コミュニケーションアプリ「LINE」とポータルサイト「Yahoo! JAPAN」の運営会社同士が統合し、2023年に誕生したLINEヤフー。同社は国内有数のユーザー基盤と200を超える多様なサービスを通じて、人々の暮らしと企業のビジネスを支えています。
そんな中、広告などの法人向け事業を率いるのがコーポレートビジネスカンパニーCEO・池端由基氏。広告の枠を超え、企業活動全体を支援する「Connect One構想」の真意と、キャリアを通じて池端氏が大切にしてきた価値観に迫ります。
企業のビジネス成長を支える、"広告"を超えた支援のかたち
LINEヤフーのコーポレートビジネスカンパニーは、企業の事業活動を幅広く支援することを目的とした組織です。メイン事業である広告領域では、LINE公式アカウントやディスプレイ広告、検索広告などのさまざまなプロダクトを運営しています。
日常生活の中でLINEを通じて使われている、会員証やモバイルオーダー、順番待ちサービスなどもその一部にあたります。
「これらの広告・マーケティングソリューションに加え、近年では『Connect One構想』という新たなコンセプトを掲げています。これは、LINEヤフーが保有するさまざまなアセットを連携させ、LINE公式アカウントを起点に広告、顧客体験(CX)やDX、CRM、販促、コマース、データ分析といったビジネス支援をワンストップで提供しようというものです。企業と個人の接点を一元化することで、お客様との持続的な関係性構築をサポートすることを目指しています」
また、同カンパニーのもう一つの特徴は、"広告"という枠にとどまらない点です。かつてのデジタル広告は、ユーザーデータを活用して効果を可視化する「データドリブン型マーケティング」が主流でしたが、現在は個人情報保護の強化などにより、従来の手法だけでは通用しなくなりつつあります。
さらに、ユーザーの購買行動自体も変化しており、デジタル広告だけで企業と消費者をつなげるには限界が見え始めています。
そうした市場環境の中で、LINEヤフーは「広告」だけではなく「ビジネス」そのものの支援へと舵を切っているのです。
「今年度からは、広告に限らない多様なプロダクトやソリューションの展開も加速していく予定です。サービスの多様化やユーザー層の細分化が進むなか、単一的な広告手法だけでは立ち行かなくなるという認識から、こうした取り組みに注力していく方針です」
"当たり前"をつくるものづくりを目指して
池端由基氏が社会に出て約16年。
現在はLINEヤフーの上級執行役員として広告事業を統括していますが、原点は意外にも化学の世界にありました。大学では化学を専攻し、当初は研究職を目指していたといいます。しかし、就職活動中に偶然訪れたサイバーエージェントの説明会が、人生の大きな転機となりました。
「藤田社長からいただいた著書を帰り道に読んで"インターネットって面白そうだな"と思ったんです。自分の中では"ものづくり"って物理的な製品のことだと思っていましたが、インターネットの中でも、それは可能だと気づきました」
研究職にもロマンを感じていたものの、「社会の"当たり前"を変える仕事がしたい」と考え、サイバーエージェントに新卒入社。広告代理店としての印象が強い同社で、池端氏はメディア部門に所属し、マネタイズの仕組みづくりを担当しました。
その後、2013年にLINE株式会社(現LINEヤフー)に入社。当時、LINEの国内ユーザー数は2,000~3,000万人規模で、まさに成長のまっただ中でした。
「LINEというサービスには、生活に溶け込む"新しい常識"をつくる可能性を感じました。より多くの人に届く"ものづくり"がしたかった自分にとって、とても魅力的なフィールドだったのです」
LINEでも引き続き、メディアづくりやマネタイズに携わりながら、企業を支えるサービス開発に注力。入社からわずか1~2ケ月後には、LINEが世界で1億ユーザーを突破するなど、大きな転換期に立ち会うこととなりました。
複数の接点を"ひとつ"につなぐ - 「Connect One」が生む新しい価値
LINEヤフーが掲げる「Connect One構想」は、同社が提供するサービスを、ユーザーとの一貫したコミュニケーション体験としてつなぎ合わせる取り組みです。
ニュースや検索、オンライン・オフラインでの購買など、日常の中でユーザーが行き来する行動の裏には、複数のサービスが介在しています。
「たとえば、朝起きてニュースを読み、気になった情報を検索し、そのままネットで商品を購入する。この一連の流れは、かつてであれば広告を通じてトラッキングし、ユーザーの行動を把握することができました。しかし、近年では個人情報保護の強化により、その流れを第三者が追跡することは難しくなっています。
そんな中で、LINEとヤフーの統合によって構築された一体型プラットフォームこそが、今の時代に対応した“新しい常識”を支える鍵になります。同一ユーザーがニュースを読み、検索し、購入に至るまで──その断片的になりがちな行動履歴を、自社のサービス内で自然につなぎ、企業のビジネス支援に活用できるのです」
