年末も押し迫って、今年がどうだったのかと言えば、結局、「ポピュリズム(大衆迎合主義)が進行した年」だったと思います。

今年はポピュリズムが進行

つまり、大衆の人気取りのために、大衆が受け入れやすい政策をとった年だったということです。トランプ米大統領にしてもそうですし、イタリア政府もそう、ドイツの移民反対を肯定する野党もそう、ブレグジットだってもともとそうだったわけです。

このポピュリズムは、確かに目先のカンフル剤あるいは満足感にはなりますが、結局、長い目では、社会の活力を削いで行くのだと思います。そして、活力の減退が、だんだん具体的に目に見えるものになってきているのではないでしょうか。

しかし、何と言っても活力減退の原因で大きいのは、トランプ大統領であることは、間違いないと思います。

彼のラスト・ベルト(錆びついた工業地帯、アメリカのイリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニアなど米国北部五大湖周辺の各州にまたがる時代に取り残された工業地帯)の復活のための貿易摩擦という経済政策が、世界中を振り回していると言っても過言ではないと言えます。

ただし、町のシャッター街復活に尽力するのは美談ですが、それに世界が巻き込まれているのは、正直おかしいと思います。

中国の肩を持つつもりはありませんが、良く中国もつき合っていると感じます。

それだけに、アメリカがつけ上がって、面子(メンツ)を重んじる中国人の堪忍袋の緒を切らせてしまったら、あとは米中だけの問題では済まないような混乱に世界は巻き込まれる恐れがあります。

そう考えると、すでにひたひたと、沈没する船からネズミ達が逃げるように、リスク回避のドル高円高が静かに始まっている可能性はあると考えています。

U.S.Dollar Indexの週足を見ると、ドル高がしぶといことがわかります。

  • U.S.Dollar Indexの週足(上がドル高、下がドル安)

ドル/円だって、これだけ他の通貨でドル高なのに、ドル/円の上値は重く、いかに円高かわかります。

  • ドル/円 週足

来年のキーは?

基本的に、ポピュリズムはさらに進行し、その中心的存在は、変わらずトランプ米大統領が担うのではないかと見ています。

彼の自国利益至上主義が、排他的な政策をとり、国際協調が軽視されるものと思われます。これに対する不満も膨らむこととなり、どこかでは衝突が生じるものと考えられます。

その中で最も考えられるのは、中国との衝突です。今、中国は、アメリカが大きなマーケットであるため、耐えるだけ耐えていますが、それだけに不満が爆発すると止まらなくなる可能性があります。

この二大国が、軍事的衝突に発展することは、さすがにないとは思いますが、かなり激しい非難の応酬にはなるものと思います。

いずれにしても、GDP第1位と第2位の国のいがみ合いは、すでに景気後退しつつある世界経済をさらに悪化させるものと思われ、世界的な株安を生むのではないかと見ています。

この状態から、世界が立ち直るためには、トランプ米大統領というひとりのモンスターから力を奪うことが必要になるように思います。やはり、秩序だったバランスが世界には必要です。

自国民の人気取りだけを狙って、国際協調を忘れれば、結局は、そのしっぺ返しは食うことになると思います。人間の勝手が気候変動を生み、その影響を人間が一番受けています。自国利益至上主義もまた、その影響を自国民が一番受けることになると思います。

特にニューヨーク株式市場は、マーケットの危機感をパニックとして教えてくれることは、過去にも何度もありました。

来年は、このニューヨーク株式市場の警鐘が、世界のポピュリズムという流れに冷や水を浴びせかけるのではないかと思います。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら