海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第3回は、「グアムで大人気の“激辛”回転寿司」。


常夏の島グアムに、地元客で連日満席になる回転寿司店がある。観光客も現地日本人の姿もほとんどないその店で、地元の常連客に支持される寿司とは、一体どんな寿司なのか。グアム在住30年の筆者が、“都市伝説級”とも呼べる、その異端な回転寿司店に潜入した。

  • グアムで地元の常連客を魅了する回転寿司店「Rotary Sushi(ロータリー寿司)」

    グアムで地元の常連客を魅了する回転寿司店「Rotary Sushi(ロータリー寿司)」

今回訪れたのは、「Rotary Sushi(ロータリー寿司)」。

グアムの観光の中心・タモン湾から約2km。リゾートエリアを外れた高台に位置するこの店の周辺には、ホテルも土産物店も映えスポットも一切ない。観光客が皆無ということは、店内はガラガラか……と思いきや、17時の開店直後に店内はあっという間にほぼ満席に。そして客はすべて地元民!

  • オーナーシェフのMichi氏(右)と総支配人のJon氏(左)/画像提供:Rotary Sushi

    オーナーシェフのMichi氏(右)と総支配人のJon氏(左)/画像提供:Rotary Sushi

さて、何を頼もうかと広い店内を見渡せど……メニューがない。紙メニューもタブレット端末も壁にも何も書かれていない。恐る恐るスタッフに尋ねると、「ほとんどのお客さんは常連で、週に8〜10回来ますから」と、衝撃の一言が返ってきた。

週8~10回? つまり、昼も夜もこの店で済ませるツワモノもいるということ。彼らにとってここはもはや外食先ではなく、生活インフラの場か、第2の自宅だ。

9割以上が頼む「ランニャソース」をかけた寿司とは…

レーンを流れる寿司を眺めていると、日本の回転寿司店では見たことのない、“攻めすぎ感”あふれるビジュアルの寿司ばかりが廻っている。

  • グアムで超激辛に進化した回転寿司が大人気! 常連の9割以上が注文する「激辛ソース寿司」を実食レポ

    回転レーンを、彩り鮮やかな寿司が廻る

カウンター内で寿司を握っている寿司職人におすすめを訊いたところ、「当店オリジナルの、名づけて〈ランニャソース〉がかかった寿司ですね。9割以上の人が頼みますよ」とのこと。

ランニャソース? この店オリジナルというから当然だが、初めて聞く言葉である。「ランニャ(Lanya)」とはグアムの言葉・チャモロ語で「強烈な怒り」を意味したり、衝撃でキレた際に発するスラング。あえて日本語に訳すと「ブチ切れソース」とか「ふざけんじゃねえぞソース」となるだろうか。

名前からしてかなりヤバい予感がするが、とにかく「Spicy Tuna Inari(スパイシーツナいなり)」の皿を取った。ちなみにグアムでは、魚介類の具が乗ったいなり寿司はめずらしいものではない。

  • ロータリー寿司特製〈ランニャソース〉がたっぷりかかった「スパイシーツナいなり」

    ロータリー寿司特製〈ランニャソース〉がたっぷりかかった「スパイシーツナいなり」

口に入れた瞬間、あれ、甘い!? そう思った直後、辛さが一気に牙を剥いた。辛い、いや違う。痛い!! これは寿司なのか? それとも新手の罰ゲームか?

淡いオレンジ色のランニャソースは、この店が独自開発したもの。材料も配合も非公開だが、日本の激辛麺の代表格「蒙古タンメン中本」の中でも究極とされる「北極ラーメン」や、激辛ソースの代名詞「タバスコ」とも比べものにならないほどの体感“辛度”。(※筆者の実感です)

しかし、ココナッツ由来のまろやかなコク。その奥に、確かな旨みがあり、ただ辛いだけではないところが厄介だ。辛くて口が痺れる。喉が焼けて痛い。もう無理、限界だ。と思っているのに、なぜか次の皿に手をのばしてしまう。これが注文率9割超えの正体か。完全に脳がバグる、β-エンドルフィン(脳内麻薬)中毒だ。

  • 炙りサーモンにランニャソースをかける職人

    炙りサーモンにランニャソースをかける職人

気づけば激辛ランニャソースの深淵へ

かくいう筆者も気づけばランニャソースの激辛沼にどっぷりハマっていた。以下、口にした品々を列挙していこう。

  • 「Aburi Tuna(炙りツナ)」

    「Aburi Tuna(炙りツナ)」

「Aburi Tuna(炙りツナ)」。炙ったツナにしょうゆダレ+ランニャソース+揚げにんにく+トビコ。

  • 「Salmon & Crab Roll(サーモン&クラブロール)」

    「Salmon & Crab Roll(サーモン&クラブロール)」

「Salmon & Crab Roll(サーモン&クラブロール)」。ランニャソースで和えたかにカマと野菜を巻き、さらに炙ったサーモンをのせて、追いランニャソース。

