前回はデットファイナンスに関する公的統計についてピックアップいたしました。今回は信用保証協会の保証について、制度をあらためて概観します。信用保証は、融資や私募債の形態で金融機関からデットファイナンスを受ける際に、公的な機関である信用保証協会が保証人となる仕組みです。信用保証協会が提供する保証の全体像を知るためには、日本政策金融公庫のWebサイト内の「信用保険業務(制度一覧)」のページを参照します。
信用保証の契約先は信用保証協会なのに日本政策金融公庫のWebサイトに情報が掲載されている理由は、信用保険制度を通じて日本政策金融公庫が信用保証協会に対する保険を謂わば再保険の形態で引き受けているからです。2023年12月時点では当該ページ末尾の「保険制度の詳しい内容についてはこちら」のリンクをクリックすると「中小企業信用保険制度の概要」という資料を得られて、各々の制度について根拠法を含めて調べることができます。今回は令和5年10月1日版の「中小企業信用保険制度の概要」の情報をもとに話を進めます。
実務上、(信用)保証協会付き融資を「一般保証」「セーフティネット保証」「危機関連保証」もしくは「一般枠」「セーフティネット枠」「危機関連枠」の3種類に分類しますが、全て中小企業信用保険法に則って運用されています。最近話題の経営者保証が不要なスタートアップ創出促進保証制度(略称:SSS保証)は産業競争力強化法が根拠となっており、経営者保証が付くことが多い従来の創業関連の信用保証とは異なる保険が適用されるので、双方を同時に申し込むことができる一方で審査は別個のものとして受けることになります。
企業が一般保証を利用するとき「融資限度額2億8,000万円、うち無担保は8,000万円まで」と言われますが、中小企業信用保険法第三条に該当する普通保険の2億円と、第三条の二に該当する無担保保険の8,000万円の合計金額になっています。セーフティネット保証は通称で、法律上は経営安定関連保証と呼ばれます。第二条第五項で対象者が定義され、第十二条から第十四条に特例の内容が記載されています。第十八条で融資限度額は政令で定めることとされ、2023年12月時点では普通保証2億円・無担保保証8,000万円が一般保証とは別枠で付与されます。
危機関連保証は第二条第六項で対象者が定義され、第十五条から第十七条に特例の内容が記載され、第十八条で融資限度額は政令で定めることになっています。2023年12月時点では普通保証2億円・無担保保証8,000万円が一般保証・セーフティネット保証とは別枠で付与されますが、経済産業大臣が定める事由が生じていない(指定がない)ため利用できない状況です。危機関連保証については過去の記事「新型コロナ対応融資は何が新しかったのか」と「新型コロナ対応融資の契約面の特徴」にまとめてありますので、ここでは解説を省略いたします。
日本版SBIR制度(Small Business Innovation Research/中小企業技術革新制度)に関連して、SBIR指定補助金の交付を受けた企業が利用できる信用保証があります。SBIRの特別枠と呼ばれることもある制度で、中小企業信用保険法第三条の八に該当する新事業開拓保険を「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」の枠組みで拡張して、融資限度額が3億円に設定されています。
但し、融資限度額は別枠ではなく一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証の利用額と合算した上で判定されるので、注意が必要です。詳細はSBIRを紹介しているWebサイト内の「事業化のための支援施策」のページをご覧ください。
新型コロナウィルス感染症対応融資を利用する過程で、セーフティネット保証4号・セーフティネット保証5号という用語を知った財務担当者は多いと思います。番号が付与されていることから他にも類型が存在すると想像できますが、セーフティネット保証と呼ばれる経営安定関連保証は中小企業信用保険法第二条第五項において利用シーンが細かく指定され、8種類存在します。対象者は下記の通りです。
1号:民事再生手続開始の申立等を行った大型倒産事業者に対し売掛金債権等を有していることにより資金繰りに支障が生じている中小企業者。
2号:生産量の縮小、販売量の縮小、店舗の閉鎖などの事業活動の制限を行っている事業者と直接・間接的に取引を行っていること等により売上等が減少している中小企業者。
3号:突発的災害(事故等)の発生に起因して売上高等が減少している中小企業者。
4号:突発的災害(自然災害等)の発生に起因して売上高等が減少している中小企業者。
5号:(全国的に)業況の悪化している業種に属する中小企業者。
6号:破綻金融機関と金融取引を行っていたことにより、借入れの減少等が生じている中小企業者。
7号:金融機関の支店の削減等による経営の相当程度の合理化により借入れが減少している中小企業者。
