海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第6回のテーマは、「パリでこんにゃくブームの予感!?」。
フランス・パリで暮らし始めて20年。長い年月を経て改めて気づくのは、日常生活の中に本当に多くの日本の食文化が根付いているということだ。20年前、私がパリに来たばかりの頃は、日本食といえば外食で味わう特別なものだった。寿司は日本食の代表格で、すでにパリ市内にも点在していた。しかし、その多くは超高級店であったり、手頃な価格でも内容が大きくアレンジされていて、日本で寿司屋を選ぶ時の選択肢とは違う。頻繁に食べられるもの、食べたいと思えるものはなかなかなく、そうした状況は今もあまり変わっていない。
また、学生時代はオペラ座近くのいわゆる「日本街」でラーメンを食べることが多かった。ラーメンは気軽に楽しめる点が魅力で、時折、慣れ親しんだ味を求めて店に通ったものだ。
日本食ブームの進化、外食からテイクアウトへ
その後、日本食ブームは休むことなく進化し続けた。日本風のパン屋ではあんぱんやメロンパンが並び、MOCHI(大福のように、もちの中にあんこやクリームを入れた菓子)、たこ焼きやお好み焼きといった屋台フード、弁当やおにぎりなど、テイクアウトできるものも急増している。
先日、メトロに乗っていると、私の目の前で、スーパーで買ったと思われるコンビニ風のおにぎりを包みごと開けて食べている人がいた。思わず心の中で「時代は変わったな」とつぶやいた。また、近年の抹茶ブームも、日本食人気に拍車をかけていることは間違いない。
家庭の食卓にも広がる日本食
さらに印象的なのは、日本食を楽しむ場が外食から家庭の食卓へと広がり、そのシチュエーションも多様化していることだ。カップ麺、冷凍の焼き鳥や餃子、ふりかけなどは、日系やアジア系の店だけでなく、一般的なスーパーでも手に入るようになった。海苔をはじめ、醤油、味噌、わさびといった調味料も、家庭で調理することを前提に、品ぞろえが充実している。
フランスの友人の多くは、家で一度は「MAKI(マキ/フランスでは巻き寿司をこう呼ぶ)」を作ったことがあると話す。友だち同士や家族で集まる食事会では、みんなで楽しむアクティビティとしても親しまれているようだ。こうして、日本食はパリの生活に自然に溶け込み、日常の一部となっている。
こんにゃく、フランスでの食べ方のギャップ
同時に、日本ではポピュラーでありながら、フランスではなかなか浸透していない日本の食材や食品もある。例えば「こんにゃく」は、以前からオーガニック系のスーパーで見かけることはあったものの、その多くは低カロリー食品、いわゆるダイエット食品として販売されている。健康や栄養に強い関心を持つ人であれば知っている場合もあるかもしれないが、私の周りでは、こんにゃくを食べたことがあるという人はほとんどいない。
私にとってこんにゃくといえば、おでんや田楽、刺身など、種類も食べ方も豊富で、時々食卓に登場する名脇役的存在だ。しかし、場所が変わると、日本で当たり前に食べられている食べ方を再現するのはなかなか難しい。フランスでは、こんにゃくは食物繊維が豊富であるなど栄養や健康面が強調され、消費者の知識欲を満たすことが優先されている。そのため、私が知るこんにゃくの楽しみ方とは大きく異なっているのだ。
子どもたちの誕生日会で大ヒット!
ところが、自分が結婚し、子供が生まれたことで、このこんにゃくがフランスで意外な形で受け入れられることを発見した。それは、子供の誕生日会での出来事だった。フランスの子供の誕生日会は、日本以上に家族総出で準備する一大イベント。テーマを決め、飾り付けをし、招待客のことを考えながら数日前から準備を進める。その中で毎回悩ましいのが、当日出すおやつの選択だ。
パリは多様な宗教や文化が交わる街で、子供に人気のグミも豚由来のゼラチンが使われていたり、卵や乳製品にアレルギーを持つ子も少なくない。そのため、誕生日ケーキ以外に、できるだけ多くの子供が安心して楽しめるおやつを用意することが求められる。
そこで私が思いついたのが、「日本らしいものであれば、子供たちに喜ばれるかもしれない」というアイディアだった。アジア系食材店で見つけたのが、小袋に入って少しずつ吸うタイプのこんにゃくゼリーだ。価格も手頃で、ぶどう、ピーチ、オレンジといったフレーバーがセットになっており、子供にとっても馴染みやすいものばかり。
パーティー当日、子供たちは興味津々で「これは何?」と質問してくる。私は「こんにゃく芋という植物からできたゼリーで、ジュースのような味だけれど、おやつとして楽しめるよ」と説明すると、すぐに手を伸ばす。一口食べるや否や、「美味しい!」と言って目を輝かせる。「全部の味を食べたい!」「もっとないの?」と、気づけば、こんにゃくゼリーはあっという間に消えていた。
さらに驚いたのは、こんにゃくゼリーの余波が親の間にまで広がったことだ。自分たちは食べていないにもかかわらず、子どもたちが家に帰ってからその感想を伝えているらしく、「あなたのパーティーで出していた、日本のフルーツジュースみたいなおやつのことを、ずっと話しているのよ。一体どんなモノなの?」と声をかけられた。また、別の友人の親からは、「今度買いに行きたいので、そのお店の住所を教えてほしい」と頼まれる場面もあった。
小さなブームが生まれた瞬間
そのとき、こんにゃくゼリーが小さなブームを生んだことを実感した。日本では当たり前の食品でも、フランスでは新鮮な驚きとして受け入れられることがある。このように、まだフランス人の目には留まっていない食材や食品も、少しの工夫や導線次第で、日本の新しい美味しさとして受け入れられる可能性は十分にある。
長年パリで暮らすからこそ得られる現地の食文化の視点を生かしながら、今後も、パリの人々に新しい食の発見を届けられるよう、日本の定番食品を紹介してみたいなと思っている。









