっかけをつかむアイテムはキャンディだ。子供に話しかければ、その親とも親しくなれる。お年寄りは地元の風景や名所を教えてくれる。黙って列車に乗っているより、誰かと親しくなったほうが、ずっと楽しいし、思い出に残る。鉄道ファン同士の会話も楽しかった。一期一会。その場限りの付き合いだけど、そのときが楽しければ、お互いにそれでいいのだ。

中年になると図々しくなって、若い女の子に話したり、話しかけられたりする。これは年を取ったからできる振舞いかもしれない。年齢が近いとナンパだと思われそうだし、そういえば筆者が若い頃だって、同世代の女の子には恥ずかしくて声をかけられなかった。米坂線でオジサンの話し相手になってくれた美少女は、山形の高校の吹奏楽部に所属していて、まさしく映画『スウィングガールズ』のような青春の日々を聞かせてくれた。教師をめざしていると言っていたけれど、夢はなかっただろうか?

美女から声をかけられたハッピーな経験もある。長崎行の普通列車で、彼女は話し上手聞き上手。会話が弾んで、「今夜、よかったら遊びに来てね」なんて言われて大興奮。しかし、差し出された名刺はピンク色で角が丸くて。そう、ホステスさんに営業されちゃったというオチ。どうりで美人で、あしらいがうまかったわけだ。旅先で女性がいるお店に行くと、地元の情報を得られるかもしれない。あんまり飲めないから行かないけれど。

旅先で見知らぬ人に話しかける。タイミングが悪いと嫌な顔をされてしまうけれど、表情や空気を読む経験が増えれば、だんだん成功率が高くなっていく。初対面の人と会話する経験は、営業マンとして社会人デビューしたときに非常に役立った。雰囲気や第一印象で、その人の性格や考え方をある程度把握できるようになった。

「どんな風に話しかけたらいいのか」って? フーテンの寅さんを参考にするといいよ。映画『男はつらいよ』の寅さんは、誰に話しかけても歓迎される。あの話術を盗もう。

旅先用の名刺を作ろう

旅先で知り合った人と、ずっと交流を続けたい。そんなときはどうしよう? お互いにビジネスマンなら名刺の交換がスマートかも。あるいはケータイのメールアドレスを交換するとか? いまならLINEのIDを教えちゃうとか? でも、誰彼かまわずに個人情報を教えるのはちょっと怖い。第一印象は良くても、じつは波長が合わず、その後のつきあいが苦痛になるかもしれない。

そこでおすすめしたいアイテムは、「旅先の出会い用の名刺」だ。ブログのURLや、公開しているフリーのメールアドレスと名前だけを印刷する。名前は本名である必要はない。そのとき、呼んでほしい名前でいい。ネットで知り合った仲間とオフ会をするときも、こんな風に名刺を交換するらしい。

旅先で配るための「旅名刺」を作ろう

会社の名刺をプライベートで配るなんてモラルに反するし、そもそも旅先で知り合う人とは仕事を忘れて付き合いたい。だから専用の名刺を作っておこう。本格的に印刷屋さんに発注してもいいけれど、プリンターで印刷する名刺カードがおすすめ。これなら10枚単位で作れるし、メールアドレスもそのつど変更できる。初対面の相手用のメールアドレスを作って、親しくなったら普段使っているメールアドレスを伝えればいい。

万が一、お近づきになりたくない相手と知り合ってしまったら、そのメールアドレスは廃棄して、新しい初対面用メールアドレスで名刺を作り直そう。