8号:RCC(整理回収機構)等へ貸付債権が譲渡された中小企業者のうち、事業の再生が可能な者。
過去の各号の指定状況は、2022年8月に中小企業庁がまとめた資料「セーフティネット保証について」で知ることができます。2022年8月3日に内閣府の第137回提案募集検討専門部会にて関係府省提出資料として提出されたドキュメントです。解説記事が多い4号・5号以外について内容を転記しつつ、現状をシェアいたします。
セーフティネット1号:連鎖倒産防止
民事再生手続開始の申立等を行った大型倒産事業者に対し、売掛金債権等を有していることにより資金繰りに支障が生じている中小企業者を支援するための措置です。大型倒産事業者を告示で指定します。当該事業者に対して50万円以上売掛金債権等を有している中小企業者、もしくは、当該事業者に対し50万円未満の売掛金債権等しか有していないが、当該事業者との取引規模が20%以上である中小企業者が対象です。
過去の適用事例にはタカタの民事再生手続き開始(2017)・レナウンの再生手続開始(2020)があり、2023年12月現在の1号指定事業者リストには4社掲載されています。破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立てをした日が指定期間の初日となり、指定期間は1年です。直近の事例では報道から指定までのリードタイムが約2か月のパターン・約3か月のパターン・約7か月のパターンとばらつきがあるので、利用の可能性について知りたい場合はこまめに中小企業庁のWebサイトをチェックする外なさそうです。
セーフティネット2号:取引先企業のリストラ等の事業活動の制限
生産量の縮小、販売量の縮小、店舗の閉鎖などの事業活動の制限を行っている事業者と直接・間接的に取引を行っていること等により、売上等が減少している中小企業者を支援するための措置です。事業所の閉鎖等、事業者の取引制限を告示で指定します。当該事業者と直接もしくは間接的な取引を行っており、当該事業者に対する取引依存度が20%以上で、当該事業活動の制限を受けた後の3か月間の売上高等が前年同期比マイナス10%以上の見込みである中小企業者が対象です。
過去の代表的な事例は、さけ・ます類の流し網漁業の禁止(2016)・三菱自動車の生産縮小(2016)・日野自動車のエンジン生産停止(2022)で、2023年12月時点では「ALPS処理水の海洋放出に基づき諸外国政府が実施している日本国からの水産物の輸入を停止する措置」が指定されています。
セーフティネット3号:突発的災害(事故等)
指定地域内において、1年間以上継続して事業を行っており、災害等の影響を受けた後の3か月間の売上高等が前年同期比マイナス20%以上の見込みである中小企業者が対象です。
突発的な事故等により相当数の中小企業者に影響が出ている地域と業種を告示で指定するのですが、2023年12月時点で指定されている事象は無いです。過去の代表的な事例は、ナホトカ号流出油災害(1997)・有明海の海苔の不作(2001)・米国テロを契機とした被害(2001)です。
セーフティネット6号:取引金融機関の破綻
破綻金融機関と金融取引を行っており、適正かつ健全に事業を営んでいるにもかかわらず、金融取引に支障を来しており、金融取引の正常化を図るため、破綻金融機関等からの借入金の返済を含めた資金調達が必要となっている中小企業者が対象です。直近の代表的な事例は日本振興銀行の破綻(2010年)ですが、対象となる金融機関が列挙されている6号適用リストが公表されています。
セーフティネット7号:金融機関の経営の相当程度の合理化に伴う金融取引の調整
支店の削減等、経営の相当程度の合理化を実施している金融機関に対する取引依存度が10%以上で、当該金融機関からの直近の借入残高が前年同期比マイナス10%以上で、金融機関からの直近の総借入残高が前年同期比で減少している中小企業者が対象です。指定金融機関リストが半期ごとに更新され、例えば2023年7月1日から12月31日までの期間では11金融機関が対象となっています。
セーフティネット8号:金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡
金融機関からの直近の総借入残高が前年同期比で減少し、適切な事業再生計画を作成し、RCCに対する債務について返済条件の変更を受けている中小企業者が対象です。提出書類の例は東京都板橋区のWebサイトを参考にすると分かりやすいです。債権譲渡通知書が求められる点が特徴です。
融資の現場においては、一般保証・セーフティネット保証・危機関連保証をどのように使い分け、かつ、保証料を支払わない経営者保証付きの融資や無保証の融資と将来どのように組み合わせていくのか、常に考えることが財務担当者の仕事となります。 信用保証協会の保証に関する説明は以上です。次回は保証の最新動向について紹介いたします。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら