海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第7回のテーマは、「米・ユタ州で人気の居酒屋スタイルのバー」。
仕事を終えた若いビジネスパーソンや、グルメとお酒に感度の高い層が集い、創作カクテルを片手に小皿で料理をシェアしながら語り合う。
ユタ州の州都ソルトレイクシティにある「Bar Nohm(バー・ノーム)」は、そんな光景が日常の風景として広がる、日本の居酒屋に着想を得た空間だ。現地メディアでは、同市で初めて「居酒屋スタイル」を掲げたレストランのひとつとして紹介されている。
なぜユタ州で居酒屋スタイル?
ソルトレイクシティで、近年じわじわと存在感を増しているのが「居酒屋スタイル」のバーである。日本の居酒屋をそのまま再現した店というよりは、小皿料理とお酒を軸にした“社交の場”として受け入れられている。
その代表格のひとつが、Bar Nohmだ。料理を担うのは、シェフのデイビッド・チョン氏。レストランの現場で経験を積み、日本や韓国で学んだ背景を持つという。料理は、日本料理と韓国料理を無理に一体化させるのではなく、それぞれの魅力が伝わる形で構成されている。また、Bar Nohmは、隣接する人気カクテルバー「Water Witch(水の魔女)」と同じ運営チームによる店でもある。
日本の居酒屋文化が持つ「肩書きを外してつながる場」という役割が、ソルトレイクシティの夜に、新しい「仕事後の居場所」として定着しつつあるのだ。週末には、食事とカクテルを目当てに訪れる客も増え、店はよりにぎわいを見せる。
仕事帰りの若手社会人が集う「社交空間」としての役割
店内で目立つのは、20~40代を中心とした客層である。Bar Nohmが若い社会人の支持を集める理由は、料理やカクテルの完成度だけではない。気取らず立ち寄れる「仕事帰りのちょうどいい場所」として成り立っている背景には、Central 9thというロケーションの存在もありそうだ。
Bar Nohmは、ソルトレイクシティの「Central 9th(セントラル9番街)」地区にある。カフェや小さな飲食店、バーが点在し、ふらっと歩くだけでも新しい発見がある街である。観光地のにぎやかさとは違い、日常の延長で楽しめるのも魅力だ。
また車社会のユタ州でも車なしで移動できるよう、公共交通や歩行者、自転車向けの整備が進んだ街である。仕事帰りに立ち寄る人が多いのも、この街の空気感があってこそだろう。
日本の居酒屋と何が同じで、何がユタ州流?
Bar Nohmは「21+bar(21歳以上のバー)」として営業しており、入店できるのは21歳以上に限られる。アメリカでは21歳から飲酒が認められているためだ。日本の居酒屋のように、家族連れが食事目的で気軽に入る場所とは少し位置づけが異なる。ここではお酒と小皿料理をセットで楽しむ、「大人の社交空間」として設計されている点が特徴である。
一方で、日本の居酒屋らしさを感じる場面も多い。料理は小皿で提供され、数品を少しずつ注文しながら会話の流れに合わせてつまめる。串焼きも充実しており、備長炭で香ばしく焼き上げる本格派だ。
スタッフとの距離感もほどよく、必要なときにはさっと声をかけられる気軽さがある。こうした心地よさは、日本の居酒屋とどこか重なる。
「バーには珍しいアットホームさと、いわゆるダークな雰囲気がない。女性一人でも安心してお酒と料理を楽しめるんです」と語るのは、Bar Nohmがレストランだった頃から、シェフのチョン氏の料理に惹かれて通い始めたという日本人女性だ。
チョン氏は2019年、Nohmとしてレストランを開いていたが、コロナ禍の影響で閉店を余儀なくされたという。
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好みを伝えてつくってもらった、ミントで爽やかに飲めるラムベースのオリジナルカクテル(約2,300円)。鶏モモ肉を使った日本風のから揚げ(約2,100円)は、シラントロ・チリマヨソースとレモンでさっぱり。(価格は2026年2月時点)
「ほかでは出会えないオリジナルな味と、素材やメニューへのこだわりに惚れて、今も通い続けています。スタッフもプロフェッショナルでみんな温かい。その点は、隣のWater Witchも同じです」
こうした声が、この店の居心地の良さを静かに裏付けている。
料理とお酒と空間を五感で楽しむ心地よさ
Bar Nohmは、料理とお酒だけで完結する店ではない。備長炭の香ばしさ、皿が出るテンポ、スタッフとの距離感までを含めて、すべてが“体験”としてまとまっているのだ。オーナーとスタッフのこだわりが積み重なり、Central 9thの夜に、少し特別な居場所をつくっている。
店内の黒い木の壁には、備長炭グリルのテーマに合わせたような“焼けた板”のデザインが見られる。視覚的にも炭火の世界観が感じられる空間だ。
Bar Nohmは、日本の居酒屋のエッセンスを残しながら、ユタ州の暮らしに合う形へと自然になじませている。ソルトレイクシティの夜に灯るこの「IZAKAYA」は、ユタ州流に進化した居酒屋のひとつの答えと言えそうだ。