  • 「Spicy Poke Inari(スパイシーポキいなり)」

    「Spicy Poke Inari(スパイシーポキいなり)」

「Spicy Poke Inari(スパイシーポキいなり)」。一口大に切ったマグロをしょうゆと酢ベースのスパイシーなタレで漬けた、グアムスタイルのポキを詰めたいなり寿司。

  • 「Firecracker Roll(ファイヤークラッカーロール)」

    「Firecracker Roll(ファイヤークラッカーロール)」

「Firecracker Roll(ファイヤークラッカーロール)」、つまり「爆竹ロール」は、海老天+スパイシーアヒ(マグロ)+アボカドに、ランニャソース&天かす。名前が表す通り、口の中で爆竹が炸裂するように辛い。

以上、どれも悶絶級の辛さのオンパレードだが、いずれも旨い。

ラスボス「ダイナマイトロール」降臨!

これでもかというほど激辛寿司のオンパレードに、筆者の口内コンディションは未知の領域へ突入。そしていよいよラスボス、「Dynamite Roll(ダイナマイトロール)」が登場。大量の刻みわさび、マグロ、アボカドを巻いた寿司に、わさびクラスト+唐辛子ベースのランニャソース、さらにわさびベースのダイナマイトソースの2種類を大量投下した、まさに“最凶”の激辛寿司だ。

  • 【写真】最凶の激辛寿司「ダイナマイトロール」。わさびクラスト+唐辛子ベースのランニャソースなど激辛ソース2種が大量投下されている

    辛さ最凶寿司がこちら、「Dynamite Roll(ダイナマイトロール)」

「わさびクラスト」とは通常「練りわさびに砕いたわさび豆またはパン粉、マヨネーズなどを混ぜ合わせて作るもの」だが、この店のものはオリジナルのため材料も配合も非公開。

地元民はここにさらに、グアム産の唐辛子Donne Sali Peppers(ドニ・サリ・ペッパーズ)で作られる、万能激辛ソースDinanche(ディナンシェ)の粉末を追いがけする。こちらのこの店のオリジナルではなく市販のものだ。

「辛くない料理はおいしくない」グアムの食文化は激辛が日常

ではなぜこの激辛寿司が、グアムの地元民に人気なのか。理由は単純。「辛くない料理はおいしくない」と公言するほどグアムの人たちは激辛好きだからだ。

彼らの日々は激辛とともにある。庭では赤っぽいオレンジ色をした凶暴な辛さの唐辛子「ドニ・サリ」を育て、それにココナッツなどを加えて作る万能ソース「ディナンシェ」を常備。

  • グアム産の唐辛子「ドニ・サリ」をベースにした「ディナンシェ」ソースは、日本におけるしょうゆ的存在の、「万能調味料」だ

    グアム産の唐辛子「ドニ・サリ」をベースにした「ディナンシェ」ソースは、日本におけるしょうゆ的存在の、「万能調味料」だ

レストランでは刻んだ「ドニ・サリ」と「練りわさび」がドーンとテーブルに置かれ、客はそれらを好きなだけ盛る。そんな島で生まれ育った地元民は辛さ耐性がMAXなのだ。

そのグアムの唐辛子「ドニ・サリ」の辛さがまた、半端ない。

  • グアムで栽培されているドニ・サリ

    グアムで栽培されているドニ・サリ

各国の唐辛子の「辛さ指標・スコヴィル値(SHU)」でみると、

•ハラペーニョ(メキシコ):2,500〜8,000SHU
•ホンゴチュ(韓国):20,000〜50,000SHU
•鷹の爪(日本):40,000〜50,000SHU
•ハバネロ(メキシコ):100,000〜350,000SHU
•ドニ・サリ(グアム):100,000〜450,000SHU

「最強唐辛子」として名高いハバネロをもしのぐほどの辛さなのだ。ちなみに……。

•北極ラーメン:約1,600SHU
•タバスコ:約2,500SHU

辛さの桁が違う。しかも2桁!

味を追求する「ロータリー寿司」には、ハイレベルな“普通の寿司”もある

  • 刺身盛り合わせ(時価)

    刺身盛り合わせ(時価)

ついつい激辛ばかりに目がいってしまうが、実はロータリー寿司は、普通の寿司もめちゃくちゃ旨い。空輸状況に応じてネタは変わるが、いずれも鮮度抜群でハイレベル。刺身の盛り合わせは絶品だ。一皿あたりの価格も最安2.80ドル(約440円)〜最高22ドル(約3,450円)と本格派。

  • 店内にメニューはないと思っていたが、右下のQRコードから簡易メニューが見られることに、この記事を執筆中に気づいた

    店内にメニューはないと思っていたが、右下のQRコードから簡易メニューが見られることに、この記事を執筆中に気づいた

グアムでの生活も約30年。激辛文化には慣れたつもりでいた。だが江戸っ子の血を引く筆者 vs ランニャソース。結果は完敗。だが、不思議と清々しい。

……また来よう。次は負けないぞ!