LINEヤフーでは、そうした一連のユーザー行動を「見えないものを、分断させずに見えるようにする」ことを重視しています。
それは前述したように法制度が厳格化するなか、自社内で完結するからこそ、実現できる方法です。さまざまなコンテンツの閲覧、検索行動、購買といった多様なタッチポイントがひとつのサービス群に統合されていることが、同社ならではの大きな強みといえるでしょう。
日常に溶け込む「コミュニケーションアプリ」というインフラを武器に
LINEヤフーが持つ"オンリーワン"な価値のひとつに、言うまでもなく「コミュニケーションアプリ」の存在があります。
LINEは、日本国内において、老若男女問わず日常の連絡手段として定着しており、非常に多くの人々が友人などと連絡を取るときに自然と使われるツールです。
「この"当たり前の存在感"こそが、他社では置き換えにくいユニークなポジションを築いているのです。そして、その『コミュニケーションアプリ』を企業とユーザーをつなぐB2Cのインフラとして機能させているのが、LINE公式アカウントです。
『Connect One構想』の中心にもこのLINE公式アカウントが据えられており、検索や広告、購買、CRM、DX支援など、多岐にわたる企業活動をLINE上で完結させることが可能になります」
さらに今後は、「LINEミニアプリ」と呼ばれるアプリ内アプリケーションサービスにも注力していく方針です。これは、LINEプラットフォーム上に企業が自社のアプリ機能を展開できる仕組みであり、LINEアカウントさえあればユーザーは簡単に利用できるものです。
「まるでLINEがひとつの"OS"のように機能し、新たなビジネスの起点になるのです。これだけ多数の高頻度利用サービスを自社で抱える企業は、日本国内では当社のみであると自負しています。LINEとヤフーという2つの巨大ブランドを抱える運営会社が統合したことで生まれたシナジーこそが、他社には真似できない"オンリーワン"の提供価値として、今後ますます企業のDX支援やマーケティングの中核を担っていくことを目指しています」
"社会に役立つ実感"を軸に、ビジネスの意味を問い続ける
池端氏がビジネスの現場で一貫して大切にしているのは、「社会にどう貢献できているか」という実感です。現在、LINEヤフーで推進している「Connect One構想」も、広告という枠を越えて企業のビジネス全体を支援するための仕組みであり、そうした想いに根差したものです。
「もともと、統合前からこうした取り組みをやりたいとは思っていました。ただ、環境的に難しい面が多くて。LINEとヤフーが一つになったことで、"これはやりきれるかもしれない"と思えるようになりました」
とはいえ、実現には組織や領域を横断する推進力が必要です。ビジョンが大きいがゆえに、部署や機能が分かれている部分を動かすには、明確な戦略だけでなく、人を巻き込む力が求められます。
池端氏は、「ゴールに共鳴してくれる仲間と一緒に考えていきたい」と力説します。そうした強い思いに共感する人々が社内の組織を超えて集まり始めており、実現に向けた動きが広がり始めているといいます。
「さらに今後は、広告ビジネスだけではなく、飲食業や美容室といった実店舗ビジネスの支援にも注力していきたいと考えています。ただし新たなマーケットへの挑戦には、業界特有の知見が必要になります。だからこそ、経験のある人、思いのある人とともに歩んでいきたいので、そうした人材を強く求めているのです」
また、B2Bの事業であっても、その先にいる生活者を想像しながら価値を提供していく姿勢も大切にしていると言います。コロナ禍を経て、顧客とのつながりの重要性が一層浮き彫りになった今、B2B2Cのようなモデルであっても「社会とどうつながり、どう役立てているのか」を実感できることに、池端氏は強い意義を感じているのです。
"飽きない自分"をつくるために問い続けてほしい
池端氏が若い世代に伝えたいのは、「いかにして自分を飽きさせないか」を意識し続けてほしいということです。どれだけ情熱を持って取り組んでいても、人は必ず慣れや飽きに直面します。だからこそ、「自分が飽きないためにはどうしたらいいか」を常に問いかける姿勢が大切なのだといいます。
「私自身、若い頃から"飽きない工夫"を意識してきました。たとえば、日々の仕事の中に自分なりの面白さを見出したり、小さな目標を立てたりすることで、継続性や成長スピードに大きく差が生まれると思っています」
現在はマネジメントの立場として、部下を"飽きさせない"ための工夫も意識しているそうです。誰もが同じ動機で働いているわけではなく、社会への貢献、挑戦意欲、報酬など、価値観はさまざま。だからこそ、一人ひとりに合った挑戦の場を設け、「このチームで続けたい」と思ってもらえる関係性を築くことを大切にしているのです。
「私自身は、強そうな相手には立ち向かいたくなるタイプです。でも、苦しんでいる人や弱い立場にいる人には、ちゃんと手を差し伸べられるチームでありたい。そういう価値観を持った人に、ぜひ来てもらえたら嬉しいですね」
執筆:小池晃臣
写真:佐藤登志雄
編集:学生の窓口編集部