(写真左:冲永佳史氏 写真右:南里彩子氏)

金融リテラシーの重要性が高まっている現代において、帝京大学は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)との連携により、学生向けの金融教育プログラムを展開しています。帝京大学理事長とMUFGの金融経済教育担当に、金融経済教育の意義について伺ってみましょう。

加速する金融リテラシーの重要性

現代社会において、金融リテラシーの重要性がかつてないほど高まっています。日本でも、少子高齢化による将来的な社会保障負担の増大を踏まえ、国を挙げて「貯蓄」から「投資」へのシフトを加速させています。NISAやiDeCoといった制度が開始されたのみならず、現在は高校の家庭科授業で金融教育が義務化されており、若年層も早い段階から金融に関する基本的な知識を学ぶ機会が増えているのです。

これをさらに後押しするのが、情報環境の変化です。インターネットやメディアを通じて金融・株価の情報を即座に入手できるようになり、またゲームやシミュレーターを通じて簡単に金融を体験できます。さらに近年はAIの発達により、だれでも専門的なアドバイスを得ることが可能になっています。

 このような背景を踏まえ、帝京大学は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)との連携により、学生向けの金融教育プログラム「Money Canvas in T-Day(マネーキャンバス イン ティーデイ)」を展開しています。
その狙いはどんなところにあるのでしょうか。

変化する社会における金融教育の意義、実践的な学習アプローチ、そして産学連携による次世代人材育成について、学校法人 帝京大学 理事長 兼 学長を務める冲永佳史氏、MUFG 常務執行役員 グループ Deputy CSO 兼 総務部副担当 金融経済教育担当の南里彩子氏に伺いました。

これからの大学生に求められる金融経済教育とは?

――社会や技術が大きく変化するなかで、いま、大学生にはどのような金融リテラシーが求められているのでしょうか?

南里:学生時代は、今後の人生に向けた準備期間です。金融経済教育を通して、お金のことを知り、お金と良い関係を作る基礎を学んでいただきたいなと私は思っています。
みなさん、実際に在学中にアルバイトで給与を得たり、社会保険料を払ったりしますよね。そしてクレジットカードを作ったり、NISAを始められたりする方もいるでしょう。お金の世界が拡がっていくんです。

そんなとき、人の受け売りではなく、自分で正しい情報を入手し、賢い判断をして自分で決めていくという体験が非常に重要だと考えています。ですが、フィッシング詐欺を初めとして多くの落とし穴が存在するのも金融ですから、すべてを信じるのではなくて、自分の判断で取捨選択して選んでいく能力を身につけていただきたいと思うのです。

――現代の学生の金融リテラシーは、過去と比べてどう変化していますか?

南里:金融経済教育の現場に行くと、基礎知識はすごくあると感じますね。現在は高校の家庭科授業において金融教育が義務化されているため、そこで学んだことも大きいと考えています。金融用語への理解度も高く、自分が高校生だったころと比較すると格段違うなと思いました。ニュースで株価が取り上げられることも増えましたし、投資シミュレーションや投資ゲームで触れる機会も増えています。お金に関する情報が身近になっているんだと思います。

冲永:我々が小さい頃から比較すると、情報量はまったく違いますし、それこそ市場環境もきちっと整備されているじゃないですか。昔の株なんてそれこそ博打のような側面もありましたよね。いまは上場するための基準も厳しいですし、極端な変動が起きないような制度を導入したり、国際的な協議も相当進んでいます。金融が持ってる機能自体が高度化していることは確かですから、我々がそれをどううまく使いこなすかという時代になってきていると思います。

――金融知識を身につける上で、身につけるべき基礎能力についてお聞かせください。

南里:金融知識をしっかりと身につけるのは、大人でも難しいでしょう。そのバックグラウンドとして大切なのは、本質を見抜く力だと思っています。
帝京大学の教育指針には「開放性」というポリシーがありますよね。いわば、大局観を身につける必要性を説いた言葉です。もちろん、すぐに身につけられるものではないと思いますけれども、自分で正しい知識を得て、賢い判断をしていく力がバックグラウンドとして必要だと思います。

――帝京大学の教育方針について触れられましたが、学生はどのように学習すべきでしょうか?

冲永:南里さんがおっしゃる通り、学生時代というのは社会で活動するうえで必要な知識やスキルを身につける期間であることに間違いありません。ただ、質の高い情報がある程度入手できる土壌ができてきた一方、危険な情報も氾濫しているので、取捨選択をきちんと行うことが重要です。同時に、ネット社会自体のリテラシーも向上させなければ、社会が安定して活動することができないと感じています。

帝京大学専用の「Money Canvas in T-Day(マネーキャンバス イン ティーデイ)」

――帝京大学では具体的にどのような金融教育が行われていますか?

