海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第5回のテーマは、「なぜアメリカの首都ワシントンDCで、日本の文房具が人気を集めているのか?」。
デジタル化が進み、仕事でも私生活でもスマートフォンやパソコンが欠かせない現代社会。その中で今、ワシントンDCでは、日本の文房具が静かな注目を集めている。
ワシントンDCで最も日本の文房具が集まる店
ワシントンDCの歴史的かつ都会的なエリアにある文房具店「ジェニー・ビック」は、地元で長く親しまれている人気店だ。店内には、ボールペンやノート、カレンダー、ハンドメイドの革製日記帳やスケジュール帳、さらにはワシントンDCにちなんだ商品まで幅広く並んでいる。
この店の特徴は、全商品の約3割を日本の文房具が占めている点だ。ワシントンDCで、最も多く日本の文房具を取り扱っている店舗でもある。
店内を見渡すと、「やることリスト」「日記」「手帳」「ジェルボールペン」など、日本語表記の商品が数多く並んでいるのが一目で分かる。さらに、シールや便箋、カード類などの日本の文房具も充実している。
店員に話を聞くと、日本の文房具は圧倒的な人気を誇っているという。理由として挙げられたのは、低価格、包装の美しさ、そして商品のユニークさだが、中でも品質の高さは群を抜いていると強調する。
特に人気が高いのは、日記帳、スケジュール帳、ノートの3点。日本製の紙について「とても美しく、きれいで、質が高い」と語り、インク、特にカラーインクがにじまない点や、長く使える耐久性を評価していた。
この店員自身も、日本製ノートをスケッチブックとして使っているという。どの種類のペンを使っても紙にインクがにじまないことに、今でも感動しているそうだ。
購入者は日本人ではなく、一般の社会人
興味深いのは、「ジェニー・ビック」を訪れる客層だ。店内で日本人観光客や現地在住の日本人の姿を見かけることは、ほとんどないという。日本が大好きで何度も訪れているタイプのアメリカ人も、決して多くはない。
学生が来店することもあるが、最も多いのは、ワシントンDCで働く一般の社会人だという。日本文化への強い関心がなくとも、日本の文房具を日常的に使っている人が増えている。
デジタル社会の中で進む「紙とペン」への回帰
店員が感じているのは、近年の生活習慣の変化だ。「この数年、ワシントンDCでは、スケジュールや日記をスマホやパソコンではなく、紙とペンで書く社会人が増えています」と話す。
以前は売れ残りが出ていたスケジュール帳も、ここ数年は在庫が余ることがほとんどなくなったという。背景にあるのは、デジタルデトックスへの意識の高まりだ。
「忙しい人たちは、心を落ち着かせる時間や空間を求めています。その時間を、できるだけ平穏に使いたい。そんな時に、紙にインクがにじむようなストレスは感じたくないのだと思います」
今では、日本と縁もゆかりもないワシントンDCの社会人が、日本製の手帳やノートを購入する光景は、ごく自然なものになっている。
実際に客に話を聞くと、紙にペンで日記を書くことが、一種の流行になっていることが分かる。1日の大半をスマートフォンやパソコンと向き合って過ごす中で、思考をリセットするため、毎朝あえて紙に日記を書くという人もいた。
「細部までこだわりがある日本の文房具を使うと心が落ち着きます。マインドフルネスのためには最適です」
日本の文房具は、単なる筆記具ではなく、心を整えるためのツールとして受け止められている。
「ジェニー・ビック」では、テーマに特化した日記帳も販売されている。マインドフルネスに関する言葉が散りばめられたものや、不動心を目指す考え方が書かれた日記帳などだ。
店員は、「世界が混沌としている今、人々はより具体的なメッセージや意味を持つグッズを求めているのかもしれません」と話す。
ワシントンDCではまだ数少ない存在──それでも広がる日本文房具
日本の文房具は、他店でも見られる。グルメとショッピングの街・ジョージタウンにある文房具チェーン「ペーパーソース」では、日本の文房具は「ジェニー・ビック」ほど多くはないものの、和紙を素材にした「和紙テープ」が強い存在感を放っている。
日記やスケッチブックのコラージュ、ラッピングなど用途が幅広い和紙テープは、アメリカでも非常に人気だ。
市場調査会社「マーケットリサーチアンドニュース」によると、アメリカにおける和紙テープ市場はこの数年で急成長している。その背景には、日記やスケジュール帳を自分仕様にカスタマイズしたいという消費者意識の高まりがあるという。同社によると、和紙テープは、その見た目の美しさと幅広い用途方法により、学生、アーティスト、社会人らからの人気を幅広く得ている。
「ペーパーソース」の向かいには、アメリカ最大の書店チェーン「バーンズ&ノーブル」もある。ここでも日本製の鉛筆やボールペンが販売されているが、他国の商品と並び、特別な位置づけが与えられているわけではない。
ワシントンDCで日本の文房具を扱う店は、ニューヨークやボストン、西海岸の都市に比べると多くはない。MUJIもDAISOもここには展開していないため、地元の人々が日本の文房具を実際に手に取って選べる機会は限られている。だからこそ「ジェニー・ビック」のように、日本の文房具を丁寧に紹介する店の存在が際立つ。
ネット通販でも手軽に入手できる日本の文房具だが、ワシントンDCの社会人たちは、実際に手に取り、触れて、こだわりや生活習慣に合うかを確かめることを大切にしている。そのため、日本の文房具は今後も、単なる筆記具を超えた「暮らしを整えるツール」として、アメリカの暮らしの中で静かに、しかし確実に存在感を増していくだろう。









