ゴールデンウィークの明けた翌々日、その噂を耳にしました。
それは、介入権限のある財務省がゴールデンウィーク前に、邦銀各行の財務省に介入担当として登録されている管理職を含むディーリング要員に、連休中、出勤命令を出していたというものです。
これが事実であれば、「為替介入の用意がある」とする麻生財務相の介入姿勢は本気ということになります。
ところが、5月13日の金曜日に、ルー米財務官は、日本の円売り介入の思惑を改めてけん制し、「構造改革などによる内需が必要だ」と主張しました。
加えて、同長官は、「一つの国が通貨安競争に踏み切れば、他国を巻き込んで連鎖的な動きになる」とも述べています。
さらに、ルー財務長官は、5月20~21日に仙台で開かれるG7財務相・中央銀行総裁会議では、「通貨安競争の回避を再確認する」と表明しました。
米国サイドとしては、ドル高で傷んでしまった、輸出産業の立て直しがあることも事実だと思います。
ちなみに欧米中銀は、相場が1,000ポイントぐらい動いたとしても、コメントすら出しません。
それが今回、米国がドル安政策を望んでいるのは、2014年中頃以来、その他通貨に対してドル高が急速に進行したため、たとえば、対ユーロでは、ユーロが不景気と言われながらも、米国はユーロ圏に対して貿易赤字だったほどです。
それは、イエレンFRB議長はじめ、地区連銀からも不満がでました。
しかし、ここに来て、米国の不満も我慢ができなくなっているようで、ドル安戦略を本格化してきています。
4月29日には、米財務省は為替報告書のなかで、日本、中国、韓国、台湾、ドイツの5カ国・地域の経済政策に懸念を示し、大幅な黒字を抱えていることを主な理由に、新設された監視リストに載せられました。
一方、日本では、黒田日銀総裁に、これ以上の円安を望まないと言わしめた125円から、たかだか20円にも達していない円高水準で、介入の警告を振り回す麻生財務大臣は、どうしたのかと思います。
ひとつには、アベノミクスがうまく行っていないということだと思われます。
2015年第2四半期以来、GDPな3期赤字継続、消費者物価指数も目標を大幅未達、そんな状況ですから、もしも、円高が進行して、株が急落しようものなら、アベノミクスは完全な失敗に終わります。
さらに、ここに来て、熊本地震により、消費税の延期に伴う歳入不足などを考えると、少なくとも、株は支えておきたいというのが本音なのではないかと思います。
さらに、タイミングの悪いことに、財務省は、12日、2015年度の国際収支速報を発表し、2015年の貿易収支はまだわずかとはいえ6,299億円と、2011年から5年ぶりに貿易黒字となりました。
つまり、まだまだ、強いドル売り圧力にはなりえませんが、2011年以来の貿易赤字という強いドル買い圧力は、もはやなくなったということです。
そして、最後に相場の不安定要因として、依然上げられることは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含む生保など機関投資家や銀行の為替ヘッジされていない外物(そともの、外債、外国株式)の存在です。
もちろん、金額も尋常ではなく、これなど、米系ファンドに嗅ぎつけられたら、どれだけ売り込まれるかわかりません。
相場には、いろいろな材料があり、それがまじりあっています。
しかし、そうした中で、どの材料が相場を一方向に持っていくフローがあるかを、見極めることで、初めて相場の方向性はわかってくると思います。
あえて、この場の材料で言えば、米国のドル安政策、本邦機関投資家や銀行のヘッジ売りの可能性、そして、それを誘発させようとする米系ファンドの売りあたりが、特に注目点ではないかと思います。
ドル/円は、基本的には、戻り売り方針で良いかと思います。
執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)
バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。