冲永:古典的な金融工学を含めた授業は当然用意しており、八王子キャンパスでは科目として履修できます。また、ファイナンシャルプランニングの資格取得講座もありますし、最近は各金融機関からの特別講座も展開されています。こういった授業によって、ある程度前段となる知識が得られるでしょう。これを実社会やシミュレーションと照らし合わせて補完し、学んでいくことになろうかと思います。

例えば、起業家教育に関してはビジネスコンテストのようなイベントや、学会のコンテストに挑戦できるような仕掛けも行っています。インキュベーションセンターも作っておりますし、学内全体で後押しを進めています。ただNISAが予想以上に速く浸透し、それなりに高いレベルの金融リテラシーが一般化する時代になってきていますから、それをうまく使っていくための教育は当然していかなくてはなりません。

今般、MUFGさんにもご協力いただいて、学生が自分の口座をきちっと管理できる「Money Canvas in T-Day」という新機能を導入しました。これは、帝京大学公式ポータルアプリ「T-Day」と「Money Canvas」を連携させたサービスです。こういったものを積極活用し、身近な自分の生活、大学における専門的な学び等を通じて、徐々に将来の生活経営を高度化していく訓練をしてほしいと思います。

――「Money Canvas」はどのようなコンセプトで提供されているのでしょうか?

南里:Money Canvasは『ひとつのプラットフォームで、さまざまな金融機能を選択できるように』という思いで提供しております。家計管理から口座管理、保険サービスなど、ワンストップでできる仕組みが特徴です。「Money Canvas in T-Day」も基本機能は同じですが、学生さんからは証券会社に直接申し込みができないなど、一部仕様の変更を行っています。

単に知識をインプットするだけでなく、実体験に近いものを通して金融に興味を持ってもらうことがコンセプトです。自分で考えながら実際に使ってみて、体験として納得することが大切ですから、シミュレーション形式で探究型学習が行えるようにしています。さらに、金融に関する学びやサイバーセキュリティのみならず、学生さんの身近な話題を届けるコラムも用意しました。

「Money Canvas in T-Day」は帝京大学さま専用にカスタマイズしておりますので、自分のものだと思って使い倒していただきたいですね。面白半分でもいいと思いますし、一般の方にも開放しているサービスですので、ぜひ親御さんにも興味を持っていただいて、会話のきっかけにしていただきたいです。

MUFGが帝京大学で起業体験プログラムを実施

――MUFGは帝京大学でどのような授業を行う予定なのでしょうか?

南里:この春より、金融経済教育と起業家の精神を掛け合わせた起業体験をしてもらうプログラムをスタートさせることになりました。すぐ上場しないといけないような壮大なスタートアップだけではなくて、自分の身近にある課題をどうしたら解決できるか、得たお金をどうやって社会に回していくかということを考える、体験型のゲームのようになっています。

仮に起業家を目指しておらずとも、起業という発想を持てる環境や疑似体験ができる仕組みを整えることは大事ですし、こういった学びの体系は今後ますます重要になると思います。

冲永:南里さんが仰るような学びの形態はますます重要になってきます。やはり企業さんの立場からも、学生に身につけてもらいたい能力やリテラシーは変わってくるでしょう。しかもその動きも速いものですから、共同してプログラムを開発しつつ、その時代時代に合わせた学習内容あるいは学習形態を取り入れ、学生に還元していくのは当然のことです。

学問的知見を蓄積するのは大学の役割ですけれども、学問的分析だけでは追いつくせない情報を一つひとつ拾って、仕事でどう活用できるかを考えられるのはそこで働く人たちです。学生はその中に入り込んでいくわけで、古典的な大学での学びとは違った角度の学びを常に提供していかなくてはならないと思っています。

――最後に、グローバル視点での日本の金融経済教育について所感をお聞かせください。

南里:金融経済教育について話していると、よく「日本は、なんとなくお金のことをストレートに語りにくい文化があるね」という話題になるんですよ。これは変えていかなくてはならないと思います。

欧米ですと『小さいときからの投資の話をされ、クリスマスプレゼントにファンドをもらって運用することで、自然に金融リテラシーが養われている』といった話も聞きますので、日本がグローバルベースで向き合うのはまだ難しいとは感じます。そんななかで、Money Canvasはいろいろな人とお金について話せるツールになると思うんです。

冲永:お金を扱うっていうことは別に卑しいことではなくて、世の中にお金のフローがないと物事は動かないわけですよね。いま、政府で財政問題が取り沙汰されていますけれども、さまざまなお金の流れの中で自分自身も生きてるわけです。しっかりとリテラシーを持っていろいろな視点から捉えていけば良いと思いますし、いまを生きる人たちにはそれが求められていると感じます。

――本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


文・写真:加賀章喜
編集:学生の窓口編集部

取材協力:
三菱UFJフィナンシャル・グループ
https://www.mufg.jp/
帝京大学
https://www.teikyo-u.ac.jp/
Money Canvas(マネーキャンバス)
https://moneycanvas.bk.mufg.jp/
帝京大学公式ポータルアプリ「T-Day」
https://www.teikyo-u.ac.jp/studentlife/life_support/T-Day